( 202862 ) 2024/08/18 15:17:20 0 00 (c) Adobe Stock
岸田文雄首相は14日、来月予定される自民党の総裁選に再選出馬しない意向を明らかにした。岸田氏を巡っては、政治資金問題などで辞任を求める声が高まっていた。早くも次の総裁には石破茂氏、小泉進次郎氏、高市早苗氏などの名前が上がっているが、経済誌プレジデントの元編集長で、作家の小倉健一氏は特定の人物を挙げる前に「菅元首相の復権を願いたい」と語るーー。
【動画】独占インタビュー“自民党のドン”茂木敏充幹事長「私が総理大臣になったら、日本こう変えたい」
岸田文雄首相が退任を発表した。8月14日、11時半からの記者会見で、岸田首相は「自民党が変わることを国民の前にしっかりと示すことが必要だ。変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ。来たる総裁選挙には出馬しない」と述べた。
岸田首相は、菅義偉氏が首相であった3年前、低支持率だった菅政権に対して「国民の声が届かない」と決めつけ、退陣へと追いやった。岸田首相自身も長らく低支持率が続いていたものの、辞めるそぶりは一切見せず、側近も岸田首相はやめないと、続投を主張していたので、永田町やメディアでは驚きが広がっている。
岸田首相の評価については賛否両論ある。元大阪市長で弁護士の橋下徹氏は「政治と金改革以外の政策の実行はかなり成果があったので残念だ」(X、8月14日)と高く評価できる部分があり、チャンネル登録者60万人以上のYouTuberであるKAZUYA氏は「岸田総理は政界のゴッホ。/多分いつか評価される。」(X、8月14日)として、死後に評価が高まった画家になぞらえて、岸田政権を高く評価している。
しかし、私はあまり高い評価はできないでいる。
まず、第一に、異次元の少子化対策で税金をドブにして、国債を発行し、増税をしたことだ。そして、少子化は止まるどころか、さらに深刻になっている。こうした結末は岸田政権のすべてに通底することだが、「対策」には大きく予算をとるのだが、「結果」が伴っていないのだ。
少子化対策の政策パッケージが出る前から結論は出ていたことだが、子育て支援をいくら分厚くしても少子化は改善されない。少子化の原因は、(1)日本人の晩婚化と(2)
未婚率の上昇でほぼ説明できる。さらに、発展途上国の出生率が高い理由は、(3)高等教育を受ける女性が少ないことと、(4)避妊をしていないためだ。
少子化を解決したいなら、この(1)(2)(3)(4)のどれかに引っかかっていなければならないということだ。日本社会で(3)(4)の政策を実施するのは人権問題に発展するので、不可能であるが、少なくとも(1)(2)を改善する政策以外は少子化対策に繋がらないのである。
少子化対策に大失敗した韓国の韓半島未来人口研究院院長が言っていたことだが、「(現金し今日の効果を問われ)子ども1人当たり1億ウォンを支給する案について政府も調査を実施したところ、国民の6割以上が出産の動機づけになると答えている。だが、それは『考えてみようかな』という程度のもの。実際に産むという行動とは隔たりがあるとみるべきだ」という。つまり、アンケートなどで、少子化対策のために、教育費を全額税金で賄ってほしい、給食をぜんぶ税金で出させて欲しいという要望があったとしても、そこにはなんの実効性もないということだ。子育て支援で少子化は解決しないのだ。
しかし、岸田首相は、国債(こども・子育て支援特例公債)を発行し、増税(少子化支援金)をすることで予算を確保し、3.6兆円もの予算を、まったく効果が出ないことがわかっている子育て支援に多くをぶち込んだわけだ。少子化はどんどん進んでいる。退任表明の記者会見では「待ったなしの少子化に対応するために3.6兆円の大規模な少子化対策を実行する」などと成果の一つに勝手に数えているが、予算をたくさん出して、税金をムダにしたというだけだ。
能登地震の被災地も、補正予算は組んだものの、被災での復興は遅々として進まない現状がある。これも予算を用意しただけで、仕事をしたつもりになってるのだろう。被災地からは、菅直人元首相が東日本大震災で受けて以来の大ブーイングが相次いだ。
<岸田首相の能登半島再訪に被災者冷ややか 「パフォーマンスはいらない」><朝市の近くで支援物資を受け取っていた看護師の47歳女性は、自宅のある集落が孤立化し、市中心部にある父親の職場に高校生の次男と身を寄せる。視察の一団を遠目に見ながら「水道はいつ復旧し、仮設住宅にはいつ入れるのか。パフォーマンスはいらない」とつぶやいた>(産経、2月24日)
<自民党内からも「役人は情報が入らないと判断できない。リスク覚悟で大きな判断をするのが政治家の仕事だが、岸田首相はそれができていない」(無派閥の中堅議員)との声が漏れる>(朝日、1月14日)
<「裏金問題もある中でのパフォーマンスではないか」。3階の教室に身を寄せる市内の60代女性の反応は冷ややかだ。「わずかな時間、1階をのぞいただけでヘリコプターで帰っていった。どんな思いで来たのかもわからない」と取材に不満をこぼした>(毎日、1月14日)
とりあえず対策を立てておしまいというのが、岸田政権の本質なのである。次の話は総裁選候補選びにつながってくることだが、経済安全保障の名のもとに、半導体の国内供給が大事だと3年間で3.9兆円もの支援をしたことだ。この税金による支援額は、先進国でも突出したレベルだ。
たしかに、経済安全保障は大事な概念であるが、それは、中国に先端技術を盗まれ続ける日本企業に注意喚起をするなり対策をすると言う話であり、半導体を国内で供給することではない。
<半導体受託生産で米最大手のグローバルファウンドリーズは13日、市場予想を下回る1-3月(第1四半期)の売上高見通しを示した。産業用・自動車部品向け半導体の供給過剰が依然として受注の重しとなっている>(ブルームバーグ、2月14日)など、半導体は世界で余っている。そんなものに、予算をつけてどうするのだろうか。4兆円近くのお金を、これまたドブに捨てることになる。「経済安全保障」銘柄の総裁候補である、高市早苗氏と小林鷹之氏は、出馬の前に、まずは3.9兆円の税金をドブに捨てたことを猛省すべきだろう。
岸田首相といえば、「増税メガネ」と揶揄されたことで注目を浴びた。過去に「日本の政治は消費税率引き上げに様々なトラウマがある。成功体験を実感することが大事だ」などと、増税を美化する発言をこれでもかと行なっていたのだから、警戒されて当然だろう。消費税増税の成功体験とやらは、どう実感しているのか知らないが、増税(国民負担率増)すると日本の経済成長にとってマイナスで、家計にとってもマイナスであることは学術的に広く知られているところだ(日銀2000、Nagahama2023)。
もし、日本の首相が経済成長を望むのであれば、減税する以外に道はない。少なくとも増税してはダメなことぐらいわかりそうなものなのだが、岸田首相が減税について重い腰を上げたのは、増税メガネと揶揄され続けた昨年末だ。
岸田政権は、名目賃金を上げた、上がったと騒いでいたものの、実質賃金は戦後最長の26か月にもわたって下がり続けた。これまた、対策だけとって実態は知らんぷりという政権の傾向を色濃く反映したものだろう。いかに庶民に厳しい政権であったがわかる。さて、ここまで岸田政権の「実態」を見てきたところで、では、誰が次の総裁にふさわしいかと言う議論になろう。
とにかくあらゆることを補助金だの、無償化(=全額税金)で、バラまいて知らんぷりという状態が3年にもわたって続いたのだから、それよりはマシな人を選びたいものである。岸田首相の掲げていた「新しい資本主義」も、結局、政治家や官僚たちによって予算のぶんどり合戦の大義名分には使われたものの、いったい新しい資本主義がなんだったのか、さっぱりわからない国民も多いのではないか。
名前があがる総裁候補だが、全員が決め手を欠く。高齢者の医療負担を現役世代と同じにする。ムダ遣いをしない。捻出した財源で減税をして、国民負担を少しでも減らすことで経済成長に繋げる。ライドシェアなどの規制緩和を積極的に推進して、人手不足に備える。
それができる人物は、誰なのか。
これらを実現できる可能性があるのは、実績からして菅義偉氏ただ一人だ。本人は再登板する意欲などこれっぽちもないだろうが、他にいないのだから仕方がない。そしてまた出馬しそうにない菅義偉氏が推すのは小泉進次郎氏なのだが、内容がなさすぎる受け答えにゾッとしているのは私だけではないだろう。脳があって爪を隠しているのならいいのだが、脳がないだけでないことを祈るしかない。科学的なエビデンスがあって、こうすればうまくいく、しかし、国民はまだ理解できていないーーーこうした状態で国民を説得できる首相が求められるのであって、岸田首相のように効果がないとわかっている政策をぶち上げた挙句に、増税(森林環境税、子育て支援金含む)しようとか、国債発行しまくればオッケーというのは、金輪際やめてほしいものだ。
※日銀2000…「国民負担率と経済成長 -OECD諸国のパネル・データを用いた実証分析-」(2002年2月)https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2000/cwp00j06.htm
※Nagahama2023…「潜在成長率を押し下げる国民負担率上昇 ~国民負担率+1%ポイント上昇で潜在成長率▲0.11%ポイント押し下げ~」 https://www.dlri.co.jp/report/macro/253072.html
小倉健一
|
![]() |