( 203192 )  2024/08/19 15:02:29  
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8月14日、岸田文雄首相が9月の自民党総裁選への不出馬を表明した。前日まで出馬を検討しているとも見られており、党内外に衝撃が走った。 

 

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今から思うと、岸田政権の末期症状は危機管理に出ていた。明確な綻びは、本コラムで何度も指摘したように、1月1日の能登半島地震で補正予算を打てなかったことだ。震度7の地震の補正予算に反対する野党はなく、政治家として絶好の見せ場なのに、そのチャンスを逃した。 

 

最後のダメ押しとなったのが、8月8日の日向灘地震だ。南海トラフ地震への波及が懸念されるのは確かだが、ここは注意情報を出しても、地震への備えを再チェックするだけに留めて、日常生活や既に決めた予定を変更することはないと、総理の口から言っておくべきだった。 

 

しかし、8月9~12日に予定されていた中央アジア訪問を、南海トラフ地震との関係で首相自らが予定変更しドタキャンした。この判断は、南海トラフ地震情報の危機管理の面からも、外交面からも酷かった。 

 

中央アジア5か国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)は、ロシア、中国、イラン及びアフガニスタンに囲まれたユーラシア大陸中央に位置している。日本にとって対ロシア、中国、イランの戦略上の要衝であり、資源などの日本の国益確保の面から言っても重要国なのに、その好機を逃してしまった。「外交の岸田」らしからぬ話だ。 

 

こうしたミスが続いては、もはや政権運営はできない。 

 

自然災害に対応できずに政権が潰れることはしばしばある。古い例だと、260年も続いた江戸幕府もそうだ。 

 

歴史の教科書には、1853年6月3日、現在の神奈川県浦賀沖に、アメリカの東インド艦隊司令長官・ペリーが開国を求めて蒸気船が来航した、いわゆる「黒船来航」から動乱の歴史が始まったと書かれている。それは事実だが、並行して日本は巨大地震に見舞われていた。 

 

1854年11月4日(新暦12月23日)の安政東海地震、そして約32時間後の11月5日(同12月24日)の安政南海地震である。安政東海地震では山梨県、長野県、福井県でも地震の被害があり、静岡県の天竜川河口付近で最も大きな被害が記録されている。 

 

津波被害も房総半島から四国沖にかけて発生した。安政南海地震では近畿、四国、中国、九州地方にかけて地震被害があり、紀伊半島から四国の沿岸部にかけては津波も発生した。これらは、いわゆる南海トラフ地震だ。 

 

さらに、1855年10月2日(同11月11日)には安政江戸地震が発生した。江戸城や幕閣らの屋敷が大被害を受け、、幕末の多難な時局における財政悪化を深刻化させた。 

 

今回の総裁選不出馬は岸田首相なりの政治判断であり、ケジメだろう。もちろんここに至るまで、政治とカネの不祥事ボディブローのように岸田政権に打撃を与えてきたが、最後は地震の危機管理でトドメを刺された、というのが筆者の見立てだ。 

 

 

いずれにしても、これで総裁選は事実上始まった。二人のキングメーカー、麻生太郎氏と菅義偉氏の争いになるだろう。手駒としては、菅氏が優勢だ。小石河といわれる石破茂氏、小泉進次郎氏、河野太郎氏は党内外で人気が高く、政官界の重要人物への影響力もある。 

 

ただし、河野氏は麻生派所属で派閥を抜けていないので、菅氏の手駒とはいえないかもしれない。小泉氏は父親の小泉純一郎氏のアドバイスもあり、若すぎて出馬できないと言われていたが、ここにきて若さの魅力が復活している。さらに、菅氏は小石河のほかに加藤勝信氏にも近い。 

 

また、麻生氏と菅氏の間に入って、岸田氏もキングメーカーを指向するだろう。その場合、林芳正氏を担ぐことになりそうだ。 

 

一方の麻生氏は、一時は上川陽子外相が本命と言われたが、上川氏は最近勢いがない。そこで、自派閥の河野氏を推す動きもある。ただし、一部には高市早苗氏が隠し玉だと言う人もいる。もしそうなると、国民人気のある高市氏を党内基盤のある麻生氏が担ぐことになり、前回、高市氏を安倍氏が担いで旋風を巻き起こした流れの再来になる。 

 

茂木敏充氏は、麻生氏の応援を期待するがうまくいっていないようなので、苦しい戦いだ。小林鷹之氏らは若手の賛同を得ながら刷新的なイメージで総裁選を盛り上げるだろう。 

 

写真:現代ビジネス 

 

現時点で11名ほどの総裁選候補者が挙がっているが、派閥が解消されたからといって、このまま全員が立候補とはならないだろう。いわゆる合従連衡の動きが水面下で繰り広げられている。 

 

現時点での筆者の独断に満ちた寸評を上げておこう。これまでの(1)政治経験、(2)党首としての新鮮度、(3)内政手腕の期待、(4)外政手腕の期待を1から5で評点したものだ。さらに、(5)党内の支持状況を今の時点で定性的にまとめた。 

 

なお、(3)内政と(4)外政は、筆者の好みで大胆にみている。(3)内政で重要なのは、財務省との距離感だ。財務省ベッタリであると、間違った財政状況を吹き込まれて予算制約に陥りがちだ。 

 

また、日銀との関係も重要だ。中央銀行には手段の独立性があるので、日々のオペレーションや具体的な利下げ・利上げの指示はできないが、大きな目標とインフレ目標を日銀には守ってもらう必要がある。例えば、本コラムでも明らかにしているように、7月末の利上げはインフレ目標を無視した日銀の暴挙であり、政府としては看過してはいけない。こうした利上げを容認するような自民党総裁の評価は低い。 

 

(4)外政でのポイントは、一言で言えば対米関係だ。次期米大統領がトランプ氏でもハリス氏でも、うまくやれるかどうか。実は高市氏は、どちらにも対応できる稀有な人物だ。トランプ氏であれば保守として政策で波長が合うだろうし、ハリス氏でも女性同士、しかも高市氏はかつて米民主党議員のスタッフを務めた経験もあるので、高評価になる。 

 

 

最終的には(1)~(5)の兼ね合いで総裁が決まるだろうが、さらに今後(5)は以下に述べるように大きく変化しうる。 

 

総裁選の日程はまだ決まっていない。具体的な日程は8月20日に決まるが、9月20日から29日までの間に議員投票が実施されることになっている。9月20日(金)か27日(金)の投開票と言われている。 

 

総裁選の過程で、旧派閥の復活もあるだろうし、旧派閥が草刈場にもなるだろう。麻生派だけは解散していないので、まとまりが一番強固だろう。旧岸田派も総裁派閥だったのでそれなりに結束が強く、しかも、麻生派とあわせて「大宏池会」になるかもしれない。 

 

旧茂木派は苦しい。茂木氏と加藤氏が出馬すれば、今の分裂がさらに加速するかもしれない。旧二階派は菅氏が影響力を強めるだろうが、もともと強固な組織ではなく、小林氏のような若手支持に絞って独自の行動をする人も多いだろう。 

 

かつての最大派閥の旧安倍派は、核となる人物が政治とカネの問題で身動きがとれないので、各候補者の草刈場になるかもしれない。 

 

いずれにしても、自民党総裁選ではおおいに論戦してもらおう。 

 

髙橋 洋一(経済学者・嘉悦大学教授) 

 

 

 
 

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