( 208588 )  2024/09/04 17:33:48  
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大阪・泉州沖に浮かぶ巨大な人工島、関西国際空港。巨額な工事費に伴う負債に苦しんだ 

 

関西国際空港は騒音問題を抱えた大阪(伊丹)空港の教訓を踏まえ、大阪・泉州沖5キロの平均水深約20メートルの海上を埋め立て、完全人工島を出現させた。巨額の資金が投じられ、最大で約1兆2千億円の有利子負債を抱える宿命を背負った。 

 

【写真】平成30年の台風21号で、関空連絡橋に衝突したタンカー 

 

■相次ぐ「災厄」 

 

世紀の難工事は話題となり、平成元年に公開された大森一樹監督の映画「ゴジラVSビオランテ」では埋め立て中の関空島の眼前に、災厄のメタファー(暗喩)とされるゴジラが出現した。作中では被害を免れたが、巨額負債という〝災厄〟が関空経営の重荷となった。 

 

航空機の着陸料はアジアのライバル、韓国・仁川(インチョン)空港、シンガポール・チャンギ空港の3倍近くに高止まりし、新関空会社初代社長、安藤圭一は「高い着陸料で路線誘致がはかどらず、旅客は増えない。空港の商業施設の売り上げも先細りだった」と振り返る。 

 

開港後しばらくは航空機の発着回数や利用者が増えたものの、米中枢同時テロやSARS(重症急性呼吸器症候群)など〝事件〟が起きるたびに利用が低迷。平成19年8月、2期島の第2滑走路の供用が始まったが、翌20年秋のリーマン・ショックによる世界的な景気減速で21年度の利用客は1351万6千人と過去最低に落ち込んだ。18年には神戸空港が開港。半径25キロ圏内に3空港がひしめき、航空需要を食い合う状況に苦しんだ。 

 

■国を動かした 

 

こうした閉塞状態は思わぬ形で打開へと動く。 

 

「伊丹空港の廃止も視野に検討する」。20年7月、大阪府知事(当時)の橋下徹は記者会見で、3空港の在り方の抜本的な議論が必要とした後、こう宣言したのだ。 

 

大阪府市の特別顧問を務める慶応大名誉教授、上山信一は発言の真意を「廃止ありきではなく、国に関空の問題を真面目に考えさせるのが狙い」と明かす。「成田空港の補完ということで地元にも資金を出させて関空をつくったのに、国は『関西内のローカル問題』として取り合ってこなかった」 

 

爆弾発言の破壊力は抜群だった。国土交通省が関空の財務改善を考えるようになり、平成22年には関空と伊丹を経営統合し、運営権を売却して負債を返済するという国内初の方針を打ち出したからだ。24年に運営権売却を前提に関空と伊丹を経営統合する新関空会社が発足。国際線の着陸料5%引き下げや深夜・早朝便割引の対象拡大などに迅速に着手した。 

 

 

タイミングにも恵まれた。ピーチ・アビエーションなどのLCC(格安航空会社)が相次ぎ誕生し、発着枠に余裕のあった関空に進出した。着陸料値下げがさらなる新規就航の呼び水となる好循環が生まれた。 

 

■台風で弱点露呈 

 

運営権の売却額は対象期間40年超で2兆2千億円と設定。土地・施設を所有する新関空会社が負債の返済に充てる。巨額投資となるため応札する民間企業があるか懸念されたが、オリックスと仏空港運営会社バンシ・エアポートが中核の関西エアポートが運営権を取得した。平成28年4月から運営に乗り出し、30年に神戸空港も含めた3空港の一体運営が始まった。 

 

来春から関空、神戸の発着枠が拡大することに対し、安藤は「関西の全体最適を目指した結果。1つの会社で運営するからこそ実現した」とする。 

 

ただ、民間運営は公共インフラとしての対応を求められる危機に弱点をさらした。平成30年9月の台風被害で空港連絡橋が破損して島内に約7800人が滞留した際、連絡橋が使用不能になった場合の想定をしていなかった関西エアの事業継続計画(BCP)は無力だった。関西エアは抜本的な災害対策の見直しを迫られた。民間の経営感覚と公共施設としての安全安心の視点。両立が次代の課題といえる。=敬称略 (藤谷茂樹、矢田幸己) 

 

 

 
 

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