( 206137 ) 2024/08/28 16:50:42 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
令和5年に発表された国税庁の調査によると、富裕層における申告漏れの所得金額の総額は980億円と、過去最高です。これは、資産運用の多様化、投資内容の複雑化などが影響しているようで……。本記事では、Aさん(26歳/無職)の事例とともに、投資の申告漏れが原因の税務調査について木戸真智子税理士が解説します。※プライバシーのため、実際の事例内容と一部改変しています。
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令和5年11月に国税庁より公表された令和4事務年度の所得税および消費税調査等の状況によると、株式などの譲渡所得の申告漏れが約425億円にものぼっています。
マイナンバーの紐づけにより、申告漏れも容易に把握できるようになってきているのです。
また富裕層に対する調査状況では、申告漏れの所得金額の総額は980億円と、過去最高となっております。これは資産運用の多様化、特に海外投資などで、投資内容も複雑になり、申告漏れも起こりやすくなっていることも要因となっています。富裕層を担当する特別国税調査官も配置されており、富裕層をターゲットにした税務調査も増加傾向にあります。
ここでひとつの事例をご紹介します。
26歳のAさんは、中学のころ、不登校気味になっていました。学校に行かずに家にいるあいだは、ネットの世界にはまってしまい、一日中、ネットをしていることも多くなっていました。Aさんの両親は心配をして、Aさんを家から外に出す方法をいろいろ試みてみたものの、Aさんの状況は改善することがなく、悶々とした日々を過ごしていました。
そんなとき、当然、進学の話にもなったところ、Aさんは高校には進学しても、将来、会社員として働く毎日を送るのは嫌だと思うようになりました。というのもAさんの父親は証券会社に勤めており、朝は早く、夜は遅く、非常に多忙な生活をしており、家にいるときは疲れてずっと昼寝をしているというような状況でした。父親のことは尊敬するけれど、将来、そんなふうになりたいかというとなんとも言えない気持ちになっていました。
そんなふうに将来についても明るい未来を描けない状況のなか、父親が証券会社に勤めているということも影響してなのか、株式に興味を持つようになりました。それからというものネットで株について、いろいろと調べるようになり、株式投資に興味を持つようになりました。
そしてAさんは中学3年生のころ、親にお願いをして貯めてきたお年玉30万円で株式投資をすることにしました。
両親も、笑顔もなくただ毎日を家で過ごしていたAさんが初めて自分のやりたいことを言う姿をみて、なんでもいいから本人のやりたいことをやることで、きっかけになればという気持ちになり、株式投資をすることを容認することにしました。
最初はお手ごろに投資できるような身近な銘柄や投資信託などをコツコツと投資をしていき、高校生のときには400万円まで株式資産が膨らんでいました。
そして高校卒業後はフリーターをしながら、お給料のほとんどを株式投資につぎ込むようになりました。実家からは出ていなかったため、家賃や食費はかかりませんでした。多くはインデックス投資でコツコツを毎月つみたてていましたが、ある程度の資産になってくると海外の株式や色々な証券会社で口座開設をして、投資を楽しむようになっていました。
そうこうしていると20歳を過ぎるころには株式の資産は数千万円に。そこで、この資金を元手に、これまでの投資を続けながら、未公開株式やエンジェル投資にも挑戦してみようと思うようになりました。
皆さんご存じのように、証券会社で口座開設をすると一般口座と特定口座があり、特定口座は源泉徴収ありと源泉徴収なしの2種類があります。そしてこの源泉徴収ありを選択すると確定申告は必要ないのですが、場合によっては確定申告をするとメリットがあることがあります。それは損益通算ができるからです。
そして、うっかりしやすいのが特定口座でも源泉徴収無しの場合には、当然確定申告をする必要が出てきます。
Aさんはこの時点でたくさんの口座を開設していました。特定口座だけでなく一般口座もあり、分散投資をするにつれて複雑になっていきました。
そんななか、Aさんはエンジェル投資をすることにしました。エンジェル投資は特定中小会社に投資することで税制優遇を受けられるものです。この税制優遇は税制優遇AとBの2種類あり、課税所得から寄付金控除と同じように控除が出きる方法と株式の譲渡益から控除ができる方法があります。Aさんはこの株式譲渡益から控除ができるというところにメリットを感じ、値上がりが期待できる株式を売却予定だったこともあり、そのタイミングでエンジェル税制を利用することにしました。
それから数年度、Aさんは順調に株式投資で資産を増やし、それとともにエンジェル税制の投資もいい投資先があれば投資をしていました。
そんな風に投資の生活を続けて、ついに25歳にしてFIREを実現することができました。中学のころから、なりたい職業というものにピンとこなかったAさんにとっては、理想の生活そのものでした。
そんなある日、税務調査がやってくることになりました。
噂には聞いていた税務調査がとうとう自分の身にも降りかかってきたのかとドキドキと緊張しながら税務調査の日がやってきました。
調査官は特別国税調査官でした。ベテランのような雰囲気の年配で物腰柔らかい印象の調査官でした。第一印象としては優しそうで、柔らかいように思えるこの調査官こそが、富裕層担当のベテランの調査官です。
調査官は調査に来る前にすでにAさんの過去の確定申告内容、投資の内容、そしてネットの情報も調べていました。Aさんは投資のことについて、SNSなどに情報発信していたのでした。
調査官はそんなAさんのわかり限りのプロフィールを調べ上げて調査にきていたのでした。当然、SNSから垣間見える投資先の状況も把握していました。
というのも、エンジェル税制での投資先は友人の紹介などで出会った経営者などだったので、投資先の経営者ともプライベートに交流をしており、そんな様子も調査官は知っていました。そうして、調査当日、すでに調査官は申告漏れに気付いて調査にきていました。
「この株式譲渡の申告がないようですが?」とピンポイントに数々の指摘を受けました。
Aさんはたくさんの口座開設をしており、一般口座、特定口座も混在していました。そして特定口座もたくさんあったがゆえに、源泉徴収なしでの株式譲渡の申告漏れが多数あることが発覚しました。
さらに恐ろしいことに、エンジェル税制により税制優遇を受けていた投資先の経営が悪化して、損切りをする形で売却した株式譲渡も申告ミスが発覚しました。それはエンジェル税制により投資時に優遇を受けた分については、売却時には、株式譲渡益として認識するということをうっかり忘れており、その分の譲渡益がすべて抜け落ちていたのでした。
Aさんへの最終宣告
本来は3年分遡る調査が通常ですが、Aさんの場合には5年遡ることになってしまいました。そして申告漏れが発覚した5年分の株式譲渡所得はなんと8,000万円、住民税も合わせて約1,700万円の追徴課税となりました。
分散投資をするにも、税務調査のリスクヘッジもしておかないと、思わぬ誤算となります。
木戸 真智子
税理士事務所エールパートナー
税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー
木戸 真智子
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