( 205362 )  2024/08/26 14:33:57  
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会食恐怖症で苦しんできた経験を語る桜子さん 

 

 長野県内の子どもや若者を取り巻く状況を見つめた「2024長野の子ども白書」が刊行された。第1章は「子どもの声に応答する社会に」と題し、多様な生きづらさを抱えた子どもたちの声を紹介している。子どものSOSにどう気付き、応えることができるか―。執筆者の1人で、人との食事で極度の不安に襲われる「会食恐怖症」に苦しんできた大学生の桜子さん(21)=仮名=に体験を聞いた。 

 

【写真】桜子さんが寄稿した「2024長野の子ども白書」 

 

 会食恐怖症のきっかけは保育園時代。通っていた県内の園は給食の「絶対完食」を掲げていた。時間内に完食できないことが多かった桜子さん。ある日、担任の保育士は給食を残した桜子さんをみんなの前に立たせて謝罪を求めた。 

 

 「いつもご飯を残してしまってごめんなさい。明日からはちゃんと食べます」。友人の視線を浴びながら、涙ながらに発した言葉を今も鮮明に覚えている。この日以来、家族以外の誰かと食事をするのが怖くなった。 

 

 小学校でも「残したら叱られる」不安から給食が喉を通らない。吐き気で何度もトイレに駆け込んだ。中学校でも症状は続き、級友からは「給食費がもったいないと思わない?」と言われた。 

 

 誰かと食事を楽しむ「当たり前」ができず、自分を責めた。同じ境遇の人の体験談を動画投稿サイトで視聴し、自分の症状は家族以外の人と外でする食事に不安を感じ、その不安を避けようとするあまり、人間関係や仕事に支障が出る「社交不安症」の一つ「会食恐怖症」だと知った。 

 

 高校時代、放課後に食事に誘ってくれた友人に「認知症の祖父の見守りがある」とうそをついて断った。交際相手とも食事付きのデートを避け、結局自ら別れを告げた。 

 

 転機は2021年、進学した大学で訪れた。精神福祉の講義で「好きなことや悩み事を何でもいいので書いて」との課題に、会食恐怖症の悩みについて記した。 

 

 すると、男性教員から思いもしない答えが返ってきた。「社会に適応する必要なんて全くないと思う。会食で食事を残している人は結構いて、それは普通のことではないですか」 

 

 

 かつての自分の境遇を振り返り、保育園では自分のペースに合わせて食事をする喜びを教えてほしかったこと、小中学校の先生にはトイレに駆け込む姿から、SOSをキャッチしてほしかった―と気付いた。 

 

 大阪公立大学の伊藤嘉余子(かよこ)教授=社会福祉学=は子どもが自らの苦しみを言葉にする心理的ハードルは高く、周囲の大人が日頃の振る舞いに注意深くアンテナを張ることの大切さを指摘。「この社会に『当たり前』などないという意識を根付かせる働きかけをしてほしい」と呼びかける。 

 

 桜子さんは今、初対面の人とも食事を楽しみ、学業の合間に友人とするカフェ巡りが大好きになった。自身の体験を生かし、社会福祉の仕事に就く将来を見据えて大学院進学を目指している。「自分が『当たり前』から外れていると思っても、世界の見方を変えてくれる大人たちはきっといる」。今も苦しむ子どもたちにそうエールを送った。 

 

 

 
 

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