( 204817 ) 2024/08/24 16:07:18 0 00 バス車内のイメージ(画像:写真AC)
先日、フリーアナウンサーの川口ゆり氏がSNSに投稿した「夏場の男性の臭い」に関する意見が炎上した。川口氏は8月8日に自身のXアカウントで
【画像】「知らなかった!」 これがバスドライバーの「年収」です(計14枚)
「ご事情あるなら本当にごめんなさいなんだけど。夏場の男性の臭いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる。常に清潔な状態でいたいので1日数回シャワー、汗拭きシート、制汗剤においては一年中使うのだけど、多くの男性がそれくらいであってほしい」
と投稿したが、この発言が物議を醸し、所属事務所は10日に彼女との契約を解除したと発表している。
この件をきっかけに、臭いに関する問題が広く議論されるようになった。特に公共交通、特に乗り合いバスにおける臭いの問題は無視できない重要な課題だ。利用者の悩みとして、
・臭い ・温度 ・耳障りな音
は常にトップ3に挙げられており、長時間乗車する高速バスや特急バスでは、臭いの問題がさらに深刻化することがある。この記事では、バス車内における臭いの問題について詳しく掘り下げ、その原因と解決策を探っていく。
臭いイメージ(画像:写真AC)
路線バス車内の臭いには大きく分けてふたつの種類がある。
まず、「バス車両から発生する臭い」だ。夏によく問題となるのは、エアコンからの臭いである。車のエアコンはカビや雑菌が繁殖しやすく、特に
・20~30度の温度 ・70%以上の湿度 ・ダニやホコリ、さまざまな汚れ
があると発生しやすい。
エアコンの冷却装置であるエバポレーター周辺には結露が生じ、カビの温床となる。さらに、路線バスのシートは多くの乗客が触れるため、湿気や汚れがたまりやすく、臭いの原因となることがある。また、排ガスの臭いが車内に入り込むことや、新車特有の樹脂製品から出る揮発性物質の臭いも問題だ。特にシートや内装の臭いが苦手だという人は少なくない。
次に、「乗客が発する臭い」も大きな問題だ。私立大学准教授の筆者(西山敏樹、都市工学者)の研究室でもこの問題を調査したことがあるが、夏の暑い時期には汗や体臭が気になる人が多い。混雑時には口臭、特に
・喫煙者 ・ニンニク ・ニラ ・コーヒー
などの臭いも指摘されることがある。
また、化粧品や香水の臭いが苦手な人も多い。高速バスや特急バスでは、休憩施設で購入した食べ物の臭いが車内にこもり、不快に感じる人もいる。さらに、ペット同乗を許可している路線では、ペットアレルギーの利用者が独特の臭いで気分を悪くすることもある。このように、車内には多種多様な臭いが存在している。
サービスエリア(画像:写真AC)
筆者は仕事柄、乗り合いバスを頻繁に利用するが、非喫煙者として特にたばこの臭いが気になる。短時間の路線バスであれば我慢できるが、長距離の高速バスや特急バスとなると、休憩施設でたばこを吸ってから乗り込む人が非常に多い。乗務員を含め、服に染みついたたばこの臭いが車内にこもり、明らかに気分が悪そうな乗客を目にすることもある。筆者自身も嫌煙家なので、その不快感には共感する。
さらに困ったことに、強い臭いを放つカップラーメンをバス内で食べ始める利用者もいる。大学の講義前に教室でカップラーメンを食べる学生を見かけることがある。広い教室でも臭いがこもることがあり、ましてや換気が難しいバス車内では、気分が悪くなる人も多くなるだろう。
・シューマイ ・ギョーザ
も同様で、サービスエリアなどで乗務員が休憩している間に持ち込まれることがある。
こうした臭い問題に対しては、事業者と利用者の双方がルールを守り、互いに協力することが必要だ。しかし、トラブルを避けるためか、厳しく注意をしないドライバーも多く見られる。乗り合いバスが
「公共の場」
であるという意識が低下すると、臭いの問題も一層悪化するように感じる。
ということで、本稿では臭いに対する対応策を
・「バス独特の臭い」短~中距離系の対応策 ・「乗客からの臭い」短~中距離系の対応策 ・「バス独特の臭い」長距離系の対応策 ・「乗客からの臭い」長距離系の対応策
の四つに分類して考えていく。
路線バス(画像:写真AC)
それでは、ひとつずつ説明しよう。
●「バス独特の臭い」短~中距離系の対応策 前述のとおり、バスのエアコンにはカビや雑菌が繁殖しやすい。これを抑えるためには、適切な対策が欠かせない。自動車部品メーカーのデンソー(愛知県刈谷市)が開発したバス専用のエバポレーター洗浄剤は、エアコン内のカビや雑菌を効果的に抑制するために役立つ。こうした洗浄剤を定期的に使ってエアコンを洗浄すれば、部品を傷めることなく風量を回復させ、除菌や抗菌効果も期待できる。また、シートに関しても、霧状の専用剤を使ってカビを除去する技術が進んでいる。こうした新技術を積極的に導入することで、カビや雑菌の問題を解決できる。
新車特有の臭いに対しては、水拭きや光触媒スプレーが効果的とされている。また、新型コロナ以降、プラズマクラスター技術が進化し、カビを抑制する機器がバスに装着されることも増えている。経営が厳しいバス事業者にとって、すべての対策を行うのは難しいかもしれないが、効果的な技術や方法を見極め、可能な限り導入する努力は必要だ。
●「乗客からの臭い」短~中距離系の対応策 乗客から発生する臭いに対する対策としては、マナー広告の強化が必要だ。スマートフォンのマナーについての広告はよく見かけるが、「臭いに注意しましょう」といったメッセージも広めるべきだろう。臭いは不快感や吐き気を引き起こすことがあり、乗客同士が気を付け合う必要がある。
短~中距離のバスでは飲食の機会は少ないかもしれないが、香水やたばこ、口臭などの臭いについてはエチケットとして抑えることができる。こうした意識が浸透しなければ、臭いの問題は解消しにくいだろう。
最近では「スメルハラスメント(スメハラ)」という言葉も注目されているが、これは公共交通における臭いに関する嫌がらせを指す。たばこや香水を使うことは個人の自由だが、今こそマナーと節度を持つことが求められている。
高速バス(画像:写真AC)
残りのふたつについて説明する。
●「バス独特の臭い」長距離系の対応策 長距離バスにおいては、短・中距離の対策に加え、個室性の高い空間の導入が重要だと考える。すでに関東バスや奈良交通のドリームスリーパーのように、個室を提供する長距離バスが登場している。これらのバスは予約率や乗車率が高く、臭いを気にせずプライバシーを重視した移動を求める利用者が増えていることを示している。
全席を個室にする必要はなく、西鉄のはかた号のように一部の席を個室空間にする選択肢も考えられる。臭いを気にせず移動できる環境を提供することが、事業者に求められている。
また、個室を設けることで追加料金を設定できるため、バス事業者にとっても収益向上の要素となる。長時間の移動にはさまざまなニーズがあるため、移動中の選択肢を増やすことは重要なサービスデザインとなる。
●「乗客からの臭い」長距離系の対応策 乗客からの臭いに対しては、短・中距離の対策に加え、臭いの強い食べ物や飲み物を持ち込ませない工夫が必要である。場合によっては、ドライバーが判断して強く指導することも求められる。
合理的な方法としては、車内で販売する軽食や飲み物を、臭いが気にならないものに限定することが考えられる。これにより、バス事業者にもプラスの効果が生まれる。以前は、はかた号のように軽食を提供する長距離夜行高速バスも存在していたため、事業者が飲食物をコントロールする方法も検討する余地がある。
高速バスと路線バス(画像:写真AC)
乗り合いバスではさまざまな臭いが発生し、乗客にとって悩ましい要因となっている。しかし、
・音 ・室温
の問題と比べると、特に人為的な要因についての解決策はあまり議論されてこなかった。
最近では、スメハラの問題が社会的に注目されており、公共の場であるバスの臭いについて考えるよい機会となっている。
ルールやマナーも重要だが、啓発や意識付けも大切である。利用者自身も身だしなみに気を配り、快適にバスを利用できるよう心がけたい。
西山敏樹(都市工学者)
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