( 204162 ) 2024/08/22 15:44:00 0 00 Photo:Diamond
全国に800店以上を展開し、飛ぶ鳥を落とす勢いのうどんチェーン「丸亀製麺」。SNS上では「香川県丸亀市と直接関係ないのに、勝手に丸亀を名乗っている」「ダマされた!」といった類いの批判が絶えない。ネットで丸亀製麺にブチギレる人が見落としている“意外な事実”とは?(イトモス研究所所長 小倉健一)
【画像】デッッッカ!!丸亀製麺の「かき揚げ」ソフトボールなみに巨大だった!
● 丸亀製麺は商魂たくまし過ぎ?
「丸亀製麺」の創業の地は兵庫県加古川市、創業者も兵庫県の出身だ。にもかかわらず、店名に讃岐うどんの本場である香川県の「丸亀」をうたうのは商魂がたくましすぎる、という冷めた視線がある。丸亀市でタクシー運転手と話した際、改めてそう感じた。
丸亀の人にとってみれば丸亀製麺を「おいしい」と表明するのは、いささか抵抗感があろう。だが、丸亀製麺がいかにおいしいうどん屋であるかは、私が強調するまでもないと思う。それぐらいおいしい。
創業の地が丸亀でないというが、京都に本店を持たない「京料理」の店などいくらでもある。丸亀製麺を運営するトリドールが商魂たくましいのは事実だろうが、ファストフードとしての「うどん」を提供する技術は、最高レベルだ。
飲食店チェーンは個人経営の店舗に比べて、Googleマップや食べログなどの口コミサイトでは評価が低くなりがちだ。しかし、実際には個人店より多くの優位性がある。味の安定性、価格の手頃さ、そして便利さなどだ。
チェーン店よりおいしいレストランはたくさんあるが、それと同じぐらいにまずい個人店舗も多い。そんなところに入るぐらいなら、チェーン店に入った方が格段に良い。
個人の中華料理屋など、どうしてこのレベルで営業しているのかわからないレベルのお店がなんと多いことか。だったらバーミヤンや日高屋になる。これは多くの人が感じていることではないか。
● 香川県丸亀市に立ち並ぶうどん店
チェーンは大量に食材を仕入れることでコストを抑え、価格を手頃にしている。これは、チェーン店が個人経営の店舗に比べて安い価格で商品を提供できる理由の1つである。また、経営が中央で管理されているため、効率よく運営することが可能である。
テクノロジーの活用も、チェーン店の大きな特徴だ。オンラインで注文できるサービスや、配達サービスを提供することで、家から出なくても簡単に食事を楽しむことができるようになっている。
加えて、アプリやウェブサイトを通じて、常連のお客さんに割引や特別なオファーを提供するプログラムも用意されている。うどんチェーンのレベルは特に高いと思われるが、他のチェーンでも食事の質は上がり続けている。
私は今、香川県丸亀市にいる。ここには、うどん屋がたくさん並んでいるが、私にとってうどんは「ファストフード」である。よほど味が悪い店でない限り、どの店で食べても大差はないと感じている。だから、わざわざ長時間並ぶのは無駄だと考え、並ばずにさっと食べられる店を選ぶのが基本方針である。
ところが、丸亀には残念ながら丸亀製麺がない!
● 丸亀製麺と有名店、比べてみれば
丸亀には地元チェーン店の「こがね製麺所」があるので、そこへ行こうかと考えたが、「香川まで来て……」と思い直し、1時間並んである有名店に入った。炎天下の中で朦朧としながら並び、釜玉うどんを食べた。
うーん。やはり、丸亀製麺と比較して、こちらの方が絶対においしいと断言することはできなかった。決してこの有名店を貶しているわけではない。有名店もうまいが、丸亀製麺のレベルが高いのだ。そうなると、わざわざ並ぶ理由もよくわからなくなってくる。
「チェーン店の味」などと言って、チェーン店を下に見る人もいるかもしれない。が、調べてみると「チェーン店こそ味」ということがわかった。
『レストランにおける消費者行動』(2012年、デンバー大学、セントラルフロリダ大学)では、消費者の支持と消費者の支払い意欲は、ビジネス発展のための最も重要な2つの基準であるとして、発展途上経済における外食産業の3つの主要なサービス属性 (食事の質・サービス・雰囲気)に関する消費者の嗜好の変化を調査したという。
● 1にも2にも「味」が重要
《研究の結果、消費者がレストランを選ぶときの判断は非常に複雑であり、さまざまな要素を考慮していることがわかった。特に高級レストランでは、料理の質が最も重要視されており、その次にサービスや雰囲気が重要とされている。同様の結果は、カジュアルなレストランでも得られており、消費者がそのレストランに通う意欲や、どれだけお金を払うかという点で、料理の質が最も重要な要素であることが示された》
《レストラン全体の質における食品の質が、レストラン全体のサービスの質の最も重要な属性であることを示した。食品の質は食事体験に正の影響を与え、レストランの運営に不可欠であることが示されている》
1にも2にも、おいしさということになる。チェーン店こそ、味を徹底的に追求しなくてはならないのだ。論文はこうも指摘する。
《興味深いことに、食事の質が高く、雰囲気が良い組み合わせは、食事の質が高く、サービスの質も高い組み合わせよりも、消費者が支払う意欲(WTP: Willingness To Pay)を高める結果となった》
《カジュアルなレストランの場合、食事の質が同じであれば、消費者はサービスの向上よりも雰囲気の向上に対してより多くの支払いをする意欲があることがわかった》
● 丸亀製麺の独自の「雰囲気づくり」
「おいしくて、サービスが良くて、雰囲気がいい」ということは確かに理想的であるが、それだけでは経営にとってプラスにはならないだろう。
経営とは、限られた資源を使って最大の収益を狙うことが目的である。そのため、味の質・サービス・店の雰囲気のどれにどれだけ力を入れるべきかをはっきりさせなければ、具体的なアドバイスとしては役に立たない。
たとえば、どの部分に重点を置くかがわからなければ、無駄なコストがかかる可能性がある。
もし、雰囲気にこだわりすぎて、肝心の味やサービスが疎かになってしまえば、お客さんは満足しないかもしれない。
逆に、サービスや味に力を入れすぎて、雰囲気が悪ければ、高級感や特別感を求めるお客さんを逃してしまう可能性もある。
経営者にとって重要なのは、限られた資源の中で、どの要素に力を入れることで最大の利益を得られるのか見極めることだ。そうすることで効果的な経営が可能となり、結果としてお客さんに満足してもらえるようになるのである。
その意味で、丸亀製麺の店舗には独自の「雰囲気づくり」に特徴がある。
● 丸亀製麺、絶好調のワケ
まず、店内に入るとすぐに広がるのは、オープンキッチン形式の調理スペースである。ここでは、従業員が実際にうどんを打ち、ゆでている様子が見られる。まるで職人技を目の前で見ているようなライブ感・臨場感を生み出し、食事の期待感を高める効果がある。
店内のインテリアや装飾にも工夫がされており、和風のデザインが採り入れられている。木製の家具や和風の照明が温かみのある空間を作り出し、落ち着いた雰囲気の中で食事が楽しめるようになっている。
さらに、セルフサービス形式にすることで、客は本場の讃岐うどんのようなスタイルを体験できるわけだ。
5月に発表された、トリドールの2024年3月期決算は以下の通り絶好調だった。
《全セグメントで過去最高の売上となり、売上収益は過去最高の2320億円》
《丸亀製麺、国内その他は過去最高の事業利益および事業利益率》
《政府補助金(44億円減少)を含むその他の営業収益が46億円減少したにもかかわらず営業利益は42億円増加の116億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は18億円増加して57億円》
味、そして雰囲気を大事にすることで、丸亀製麺は圧倒的な顧客の支持を得ているということだ。
● 丸亀市の意外な反応とは?
冒頭述べたように、丸亀製麺はその名前から丸亀市と深い関係があるように思われがちだが、実際には丸亀発祥のチェーンストアではない。
しかし、このチェーンストアが日本全国に広がったことで、丸亀市の名前が広く知られるようになったのは事実だと思う。
丸亀製麺のおかげで、うどん好きの人々にとって「丸亀」という名前は特別な響きを持つようになった。これは、丸亀製麺が全国的に成功を収め、たくさんの店舗を展開した結果ではないだろうか。丸亀市の名前が広まったことで、観光客やうどんファンが実際に訪れる機会が増える可能性もある。
丸亀製麺の公式サイトには「香川県丸亀市は、とても大切な存在」とあり、西日本豪雨で崩落した丸亀城の石垣の修復を支援する、丸亀市と地域活性化包括連携協定を結ぶーーといった近年の取り組みが紹介されている。
また、2019年の「日刊SPA!」の記事では、丸亀市の広報担当者が次のように語っている。
「丸亀製麺様は香川には店舗を極力出さない方針だとおっしゃっていて、丸亀市にも絶対に出さないとお話されていますが、それは我々に対して遠慮してのことだと言います。このように、丸亀製麺様とはとても良好な関係であると考えております」
(日刊SPA!『「丸亀製麺」が“香川県丸亀市と関係ナシ”と炎上。丸亀市を直撃したら驚きの事実が』2019年9月18日)
SNSで何かと炎上しがちな丸亀製麺ではあるが、当の丸亀市が「良好な関係である」と言っている以上、そこまで目くじらを立てなくても良いのではないか。
小倉健一
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