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日本の株価は不安定だが、市場が正常化すると日本の企業価値の拡大に伴い株価も上昇し、2030年代半ばには日経平均株価が10万円を超える可能性があるとファンドマネージャーの河北博光氏が指摘している。

日本は過去30年間異常な経済状況が続いたが、コロナ禍を契機に物価の上昇や円安が進行し、普通の経済状態に戻りつつある。

資産運用ではインフレヘッジ機能のある資産への投資が重要であり、株式などのトータルリターンを重視した投資が求められるとしている。

(要約)

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資産運用で大切なのは資産の一部をインフレヘッジ機能のある資産に振り向けることです(写真:Mr.Ekachai Lohacamonchai/PIXTA) 

 

不安定な値動きを続けている日本の株価だが、世界的ファンドマネジャーの河北博光氏は、2030年代半ばに「日経平均は10万円」を超えるという。その根拠はどこにあるのか。 

近著『世界標準の資産の増やし方』を刊行した同氏が、世界から再評価される日本株の現状と今後について解説する。 

 

インフレ率別に見た100万円の20年後の価値 

 

 新NISAが始まって半年、年初からの急騰の後、堅調な世界株を尻目にやや弱含んでいた日本株は6月後半から急に上昇をはじめましたが、米ハイテク株の調整や円高の進行もあり、上昇分をすべて打ち消すような下落となっています。新NISAをきっかけに投資を始めた人たちは、相場の難しさを痛感しているところかもしれません。 

 

■「日経平均10万円」は通過点 

 

 そんな中で「日経平均10万円」というと、なんと能天気な人だと思われるかもしれませんが、日経平均10万円というのは強気な相場見通しを語っているわけではありません。日本株を取り巻く環境が正常化してきたとすると、株式という資産の特性上、企業価値の拡大とともに株価も上昇し、10万円というのは将来、当然の通過点となるにすぎないと考えられます。 

 

 多くの日本人がバブル崩壊後の30年間で忘れていたのは、正常な経済環境下では企業価値の拡大とともに株価は長期的には上昇するという当然の経済原則です。30年以上にわたり株価の低迷が続き、株は上がらないもの、損するもの、株式は投資ではなく投機、と考えていた日本人はその発想を大きく転換する必要に迫られているのです。 

 

 振り返ってみるとこの30年超、日本は異常な経済状況にありました。最初の10年は、バブル崩壊と金融機関の不良債権処理に追われました。バブル経済の中で膨らみに膨らんだ日本経済は3つの過剰(雇用・設備・債務)を抱えスケールダウンさせることが求められたわけです。 

 

 その後も、日本企業は戦後の高成長で蓄えた体力があったことや終身雇用制度などにより、構造改革が遅れ、結果として長期停滞を招くことになりました。海外から見るとこのような長期の低迷を続けながら経済大国としての地位を保ってきたこと自体が驚きだったのですが、日本人は、それまでに蓄えた富と、倹約精神によって長らく長期低迷に耐えてきたのです。 

 

 

 ただ、コロナ禍を契機とした物価の上昇、円安の進行で日本の凋落が誰の目にも明らかとなり、また生産年齢人口の減少によるサービス価格の上昇がいたるところで顕在化してきたことで、逆説的ではありますがやっと日本が普通の経済状態の国となってきました。 

 

 人口減少によって国内需要が長期的に低迷すると懸念されることも多いのですが、人口減少以上に生産年齢人口が減少するため、労働者一人当たりの国内需要は増加傾向になるでしょう。その結果、中長期的にもサービス価格は上昇すると予想されます。そのため、今はまだ物価の上昇に賃金の上昇が追い付いていないなどと言われていますが、世界的に見て安すぎる賃金は遅かれ早かれ修正されるのではないでしょうか。 

 

 緩やかなインフレと、金利の上昇が起こると企業活動も正常化し、企業価値の拡大に伴って株価も上昇していくと私は考えます。この結果として世界平均並みの株価の上昇が実現できれば、日経平均は2030年代半ばには10万円を超えることになります。 

 

■明治以降3度目の大上昇期 

 

 さて、日本は近代国家になって以降、2度世界を驚かせる成長を遂げました。1回目は明治維新から第1次世界大戦までの成長、2回目は戦後復興から平成バブルまでの成長です。今はまったくその兆候も見えないのですが、日本が明治維新や戦後復興の時と同じような経済成長を遂げる可能性はあるのでしょうか。これはひとえに日本がこれまでの仕組みを捨てグローバルな仕組みに合わせることができるかということに尽きると私は考えています。 

 

 明治時代は、アジアの国で唯一、国際法を取り入れ西洋化を進めました。戦後はGHQの下、アメリカ流の制度に作り替えたわけです。これらの改革はもちろん良い面と悪い面がありましたが、国際競争力という点では大いに効果があり、アジアで唯一西洋と渡り合える大国となることにつながったのは周知のとおりです。 

 

 今の日本はこの時ほどドラスティックではありませんが、経済での敗北は誰の目にも明らかとなり、経営者の世代交代も進んできていることで変化の兆しが出てきています。株式市場においてもコーポレートガバナンス改革、持ち合い解消、東証の市場改革と日本の特殊性を解消し欧米化する動きが続いています。 

 

 

 国際社会における立ち位置の変化も顕著です。私は今の日本は1890年代や1950年代に似ていると考えています。共通点はアジアにおいて世界の覇権国の権益に脅威が生じていることです。明治維新では、ロシアの南下政策への対抗が必要となった英国が、日本の近代化を進めました。 

 

 戦後はアジアにおける共産主義の拡大を恐れたアメリカが、敵国であった日本の立ち位置を再定義しました。これが日本の驚異的な経済成長を後押ししたわけです。今回は中国の台頭に対抗する必要が生じたアメリカが、日本を後押しすることになりそうです。 

 

 日本が下り坂になったのもロシア革命で欧米にとってアジアでの脅威がロシアから日本に移ったこと、ソ連の崩壊でアジアにおける防共の要が必要なくなったことなど、戦前戦後の動きは覇権国が日本をどのように位置づけたかに大きく依存しています。 

 

 1980年代から90年代初頭に日本の台頭を抑えるために、中国・韓国・台湾の経済をサポートしたアメリカは、現在は方針を変更して、中国の台頭を抑えるために、日本を再度強化する方針をとっています。 

 

 その結果、半導体だけでなく通信・防衛などの分野も日本企業の位置づけが急速に高まっています。株式市場はそれをすでに一部織り込み始めていますが、これは高度経済成長に入る前の朝鮮特需の入り口にも当たらないレベルの評価だと考えます。 

 

 朝鮮特需でも潤ったのは一部財界のみで、当初は利益が労働者にまで還元されてはいませんでした。それが本格的に労働者に還元されるのにはタイムラグがあるのです。つまり、今回も企業が利益を得て株価は上昇していますが、賃金は上がっていないと言われますが、今後は利益が労働者に還元されてくるでしょう。 

 

■資産形成に対する意識改革は必須 

 

 経済がデフレからマイルドなインフレに向かう中、資産運用で大切なのは資産の一部をインフレヘッジ機能のある資産に振り向けることです。デフレ時代に重要だったコツコツ型の積立預金では、インフレによる目減りで、倹約して貯蓄した努力が十分報われない可能性があります。 

 

 戦後、日本の物価は5年間で100倍になりました。日本のような先進国で当時のようなハイパーインフレは想定できませんが、円安によって海外旅行をしている人たちがすでに体験しているように、インフレは現在合理的に計算される以上に、体感では大きくなる可能性があります。 

 

 

 インフレ下での資産形成は預金や債券などの積立を中心としたインカムゲイン重視から、インフレヘッジ機能がある株式などトータルリターンを重視した投資を行う必要があります。日本人は資産形成に対する考え方の根本を変える必要が出てきているのです。 

 

 トータルリターン重視で株式などに投資した場合、短期的には値下がりリスクがあります。そのようなリスクはある程度避けようがないものとして受け入れ、長期で資産形成をすることが必要なのです。一方、バブル崩壊後の日本のように、長期にわたって低迷する市場に投資をすることは避けなければなりません。これは株式という資産特有のリスクというにはあまりにも大きなリスクだからです。 

 

 つまり、インフレヘッジ機能のある資産への投資と言っても極端に割高な資産への投資は避けなければなりません。その意味で日本株は極端な割高状態にはなく、長期的には上昇が期待できる資産であると考えられるのです。 

 

河北 博光 :ファンドマネジャー 

 

 

 
 

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