( 208008 ) 2024/09/03 01:13:35 0 00 山上信吾氏
自民党総裁選(9月12日告示、同27日投開票)の前哨戦の最中、中国が日本領空の侵犯という「重大な主権侵害」を仕掛けてきた。日本政府や日中友好議連の抗議や遺憾砲に対し、中国は「いかなる国の領空にも侵入するつもりはない」(中国外務省)などとうそぶいている。防衛省統合幕僚監部は30日、中国の無人機と推定される1機が同日午後、東シナ海から飛来し、日本最西端の沖縄県与那国島と台湾の間を通過して太平洋に向かったと発表した。前駐オーストラリア日本大使の山上信吾氏は、岸田文雄政権の「弱腰外交」が中国を増長させたと喝破し、二度と領空侵犯をやらせてはならないと指摘する。10人以上が出馬意欲を示す総裁選の判断基準として、「対中姿勢」を最重視した。
【画像】中国が発表した新たな地図に非難が広がっている
恐れていたことが起きてしまった。
中国人民解放軍偵察機による日本領空の侵犯だ。しかも、中国側が国際法上、誰も真面目に取り扱わない破天荒な主張を重ねてきた沖縄県・尖閣諸島上空ではない。長崎県の男女群島沖上空という、中国側も日本の領空であることを争わない空域だ。だから、「なおさら罪深い」と言えよう。
一部メディアや論者は中国側の意向の忖度(そんたく)にきゅうきゅうとしているが、そんなことは二義的な話だ。
重要なのは、まごうかたなき、わが国の領空が侵犯されたこと。ロシアは何度も犯してきたが、中国は初めて。その意味は、限りなく重い。そして、将来に暗い影を投げかけている。
第1に指摘すべきは、岸田文雄政権の「腰の引けた対中姿勢」が、中国をここまで増長させたことだ。
日本の排他的経済水域(EEZ)への弾道ミサイル5発の撃ち込み。原発処理水の海洋放出を受けた日本産水産物の輸入停止。尖閣諸島周辺の日本のEEZ内に海上ブイ設置。駐日中国大使の「日本の民衆は火の中に連れ込まれる」との暴言。東京・靖国神社の石柱への放尿・落書き事件。中国・蘇州で日本人親子切り付け事件など…。
こうした恫喝(どうかつ)、「侮日」行為が相次ごうが、「遺憾」の一言を繰り返すだけで、語るべきメッセージも成す術ももたなかった対応が招いた必然と認識すべきだ。
そう考えれば、柔弱でにやけた笑いが十八番である外務省の岡野正敬事務次官が、中国の施泳駐日臨時代理大使に申し入れをしたくらいで済ませては絶対にいけない。
上川陽子外相がアドバイスを仰いでいるとされる福田康夫元首相の教えに反しようが、中国の王毅共産党政治局員兼外相に対して厳正に抗議しなければならない重要度の話だ。日中友好議連が鼻の下を長くして訪中などしている場合ではないのだ。
■次に侵犯された場合「警告射撃辞さない」明確に
さらに大事なのは、二度と領空侵犯をやらせないことだ。
これこそ、まさに歴史に学ぶべき問題だ。思い返せば、尖閣諸島周辺の日本領海に初めて中国の公船が侵入してきたのは2008年12月の日中韓首脳会談の直前だった。「おざなりの抗議に止まり会談を壊せはしないだろう」と、日本の柔(やわ)な対応を見越した中国による巧妙な仕掛けだった。
同じ過ちを繰り返してはならない。領空侵犯を常態とさせることがあってはならないのだ。
そのためには、岸田首相、上川外相双方のレベルで、再発防止を強く求め、「万が一、次に侵犯された場合には、日本として中国機に対する警告射撃、強制着陸も辞さない」と明確に伝え、これを公にしておくべきである。
時は自民党総裁選たけなわ。こうした政治的季節に中国が仕掛けてきたことを、日本の政治家と有権者は深刻に受け止めなければならない。
次期自民党総裁、日本国総理の重責を担わんとする政治家は、すべからく、この問題に対する所見を明らかにすべきである。今のところ、報道によれば、明確に抗議しているのは高市早苗経済安保相と、小林鷹之前経済安保相のみという寂しい状況だ。
何をされても「遺憾」と応じ続けてきた「親中」で有名な候補。王毅氏にあいさつする際、目上の者を遇するように深々と頭を下げた候補。「尖閣は中国領土だ」とまで言われても「謝謝(シェイシェイ)」と述べたとされる候補。国民が猜疑のまなざしで、その「媚中」姿勢を懸念している候補らが、無言であるのが気にかかる。
今や「対中」姿勢こそが、次期総裁、総理の器か否かを測る最重要のバロメーターになった。
【自民党総裁選に出馬意欲を示している議員】
青山繁晴参院議員(72)
石破茂元幹事長(67)
加藤勝信元官房長官(68)
上川陽子外相(71)
小泉進次郎元環境相(43)
河野太郎デジタル相(61)
小林鷹之前経済安保相(49)
斎藤健経産相(65)
高市早苗経済安保相(63)
野田聖子元総務相(63)
林芳正官房長官(63)
茂木敏充幹事長(68)
■山上信吾(やまがみ・しんご) 外交評論家。1961年、東京都生まれ。東大法学部卒業後、84年に外務省入省。北米二課長、条約課長、在英日本大使館公使。国際法局審議官、総合外交政策局審議官、国際情報統括官、経済局長、駐オーストラリア大使などを歴任し、2023年末に退官。現在はTMI総合法律事務所特別顧問などを務めつつ、外交評論活動を展開中。著書に『南半球便り』(文藝春秋企画出版)、『中国「戦狼外交」と闘う』(文春新書)、『日本外交の劣化 再生への道』(文藝春秋)。
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