( 206447 ) 2024/08/29 16:55:14 0 00 写真=新潟大学スーパーカブ倶楽部提供
「時代の流れ的に仕方ない感じもするが、なくなってしまうのはとても寂しい」。新潟大学のサークル「スーパーカブ倶楽部」で代表を務める、3年生の小野稜介さんはそう話す。
【関連画像】条件を満たせば原付免許で125㏄バイクが運転できる。50㏄原付、新基準のポイント
30人程いる同サークルでは、ホンダのスーパーカブなど“原付き”好きが集まり、週末にはツーリングに出かける。小野さんの愛車は「スーパーカブ50」。1年生の夏には新潟を出発してひたすら南下し、紀伊半島を回る長旅を愛車とともに走りきった。通学や買い物など、移動の足としても毎日使う。「値段も安いし燃費もいい。周囲でも使っている人は多い」と話す。
長年、庶民の足として親しまれてきた、総排気量が50cc以下の「原付一種(原動機付き自転車)」。中でも代表的な「スーパーカブ」シリーズは、世界の累計生産台数が1億台を超え、「世界一売れたバイク」としても知られる。通勤通学から郵便配達、飲食店の出前まで、幅広い用途に使われ、庶民の日常を支えてきた。
しかし、近年では電動アシスト自転車や電動キックボードなどの普及もあって、原付きの出荷台数は激減。2023年における原付一種の出荷台数は9万2824台と、1980年に比べ20分の1の水準にまで落ち込んでいた。
こうした中で二輪大手のホンダは原付一種の生産終了を検討している。またホンダからOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けているヤマハ発動機も、ホンダが生産を終了すれば販売を終える公算が大きい。
市場の縮小に加え、メーカーに撤退を迫ったのが、2025年11月から原付一種に適用される新たな排ガス規制だ。ガソリンの不完全燃焼時に排出される有害物質、炭化水素の量を従来基準の3分の1以下にまで減らす必要がある。
炭化水素などの排ガス中の有害物質は、マフラー内部の触媒で除去するが、排気量の少ない原付一種では触媒が効果的に機能する温度に達するまで時間がかかり、新規制への対応が難しい。基準を満たすためには、新たな開発投資が必要となり、現状の市場規模では採算確保が困難な状況になっていた。
これまで原付一種が担ってきた日常の足としての役割をどう存続させるか。警察庁は有識者会議を開き、原付き免許の区分に、排気量125cc以下のバイクの最高出力を抑えた上で組み入れる形で法改正する方針を示している。もともと原付一種の50cc以下という区分は日本独自のガラパゴス規格だ。海外市場では125ccクラスが一般的で、国内の区分もそれに合わせた形で修正が検討されている。
「原付二種」に区分されている125ccのバイクを運転するには、現行の免許区分では「小型限定普通二輪免許」以上が必要となる。検討が進む新たな区分の下では、エンジンの最高出力を原付一種相当の4キロワット以下に抑えた125cc以下のバイクも、原付き免許で乗ることができるようになる。警察庁は25年11月からの新たな排ガス規制の導入までに、道路交通法を改正したい考え。法改正後も時速30km以下の制限速度や2段階右折など、原付き独自の交通ルールは変わらない。
だが新たに示された区分には課題も少なくない。有識者会議に参加した大阪大学の中井宏准教授は「利用者にとっては区分が分かりにくい」と訴える。「原付き免許で乗れる対象はあくまで出力を制限した排気量125cc以下のバイクのみ。誤解して制限がない125ccに乗ってしまうと無免許運転になってしまう」と懸念する。
また、速度制限や2段階右折、2人乗り禁止といった原付き独自の交通違反をどう取り締まるかも課題だ。中井氏は「警官からすると、125ccのバイクに乗っている人が原付き免許で運転していると車種から分かりづらい。違反者が取り締まりを逃れてしまう恐れがある」と話す。現状の原付一種、二種と同様にナンバープレートで区分する案が検討されているが、車体の外観から判別しにくいという課題は残る。
●「どうやって出力を絞るのか」
そして新たな区分についてはメーカー側からも懸念の声が上がっている。ある二輪メーカーの関係者は「そもそもどのような手法で出力を絞って125ccバイクを販売すればいいのかが全く決まっていない。具体的なことについては関係省庁からの通達を待つしかない」と話す。原付きの“売り”だった価格の手ごろさについても、車台自体が二種の125ccバイクと同じ物となるとすれば期待しにくいだろう。
「スーパーカブ倶楽部」代表の小野さんは「普段から原付きに乗る自分にも、新区分に移ることで、どのように変わっていくのか全くつかめていない」と話す。現在、50cc以下の原付きに限って使えている駐輪場についても今後どうなるのか、懸念する。
販売台数が落ち込んでいるとはいえ、全国ではいまだ約450万台もの原付きが利用されており、原付き免許の保有者は84万人に上る(22年7月時点)。特に地方においては、通勤通学や買い物などに欠かせない「庶民の足」であり続けている。
25年11月からの新たな排ガス規制の導入まで1年あまり。それまでに原付き免許も新区分へと移るとなれば、時間は限られる。スムーズな移行に向け、周知の徹底と詳細なルールづくりを急ぐ必要がある。
玄 基正
|
![]() |