( 208988 ) 2024/09/05 17:57:46 0 00 韓国「光復節」での反日・反尹錫悦政権デモ(写真:Lee Jae Won/アフロ)
韓国でまたもや反日が勢いづいてきた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足以来、一気に雪解けが進んだように思われてきた日韓関係だが、それは見掛けに過ぎなかったらしい。
【写真】反日でタッグを組もうとしている最大野党・共に民主党党首の李在明氏と、野党・祖国革新党党首で「タマネギ男」と呼ばれる曺国氏
(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)
ここにきて反日が勢いづいている背景には、尹大統領の不人気がある。今年4月に行われた国会議員選挙で与党・国民の党が大敗して以降、大統領支持率は30%前後と低迷を続けている。韓国調査会社リアルメーターが発表した直近のデータでは29.6%で、政権発足以来ワースト2の状況だ。
そうしたなか、野党は尹政権に対する批判のボルテージを上げ続けている。特に最近、尹政権や与党の政策を「親日」だと糾弾する声が最大野党・共に民主党から続々とあがっている。
韓国での「親日批判」はこれまでも繰り返されており、決して珍しいものではない。一般的に韓国社会における「親日」とは、戦前に日本が統治していた時代に日本に協力する言動をした人たちを指す言葉だ。特に、政治家の間ではそれ以外の文脈で使われることはなかった。
日本に強硬的な態度をとり続けた文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が在任中に掲げた「親日清算」もそうだった。そして、韓国で偉人として名を残している人物について、併合時代に日本に協力した記録を探し出す運動が韓国全土で展開された。
たとえば、2018年には東亜日報や高麗大学を創設した金性洙(キム・ソンジュ)を親日派として批判する運動がおこった。もちろん本人は他界しているのだが、銅像撤去を学生が要求する事態になり社会を賑わせた。つまり「親日」とレッテルが貼られると、半ば“罪人扱い”されてしまうのだ。
ところが最近は、現在の日本政府に歩み寄るような歴史観をにじませる言動をしただけでも「親日」と指摘されるほど、反日が勢いづいている。
その一例を紹介しよう。尹政権では近々、雇用労働部の長官が交代することになっている。それに先立ち、新長官候補の金文洙(キム・ムンス)氏が適任かどうかを判断する人事聴聞会が8月26日に開かれた。ところが、その席での金氏の発言が親日だと指摘され、聴聞会が13時間にわたり空転した。
その発言とは、日本が統治していた当時の朝鮮人の国籍は「日本」だとするものだ。これに対し、質問した共に民主党の議員は「我々の祖先の国籍が日本なんですか?」と問い直すと、金氏は「国籍は日本でしょう。知らないんですか?」と突っぱねた。
すると今度は野党議員らから、大韓民国や憲法を「否定している」との批判が金氏に浴びせられた。
こうした議論の背景には、大韓民国の建国時期に対する認識の違いがある。
■ 日本政府に近い歴史認識の人物は公職につけなくなる?
大韓民国の成立は、敗戦により日本から解放された朝鮮半島がアメリカをはじめとする連合軍の統治時期を経たあとの1948年だとするのが一般的で、それが日本を含む国際社会の共通認識だ。金氏の発言はこの歴史観によるものである。
だがその一方で、日本統治時代の1919年に起こった独立運動まで遡るとする見方も韓国国内には一定数広がっており、共に民主党はこの立場をとっている。
したがって、戦前の朝鮮人の国籍を「日本」とする金氏の発言は、共に民主党の歴史観から見ると、1919年から45年まで存在していた大韓民国(臨時)政府の存在を無視した歴史歪曲にあたる。今回の騒動は、それを根拠にしたものだ。
ただ、この程度で話が終わるのであれば韓国国内での歴史認識論争で片づけられるのだが、そうはいきそうにない。
金氏への公聴会の2日後、共に民主党は「憲法不正および歴史歪曲行為者の公職任用禁止などに関する特別法を発議した。これは事実上、朝鮮統治の歴史に関して日本政府に近い言動をする人物が公職に就くのを禁じさせようとするものである。だが、親日だと批判の矢面に立たされている尹大統領も「公職任用禁止」の対象になるため、この法案に対しては大統領が拒否権を発動する可能性が高い。
とはいえ、もしも次の選挙で共に民主党の政権が誕生すれば、似たような法案が提出・承認される可能性もある。また、韓国の場合「公職」には大学の教員も含まれることがある。そうなると、研究の場で自由な議論が妨げられることになるやもしれない。
では、政権交代の現実味はどれくらいあるのだろうか。
■ 日韓関係を暗転させる「政権交代」という時限爆弾
最大野党である共に民主党を牽引する李在明(イ・ジェミョン)代表は、8月18日の代表選で勝利し代表を継続することとなったが、その時の得票率が85%と高く、李代表の意見が党の方針に強く反映されるようになったと指摘されている。「李在明の民主党」とも呼ばれているほどだ。
しかも、次期大統領に相応しい人物に関する世論調査では、李代表が40.7%にのぼり、2位である国民の党の韓東勲(ハン・ドンフン)代表の24.2%を大きく突き放してトップである。
それにしても、若者をはじめとする多くの韓国人が日本を訪れるようになった今、反日を掲げる李氏がなぜここまで人気があるのだろうか。韓国社会は李氏の反日に何ら疑問を感じないのだろうか。
結論を言ってしまえば、韓国社会はそんなところに疑問を感じていない。4年前に韓国の市場調査会社エムブレイントレンドモニターが発表したデータであるが、当時韓国を一色に染めていた日本不買運動(ノージャパンキャンペーン)に参加していた国民は全体の約7割に達する。年代別では、もっとも多く不買運動に参加したのは30代(75.6%)で、次いで40代(70%)、それに20代(67.6%)が続く。その彼らがいま、日本にこぞって訪れている。
ということは、いま日本を堪能している彼ら・彼女らだって、ちょっとしたきっかけで反日に翻ることはいくらでもあり得る。そのことを裏付けるデータが去年7月に発表(出所:韓国リサーチ)された。
それによると、日本が韓国に十分謝罪したと考えている人は13%に過ぎない。しかも、日韓関係がすでに大きく改善していた時期にもかかわらず「日本製品不買運動に参加中」と回答したのは38%、さらに「日本製品不買運動を支持する」と回答したのは51%にものぼった。
そうすると、韓国では反日が国民の理解を得るための政策の一つの要になってくると言える。だから李在明代表はどんなに自分の勢力が安定しても、反日の狼煙をおろそうとはしないだろうし、そうやって大統領への階段を登っている。
■ カギを握るタマネギ男
だが、韓国大統領の任期は5年で再任はない。反日政策を韓国で繰り広げて安定した政権運営を担うには、強力な相棒が必要だ。それがやはりこれまでも日本を厳しく批判してきたタマネギ男こと、野党・祖国革新党の曺国(チョ・グク)党首である。
曺氏はもともと李氏とともに日本に対して強硬な発言を繰り返してきた。最近では李氏の唱える「親日追放」に賛同する声を挙げている。
これをめぐって保守系メディアである東亜日報系列のチャンネルAによれば、李氏の側近が「反日追放でタッグを組めば、李代表に次ぐ人物と目されるだろう。政権交代をにらんで結集すべきときは結集しますよ」と発言している。
ただ、2人とも司法リスクを抱えている。李氏は城南市長時代に土地開発をめぐって民間業者に多額の利益を得させた背任疑惑、曺氏は家族の大学不正入学疑惑を持たれている。
とはいえ、韓国の司法判断は時の政権の力にも左右されてきた。政権交代が現実味を帯びてくれば、次期政権に寄り添うような判決が下る傾向がある。現時点で次期大統領候補として大きな支持を集めている李氏が有罪判決を受けるかどうかは不透明だ。そして、無罪を獲得するためにも、李氏は政権奪取へと突き進まねばならない。
9月2日、文在寅前大統領と娘のダヘ氏への疑惑が一斉に報じられた。在任中の2018年に娘の元夫を航空会社に就職させ、その見返りとして元議員に公団理事長のポストを与えた収賄容疑である。
共に民主党が与党の時代の出来事だったため、李氏にしてみれば自分の信頼喪失につながりかねない。タマネギ男は文大統領の側近だった。それでも李氏は、支持拡大のため人気のあるタマネギ男と反日のボルテージを上げていく意志は変わらないだろうと、チャンネルAは報じている。
近々岸田首相の訪韓が予定されているそうだが、気軽に約束を取り付けると次の政権で手のひら返しされるだろう。そうなれば、日韓関係は大暗転である。
平井 敏晴(ひらい・としはる) 1969年、栃木県足利市生まれ。金沢大学理学部卒業後、東京都立大学大学院でドイツ文学を研究し、韓国に渡る。専門は、日韓を中心とする東アジアの文化精神史。漢陽女子大学助教授。
平井 敏晴
|
![]() |