( 203617 ) 2024/08/20 17:50:20 0 00 「シダマツ」ペアの志田千陽選手、松山奈未選手(日本オリンピック委員会(JOC)の公式Instagramより)
パリ五輪バドミントンでメダルの行方同様に注目を集めた、「シダマツ」ペアの志田千陽選手の美貌。ライターの冨士海ネコ氏は、女子ペアの片方の美貌ばかり注目される風潮に気持ち悪さを感じるという。
【写真を見る】志田選手の美し過ぎる「奇跡の一枚」
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かわいい友達と二人でいる時、男性がその友達ばかりに話しかけ、透明人間のように扱われた経験のある女性は結構いるのではないか。その場を離れるのも感じが悪いし、失礼と怒ることもできずに、ただ黙ってニコニコと時間が過ぎるのを待つしかない状況。バドミントン女子ダブルス・シダマツペアに関するネットニュースを見るたび、あの気まずさがよみがえってきてしまう。
ともすれば、メダルの行方よりも大きく注目を集めたのは、志田千陽選手の美貌である。開会から閉会式当日まで、志田選手関連のオンラインニュースは300件を超え、そのうち約1割強は志田選手のルックスに関するもの。「秋田美人」「バドミントン界のアイドル」「ほぼ女優」……7月30日の予選ラウンド3回戦の試合中から、国内の Xでは志田選手の名前が急上昇。国内だけでなく中国でも人気を集めており、「真珠のような美貌」「美し過ぎる」と現地ファンの声を紹介するメディアもあった。戦績を伝えるニュースにつくYahoo! コメントはせいぜい2桁だが、志田選手の容姿に関するタイトルがあるだけでコメント数は3桁になる。Xのポスト数でも、志田選手に関する投稿は、松山奈未選手の5倍近い。
シダマツペアが五輪内定を決めた春先は、ネットニュースもほぼ無風状態。オリンピックのような世界的イベントで、動く姿がテレビで放送されることが、どれだけ影響力があるかがうかがえる。バドミントンはマイナースポーツではないが、サッカーやテニスの競技人口と比べると少ない。選手のビジュアルをきっかけに興味を持ってもらい、人やお金の流れが活性化するのは喜ばしいことではあるのだろう。アスリートはメダル獲得、ファンは急増、バドミントン業界はハッピー。その三方良しの大団円に外部の人間が何か言うのもおかしいのは分かっているのだが、女性ペアのアスリートに対し、片方の美貌だけを持ち上げるメディアの風潮に、ちょっと居心地の悪さも覚えてしまうのである。
オリンピックはスポーツの祭典というお題目がありながら、美人選手発掘イベントという側面を持っていることは否めない。日本選手に限らず、美人外国アスリートの写真は大きな反響を呼ぶ。
一方で、誹謗中傷も呼び込みやすい。今回は会期中にJOCから、アスリートに向けられた中傷には法的措置も検討していると、異例の声明が発表されたほど。メダルを逃したことで感情的になった選手らへの批判が増えていた時期ではあったが、女性アスリートの容姿に言及した性的なコメントや、「ブス」というバッシングも昔からひどいものがあった。
先日は和田アキ子さんが、女子やり投げ金メダリストの北口榛花選手が、うつ伏せでカステラを食べている姿を「トドみたい」と表現し炎上。その場で「かわいい」というフォローはしていたものの、バカにしたニュアンスを感じると、集中砲火を浴びている。和田さんはラジオや生放送で、謝罪と釈明に追われることになってしまった。
一方で、見た目を褒めてもらうことはモチベーションアップにつながるという女性アスリートもいる。美人バドミントンペアとして北京五輪を沸かせた「オグシオ」の潮田玲子さんは、セクシャルな撮られ方は嫌だが、強くて美しいアスリートとして取り上げられるのは素直にうれしいとインタビュー記事で語っていた。結婚時の公開ポエムは失笑を買ったものの、「私を見て!」が原動力になる人なのだろう。引退後もモデルやキャスターとして活動の場を広げている。
また卓球・福原愛さんは幼い頃からその可憐さで有名だったが、リオ五輪では総額100万円ともいわれるティファニーのアクセサリーで全身固めた姿が話題に。引退後のスキャンダルで姿を消したが、SNSで見せる美貌は日々パワーアップしているようだ。
といっても、こうした注目は良いことばかりではない。見た目で注目され始めた分、成績も残さないといけないというプレッシャーも大きくなったと潮田さんは語っていた。過度に美人だと持ち上げる報道は、女性アスリートに余計なストレスを与え、時にはペアの存続すら危うくさせるのかもしれない。
オグシオしかり、ビーチの妖精・浅尾美和さんと西堀健実さんペアしかり。さかのぼれば陣内貴美子さんと森久子さんペアしかり。ペア競技で注目された美女アスリートが、もう一度同じ相手とペアを組んで五輪に出てくることはほぼ無いといっていい。陣内さんはバルセロナ五輪後に、浅尾さんは五輪出場がかなわないまま引退。いずれもスポーツキャスターやコメンテーターとしてセカンドキャリアを歩んでいる。オグシオも不仲が取り沙汰されたが、胸中を語り合えるようになるには北京から14年の年月を要したそうだ。
もちろん、ペアの解消は「片方ばっかりが美人と騒がれるから」という感情的な理由からだけではなく、心身のコンディションや環境によるところが大きい。ただ、中傷も生み出しやすいルックス先行の話題の作り方は、本人にも、ペアを組む相手にも、いろいろな影を落とす部分は大きいのではないか。
翻って志田選手と松山選手はペアを組んで10年の仲だそうだ。もちろん松山選手も志田選手の美貌は認めており、「ちーはまず本当にビジュが完璧で完璧で」と、JOCの公式動画で褒めていたのがほほ笑ましい。シダマツと言いながらも実質志田選手フィーバーに隠れがちな松山選手を心配してか、お姉さんは「うちの妹が一番可愛い」とSNSで投稿したそうだ。すごくいいお姉さんだと思う。うちの妹だって頑張ったしすっごくかわいいんだよ、と世界に叫びたくなる気持ち、よく分かる。そしてそう言いたくなるようなメディアの「志田さん寄り」の風潮に、危うさを感じるのである。
シダマツペアは、ロサンゼルス五輪出場への明言は避けている。どんな選択をしようと支持したいが、松山選手の見せ場も、パリ以上に見たい気持ちもある。
ルッキズムと完全に切り離す報道なんてきれいごとと言われれば、「なんも言えねえ」と北京五輪金メダリスト・北島康介選手の名言をつぶやくしかない。「オリンピックに出た日本選手団、勝っても負けても男だろうと女だろうとみんなかっこいい 金メダルでーす」と、やす子さん構文を使えたらどんなにいいかと、悶々としているうちに夏が過ぎていく。
冨士海ネコ(ライター)
デイリー新潮編集部
新潮社
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