( 208933 ) 2024/09/05 16:51:12 0 00 Photo by gettyimages
スーパーマーケットの棚からからコメが消えています。しかも、昨年の2倍の価格で店頭に並べてもすぐに売れ切れるという、異常な状況となっています。
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大阪府内では約8割の小売店などで品切れが発生していて、こうした状況に対して、大阪府の吉村洋文知事は「無くて困っている方がいるのに、“備蓄米”を放出しないという判断を続ける。倉庫に眠らせておく方がいいんだという理由が全く分からない」と“備蓄米”の放出に躊躇する政府に激怒しています。
これに対しては8月27日、坂本哲志農水大臣は、「(市場は)今後順次回復していくものと見込んでいる。コメの需給や価格に影響を与える恐れがあるため、慎重に考えるべき」と“備蓄米”の放出に後ろ向きの考えを示しました。
しかもダメ押しするかのように、8月30日に重ねてはっきり“備蓄米”を放出しない考えを示しました。
なぜ、農水省はこれほど頑なに“備蓄米”の放出を拒否するのでしょうか。そのまえに、“備蓄米”とはなんなのかを見てみましょう。
“備蓄米”は、「平成の米騒動」で制度化。
今から約30年前の1993年、日本は記録的な長雨と冷夏、日照不足に見舞われ、コメの収穫が激減しました。そのため、スーパーからコメが消え、高い闇ゴメが出回って、コメの価格が高騰したことがあります。さらには、農家にある出荷前のコメを狙ったコメ泥棒が横行するなど、米不足が犯罪にまで発展し大騒動になりました。
当時の日本には、コメは国産米で自給するという不文律があったのですが、このままだと社会不安にまで発展しかねないことを危惧した当時の細川政権は、「国産米で自給」の方針を大転換し、タイ米などの外国米の輸入に踏み切りました。
タイ米は日本人には馴染みがなかったために、私も「どうすればタイ米を美味しく食べられるか」などという記事を書いた覚えがあります。
これが、約30年前に起きた「平成の米騒動」です。
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この騒動が収束したのは、翌年の秋。沖縄県産の早場米を皮切りに、国内で収穫されたコメが順次市場に出回るようになってからでした。
政府はこのコメ騒動を教訓として、コメが不足するような事態を二度と引き起こさないために、95年にコメの“備蓄”を制度化する法律を作成。「10年に1度の不作や、通常の不作が2年続いた場合も対処できる水準」として年間100万トンを目標に、“備蓄米”を確保することを決めました。この“備蓄米”は、2024年6月末で91万トンあります。
なぜ、“備蓄米”が、迅速に放出されないのか。
コメ不足にならないために用意されている“備蓄米”なのに、なぜ今のような状況の中で、迅速に放出されないのでしょうか。
農水省は、まずコメの作付け状況から、小売価格、在庫量などの状況を調査し、これをもとに有識者でつくる「食糧部会」で話し合い、この結果を見て坂本農水大臣が最終決定をしなくてはならないので時間がかかり、“備蓄米”が店頭に並ぶ頃には新米も出回るので意味がないといった趣旨の説明を繰り返しています。
不思議なのは、政府はすでに、東日本大震災や熊本地震などの突発的な災害で、迅速に“備蓄米”を放出しています。災害時と事情が違うものの、なぜ今回は放出までにそんなに時間がかかるのでしょうか。
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そもそも昨年のコメの不作で供給不足になることは、前々から予測されていたこと。だとすれば、すでに充分な調査や検討などが行われているのが当然で、これから調査や検討をするので時間がかかるというのは、管轄省庁としてはあまりにお粗末と言わざるをえません。
放出しないまでも「政府が“備蓄米”の放出を検討中」というアナウンスを流すだけでも、買いだめは治るのではないでしょうか。
実は、手続きに時間がかかるという理由は、建前に過ぎない。農水省の本音は、“備蓄米”の放出でコメの価格を下げたくないというところにあるようです。
コメ価格を下げないことが、農水省の大命題。農水省が最も懸念しているのは、大量の“備蓄米”を放出することでコメの価格が下落してしまうこと。つまり、守りたいのは安定供給ではなく、高いコメ価格のようなのです。
過去50年ほどの農水省のコメ政策を見ると、コメ価格を下落させないことを大命題としているようです。
その土台になっているのが、コメが獲れすぎないように作付面積を抑える政策、すなわち減反政策デス。なぜ、こんな政策をとったかと言えば、食生活の多様化でパンやパスタなどが普及し、コメの需要が減ってきたからです。
そのため、コメ余りにならないように、国が都道府県ごとの生産量を決めた上で、各地の農業協同組合などが農家ごとに生産量を割り当て、それを上回る田んぼを潰してきました。
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この「減反政策」を、1970年から約50年間続けてきた結果、これまでに日本では、埼玉県一県と同じくらいの面積の田が潰され、耕作放棄地となっています。
驚くのはこの減反のために、なんと年間3000億円もの税金を使ってきたのです。
ただ、水田を潰すための補助金として巨額な税金を使うことに対する反発は大きく、「減反政策」は、2018年に廃止されました。
ところがこれは、世論をなだめるための安倍政権のパフォーマンスで、実際には、その後も水田を飼料用の米や麦、大豆などの作物にかえる農家には「水田活用の直接支払い交付金」を支給するなどして、実質的な「減反政策」は続いています。そのための予算は、2024年度で3015億円ですから、「減反」で使われていた補助金とあまり変わりありません。
コメ高騰で、誰が喜ぶのか。
「減反」以外にも、過剰米の政府買上げや安い外国米を国内に入れないための高い関税の維持など、農水省はあの手この手でコメ価格を維持する政策をとってきました。
2019年には、価格低下や災害などで収入が減少した場合に補てんする保険制度も導入しました。
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コメ価格の維持は、農水省が管轄するコメ農家や、天下り先であるJAグループ(農業協同組合)の悲願でもあります。
こうしてコメの価格を下げない工夫をしてきた結果、農家の平均的なコメの出荷価格は、長いあいだ1俵(約60キロ)1万前後で維持されてきました。さらに昨年秋にはようやく低価格米のスポット取引価格で1万3500円をつけました。
しかも、ここにきてコメの品薄で、コメの価格維持どころか価格高騰が起きています。なんと直近で2万3000円を超え、1年で1.7倍にもなりました。
価格の高騰は、農水省にとっては、コメ農家を潤し、農協を潤し、税金の支出を抑えるという大きな効果が期待できます。だからこそ、ここで値崩れの危険がある“備蓄米”を出したくないということでしょう。
高騰から消費者を、誰が守るのか。
消費者にとっては、コメ不足も困りますが、コメ価格が高騰することも家計に打撃を与えます。すでに新米は、4割高になるといった声さえも聞こえてきます。
今まで、あらゆる食料品が値上がりしていく中で、コメだけは割安な価格に抑えられていました。レトルトのコメパックでも、安いものは一食60円前後で買えました。
これが、パンやパスタのように値上がりしていくと、給料が上がらない中で家計に大きな負担となっていくことは避けられません。
後編記事<「令和の米騒動」は日本の食糧危機の始まりだ…政府がひた隠す「知ってはいけない事実」>に続く。
荻原 博子(経済ジャーナリスト)
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