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すき家はDXを進め、セミセルフレジやタッチパネル注文、券売機&セルフサービス店舗などの効率化施策を導入している。

近年では使い捨て容器を使った提供も話題となり、「ディストピア容器」と呼ばれている。

これらの施策は人手不足やコスト高への対策として導入されており、将来的には競合他社と同様の業態に収束する可能性もある。

(要約)

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ディストピア容器が話題になったすき家 

 

 物価高に輸送費の上昇、人手不足など、飲食チェーンは昨今、さまざまな課題を抱えている。特に3社がしのぎを削る牛丼業態は競争圧力が働き、できるだけ値段を維持しようと各社は効率化を進めてきた。業界トップの「すき家」はDX推進室を設置し、2019年から効率化に取り組んでいる。 

 

【画像】通常店舗と何が違う? 「ディストピア容器」を扱う「セルフサービス」型の店舗、効率化を追求した券売機、ディストピア容器の実物(計3枚) 

 

 客から見えるところでは、当初予定していなかった券売機を導入し、直近ではネット上で“ディストピア容器”が話題になった(詳細は後述)。すき家の施策を調べていくと、牛丼チェーンの将来像が見えてくる。 

 

 すき家を運営するゼンショーホールディングス(HD)は「グループIT本部」の傘下に「IT統括部」「AI推進室」「DX推進室」の3組織を設置し、DXを進めている。すき家の傘下にも個別に「すき家 DX推進室」を組成しており、同部署がチェーン店全体のDXを担っているようだ。顧客関連ではキャッシュレスやタブレットセルフオーダー、モバイルオーダーなどの取り組みが目立つ。 

 

 支払い関連ですき家が進めてきたのは、セミセルフレジの導入だ。食後に伝票を店員に渡して会計を済ませるシステムは昔のレジと同じだが、店員とお金のやり取りはなく、支払金額に応じてお釣りが自動的に出てくる。キャッシュレスにも対応しており、セブン-イレブンのレジと同じようなシステムである。 

 

 セミセルフレジの主なメリットは、店員による業務の省略だ。店員1人で2台を並行して操作できるため、以前のように忙しい時間帯に店員がレジ業務で手間をとられることがなくなった。お釣りのやり取りを省略できることで「〇〇円のお返しです」といったコミュニケーションを省略できるメリットもあるという。外国人労働者が増えている現状では、コミュニケーションの省略は意外と大きい。2017年7月の実験的な導入以降、本格的に展開し、現在はほとんどの店舗で導入済みとみられる。 

 

 すき家独自の施策でいえば、タッチパネル注文が挙げられる。競合では、対面にこだわる吉野家は、店員が注文を取る昔ながらの方式にこだわり、松屋はほぼ全店舗に券売機を導入している。タッチパネルはすき家の各席に設置してあり、商品を写真付きで見られるため、客はメニューから選ぶように注文できる。できた料理は店員が各席まで運ぶ。 

 

 松屋のような券売機方式にしなかったのは、すき家が主力とする郊外店の事情がある。都市部の駅前に出店することが多い松屋・吉野家に対し、すき家は郊外におけるロードサイド店舗の比率が高い。ロードサイド店のメインであるファミリー層は、メニューを見ながら雑談を楽しむ光景が見られるため、ファミリー層の満足度を下げないよう券売機を避けたという。 

 

 確かに子連れが券売機を使うとなると、高い位置にあるパネルは子どもから見えにくい。選ぶ時間もかかるため、入口で行列が発生しそうだ。タッチパネル方式はすき家の立地と客層にあった方式といえるだろう。 

 

 一方、最近では松屋と同じような券売機&セルフサービス方式を導入している。都内を中心に、改装店舗で同方式の導入が進んでいるのだ。 

 

 こうした店舗の自動ドアには「セルフサービス」と書いてあり、同タイプの店舗は松屋と同様に、入口付近の券売機で券を購入するシステムになっている。従来店のように店員が料理を運ぶのではなく、番号を呼ばれた客が取りに行く手順なのも特徴だ。食後は客が返却口に食器を返すため、基本的に店員がホールに出てくることはない。 

 

 セルフ方式を導入している八丁堀四丁目店(東京都中央区)を訪れた。所感として、通常のすき家の1.5~2倍程度の広さがあり、席数も多い。何より提供までのスピードが早い点が印象的であった。牛丼(並盛)を券売機で購入すると、わずか1分後に呼び出されたのである。昼下がりで客が少ない時間帯ということもあるが、外国人とみられる2人の店員は他の店舗よりゆったりと働いている印象を受けた。最低限のオペレーションで済むため、通常店よりも働きやすいのではないだろうか。 

 

 前述の通り、これまでは券売機を避けていたすき家だが、人手不足やコスト高が進む昨今、セルフ式の導入は避けられなかったのだろう。対面での注文にこだわる吉野家も現時点で券売機には及び腰だが、一部店舗でタッチパネルの導入が進んでいる。 

 

 

 最近のすき家は、店内での使い捨て容器による提供が話題となった。近未来感やSF映画を思い起こさせるのか、SNSでは“ディストピア容器”と呼ばれている。ゼンショーHDによると2022年から都内のセルフ式店舗で提供を始めたという。SNSでは「衛生的に良い」という高評価もある一方、やはり簡素さに対する批判的な意見も多い。 

 

 話題を呼んだディストピア容器だが、人手不足に苦しむすき家にとって避けられない施策だったのだろう。牛丼店ではこびりついた米を取るために皿を1枚ずつ「浸漬槽」に浸しておく必要があり、皿洗いは重労働だ。同工程の自動化は未だに進んでいない。 

 

 前述の八丁堀店もディストピア容器で提供していたが、つゆが容器に染み込むことがなく、いつも通り食事できた。重いどんぶりでかき込みたい気持ちもあるが、特に不便は感じなかった。 

 

 ファストフード業態のマクドナルドは昔から店内でも使い捨ての包み紙や紙容器で提供していたわけで、使い捨て容器自体は珍しいものではない。しかし、すき家の容器がディストピアと評されたのは、牛丼=和食という認識があり、ご飯ものをちゃんとした丼ぶり容器で食べたい願望があるからだろう。 

 

 そもそもファストフードの牛丼業態で、面倒な皿洗いを継続してきたこと自体、無理があったといえる。現在のマクドナルドに皿洗い業務を追加した場合の混乱を想像してみれば、そのハードさは理解できるはずだ。 

 

 近年におけるすき家の効率化施策をまとめると、セミセルフレジやタッチパネルの導入、そして券売機&セルフ式店舗の展開と使い捨て容器による提供がある。当初、券売機を導入するつもりはなかったというが、現在では導入が進み、競合の松屋に近付いている。前述の通り、対面にこだわる吉野家もタッチパネルを導入しており、3社による競争が激化するなかで、効率化の正解例がいくつもあるわけもなく、今後は3社とも同じような業態に収束する可能性もある。 

 

 マクドナルドのように、海外のファストフードチェーンでは券売機による注文・決済→使い捨て容器での提供という流れが一般的だ。対面での接客やお皿での提供にこだわってきた国内の牛丼業態だが、価格的にはファストフードと同じである。効率化が進むほどマクドナルドと同じ仕組みになっていくのではないだろうか。 

 

著者プロフィール:山口伸 

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 

 

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