( 207157 )  2024/08/31 16:31:59  
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北陸新幹線(画像:写真AC) 

 

 北陸新幹線小浜・京都ルートの詳細なルートが発表された。京都市の西側から入り、嵐山付近で三つのルート案に分かれる形で、急カーブが続くその案を見た人々はX(旧ツイッター)で「こんなルートならプラレールでやれよ」といった声が上がるほどだった。 

 

【画像】「えっ…!」これが60年前の「米原駅」です(計19枚) 

 

 京都駅前後の長い減速区間により、当初の金沢~新大阪間は1時間21分との前提も崩れることは必至だ。しかも、特に新大阪駅の工期が長く、新大阪延伸には最低でも25年の歳月と3.9兆円もの費用がかかるという。さらに今後の物価上昇により5兆円越えの可能性もあるとのことだ。 

 

 この状況を考えると、以前当媒体で「混迷する「北陸新幹線ルート」 あなたは小浜派?米原派? 鉄道ジャーナリストの私は、どう見ても「小浜ルート」一択です」(2024年7月28日配信)という記事を書いた筆者(北村幸太郎)も、いくらリダンダンシー(多重性)のためとはいえ、小浜・京都ルート推進に疑念を抱かざるを得ない。 

 

 米原ルートとの差額約3兆円を使って、与党整備委員会の西田昌司議員が推す山陰新幹線や、本土で唯一新幹線がない四国に新幹線を作った方が国益になるのではないか。工期もあまりに長すぎる。石川県知事も「その頃まで生きているかなぁ」と会見で漏らしているほどだ。 

 

 さらに、以前の記事に添付した米原ルートの想定ダイヤをより詳しく検討した結果、国が出した悪条件の試算では「金沢~新大阪間1時間41分」となっているが、小浜ルートよりも1分速い「金沢~新大阪間最速1時間20分」が明らかになった。 

 

 また、金沢~名古屋間については、米原駅での乗り換えを考慮しても最速1時間14分になるとの試算が出た。料金面でも、国は小浜ルートより2000円高くなるとの試算を2016年に出しているが、これも現行の制度を無視した 

 

「かなり盛った数字」 

 

であることがわかった。料金面については別の機会に詳しく述べるが、今回はまず所要時間の面で米原ルートのメリットをお伝えしたい。 

 

 

2024年7月28日配信の北村氏の記事「混迷する「北陸新幹線ルート」 あなたは小浜派?米原派? 鉄道ジャーナリストの私は、どう見ても「小浜ルート」一択です」 

 

 米原ルートのダイヤ試算にあたって、米原ルート否定論への反論といくつかの前提条件を示したい。米原ルート否定論の多くは設備面に関する問題が指摘されている。以前の記事への反響として、Xでいくつかの否定論を目にしたが、主に次の5点が挙げられていた。 

 

1.運行管理システムが分岐・合流に対応していないシステムである(これは国交省もいっていた) 

2.車両の規格が合わない 

3.東海道新幹線は16両しか受け入れない 

4.線路容量の観点で無理 

5.JR西日本は収益が減って嫌がるはずだ 

 

というものであるが、特に「1」と「2」については「進歩の否定のオンパレード」といわざるを得ない。 

 

 前回の記事では運行管理システムについて 

 

「どの道、佐賀県の西九州新幹線や岡山から四国新幹線や伯備新幹線を分岐させるときに問題になるほか、国交省自ら新大阪駅の山陽新幹線地下ホーム増設の際に北陸新幹線との直通も検討するとしているのだから、今解決しないなら問題の先送りをしているだけだ」 

 

と述べたがそれだけではない。新幹線システムの海外輸出の観点でもいいことではないはずだ。 

 

 欧州などの海外勢では新幹線と在来線の直通や分岐・合流、デルタ線などが複雑に絡む運行管理をしている。ということは当然、それに合わせたシステムが普通であり、JR東海のように実質、 

 

「単一の路線にしか合わない運行管理システム」 

 

が、欧州のそれに勝てる訳がない。だから日本は新幹線発祥の国なのに、新幹線輸出で海外勢に負けていることの方が多いのではないか。 

 

 ならば、この米原ルート整備は海外にも受け入れられる新幹線システム開発のチャンスと捉えるべきではないか。このシステム改修に国は本腰を入れてJR東海を全面的に支援していくべきだ。 

 

「2」の車両面でも同じことがいえる。 

 

 JR東海はN700Sをどんな長さの編成にも4両単位で自由に設計変更できる仕様で開発したとして、8両編成での運転試験を披露している。編成の長さも大事だが、さまざまな国へ展開するなら寒冷地にも対応できる仕様も開発すべきだ。 

 

 北陸新幹線米原ルート実現のためには、N700系列で統一されている東海道新幹線内の車両性能に合わせるため、当然、新大阪乗り入れ車両は北陸用12両のN700系にする必要がある。北陸用だからN700H系となるだろうか。これも寒冷地国へ輸出できる車両の開発のチャンスといえるはずだ。 

 

 また、糸魚川駅付近にある50Hz送電区間にも対応できる形にすれば、新大阪~長野間直通で最速2時間28分にすることもできる。車両側で対応が難しければ、今からでも変電所にJR東海の富士川以東の変電所のように、50/60Hzの変換装置を付けられないだろうか。将来の羽越新幹線直通(上越妙高~長岡・新潟間)も見据えて検討いただきたい。 

 

「3」の16両しか受け入れないということもあり得ない。車両を東海道新幹線のぞみと共通運用にするならそうかもしれないが、そんな運用を組むことはまずあり得ないだろう。 

 

 

新大阪~鳥飼間複々線イメージ(画像:北村幸太郎) 

 

「4」の線路容量の観点についても、そりゃあJR東海も現行設備のままじゃ受け入れないだろう。 

 

 敦賀~米原間にばかりフォーカスした議論だからそういう話になる。東海道新幹線で最も線路容量を食っているのは新大阪駅と新大阪駅の京都方10kmのところにある鳥飼車両基地までの間である。 

 

 ここの区間だけ複々線化し、鳥飼車両基地分岐部と複々線合流点の配線を工夫することにより、同区間の回送列車・新大阪折返の列車と山陽新幹線直通列車との新大阪駅での平面交差と線路容量の圧迫を完全になくすことが可能となる。 

 

 この建設費は小田急の代々木上原~登戸間複々線化のときの費用が3200億円であったことを参考に、小浜ルート並みの物価上昇(2.1兆円→3.9兆円)を考慮しても6000億円もあればできるだろう。これと敦賀~米原間建設費1兆円を足しても 

 

「1.6兆円」 

 

と、小浜ルートの半額以下である。 

 

北陸新幹線開業後の米原駅配線図予想(画像:北村幸太郎) 

 

 ここまですれば北陸新幹線列車は1時間最大5本の乗り入れが可能となる。 

 

 また、米原駅部についてもどんな運用でもできるような配線にしてダイヤ設定の自由度を高めてあげたらいい。JR東海も多少は考えてくれるだろう。 

 

 リニア開通まで待てばそんな投資は要らないとか、京都駅のホーム増設や、京都側からも鳥飼基地へ入れる線路の増設などで京都発着にすればいいとかの声も筆者に寄せられているが、JR東海の丹羽社長は 

 

「リニア建設は(名古屋を境とした)東西同時施工不可・名古屋開業も2034年」 

 

と発言をしており、全線開業は早くて2044年との公算が大きい。米原ルートで開通ならそれよりも早いだろうし、リニア開通後もダイヤの安定性向上とダイヤ設定の自由度向上を鑑みれば、新大阪~鳥飼間複々線化は必要な投資といえよう。 

 

 極論、小浜ルートの半額以下になるなら何千億円でもかけていい。JR東海を納得させるためならそこまでするのが筋である。 

 

あとは「5」のJR西日本は収益が減って嫌がるはずだという点については、次回の料金面の記事で触れたいと思う。 

 

 

 次に、今回のダイヤ試算の前提条件についてお示しする。 

 

 国が2016年に想定した米原ルートの所要時間1時間41分はかなりの悪条件での想定だ。これは東海道新幹線への乗り入れはせず、米原駅での乗り換え時間15分を前提としたダイヤである。 

 

 これに対し筆者は前述の運行管理システム改修により新大阪直通を前提としたほか、米原駅には高崎駅付近の北陸新幹線と上越新幹線の分岐部にも採用されている160km運転でも通過可能な分岐器を、駅の名古屋方に通過線から北陸新幹線本線に入れる形で設置し、速達列車については160kmで米原駅を通過するものとした。 

 

 また、金沢~福井間は現状、最速達列車でも24分となっているが、筆者が次の条件で試算してみると…… 

 

1.255~260km運転(秒速70m)で試算。 

2.金沢~福井間75.9kmを秒速70mで割って所要時間を出す。 

3.停車駅の前後1.5kmずつは105~110km運転(秒速30m)になるものとして時間差1分を加算。 

4.加速・減速分の時間差3分を加算。 

 

その結果22分と出た。この2分の差はなんなのか。24分で走る場合の速度を推定したところ、230キロで走らせているようだ。 

 

 実際にユーチューバーの方の側面展望と衛星利用測位システム(GPS)による速度計を付けた動画で最速達列車の運転を見てみると、金沢~福井間はほぼ全区間を230km前後で走行。これで23分30秒となっており、発車時の秒数が30秒だったので時刻表上は24分となっていた、ということのようである。ほかのユーチューバーによる列車の編成長300mを駅通過時の通過秒数で割った計算でも230kmであったので、230kmでほぼ誤差はないといえるだろう。 

 

 このようにして敦賀での特急との接続などの余裕時分を考慮して2分余裕を持たせているのだろうが、新大阪まで1本となればこの余裕時分は不要となる。 

 

 なお、筆者試算ではその代わりに東海道新幹線への合流時の余裕時分として、福井~京都間において、同駅間無停車の列車の所要時間42分に対し、福井~米原間で2分の余裕時分を足して44分としている。この余裕時分を含めた上で、金沢~新大阪間、新大阪方面は最速1時間22分、金沢方面は最速1時間20分としている。 

 

 

 
 

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