( 206612 ) 2024/08/30 02:05:01 0 00 AERA 2024年9月2日号より
物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2024年9月2日号より。
【図を見る】「日本に住む私たちは円安と円高どちらが嬉しい?」はこちら
* * *
先月めちゃくちゃ売り上げが伸びたという話を宝飾店の人から聞いた。「円安の影響で8月に値上げをします」と顧客に電話して回ったところ、駆け込み需要が相次いだそうだ。
この数年で僕らは円安に相当敏感になってしまった。小麦粉も牛肉も電気代も、家を建てるときの木材の費用だって、輸入に頼っているものはこの数年の円安のせいで爆上がりしている。「いったいどこのどいつなんだ、円安がいいと言っていたのは!」
僕だけじゃなくて、世の大勢の人が思っているだろう。できることなら、あの円高の時代に戻ってほしい。
こんなことを言うと専門家風情からお決まりの答えが返ってくる。
「外国に商品を売りやすくなるから円安がいいんだよ」
いろんな立場があるかもしれない。だけど、日本に住む僕ら“個人”にとっては円高がいいに決まっているのだ。
これは、僕ら個人は最終的に何が欲しいのかを考えれば明らかだ。カネが欲しいのか、モノが欲しいのか。次の2択ならどちらを選ぶだろうか。
(1)好きなだけお金をもらえるが、物やサービスに交換できない。
(2)好きなだけ物やサービスをもらえるが、お金に交換できない。
札束の風呂に入りたいという奇特な人もいるかもしれないが、普通の人なら(2)を選ぶのではないだろうか。お金に価値を感じるのは、最終的に物やサービスに交換できるからだ。
念のため、インスタグラム(@tauchimnb)でアンケートをとってみたが、円安よりも円高が嬉しいと答えた人が圧倒的に多かった。少数派の円安が嬉しいと答えた人はおそらく外貨投資をしている人だと考えられる。
個人にとっては生きていくために食料や住居などのモノが必要になる。ところが企業の視点になると話が変わる。会社が最終的に必要とするのはモノではなく、カネなのだ。稼いだお金から株主に配当を支払ったり、従業員に給料を支払ったりしなければいけない。
つまり、個人はモノを最大化することを考え、企業はカネを最大化しようとする。企業連合がつくる経済団体などは、政権に対して円安にしてほしいというお願いをする。その結果、政府は量的緩和政策など、自然と円安の味方になる政策をとってきた。
今年に入ってから為替相場は1ドル=140~160円台の円安水準で推移している。だが、日本の製品が売れているかというとそうではない。7月30日に今年の上半期(1~6月)の貿易統計が発表されたが、なんと3兆2千億円の大赤字。日本製品に昔ほどの輝きはないのだ。
1980年代は自動車や家電が日本の膨大な貿易黒字を牽引していたが、家電については輸入に頼るまでになってしまった。
モノを最大化したい個人にとっては円高が良くて、カネを最大化したい企業にとっては円安が良い。どっちがいいのかというと、円高であることは言うまでもない。国は企業のために存在しているのではなく、個人のために存在しているからだ。
この円安で外国人観光客が押し寄せ日本の観光産業はお金を儲けているが、僕ら個人は海外旅行へのハードルが高くなってしまった。
円高だったあの時代に戻ってほしい。僕は円高の味方であり続けたい。
※AERA 2024年9月2日号
田内学
|
![]() |