( 209253 )  2024/09/06 16:40:25  
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インタビューに応えた元ネスレ日本CEOの高岡浩三氏 

 

「少数精鋭で仕事するということを覚えないと日本人は滅びるんじゃないですか」。ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が、日本テレビの『日テレNEWS』(8月26日放送)で述べた内容が波紋を広げている。同番組で柳井氏は、30年間低成長を続け、少子高齢化が進む日本はすでに中流階級の国ではないと語り、外国からの知的労働者を受け入れて少数精鋭で働く方向にシフトチェンジしないと、「日本人は滅びる」との危機感を表明した。 

 

【写真】意見が真っ向から対立した「ユニクロ」柳井社長VS「ZOZO」前澤友作氏 

 

 これに反応したのが「ZOZO」創業者で実業家の前澤友作氏。〈滅びるわけないだろって〉と自身のXに投稿し、〈移民で労働人口を増やそうとする前に、日本人の労働生産性の最大化を諦めたくない。日本人の底力はこんなもんじゃない。もっともっとやれるはず〉と続けて思いを綴った。ネット上では柳井氏の発言が炎上する一方、前澤氏の発言には共感や賛同の声が多く寄せられているが、現場の課題を知る経営のプロはこの“論争”をどう受け止めたのか。 

 

「僕は、圧倒的に柳井さんの言っていることのほうが正論ではないかと思いますね」 

 

 そう語るのは、ネスレ日本の元代表取締役社長兼CEOである高岡浩三氏。外資系企業のトップを長く務めた経験を持つ高岡氏は、柳井氏の考え方に共感する。 

 

「僕は外資系にいたので、少なくとも日本企業の経営者よりはプロ経営者とは何かを理解しているつもりです。『日本人が滅びる』とまで言うのは柳井さんの言葉のアヤだと思いますが、世界の中でこれだけ日本の地位が低くなっている現状では、彼と同じように、僕も選択的な移民政策はやらざるを得ないと思っています」(高岡氏、以下「」内同) 

 

 高岡氏は、返す刀で“前澤氏優勢”の世の風潮に異議を申し立てる。 

 

「柳井さんはZARAが始めた製造小売というビジネスモデルを磨いてユニクロを日本一のアパレル企業に育てました。前澤さんも一代でビジネスを始めた人ですが、立ち上げたZOZOTOWNをいいタイミングで売り抜けた。しかもZOZOTOWNは国内でしか展開していませんが、ユニクロは世界で勝負している。グローバルな競争社会のなか、『日本人はもっとやれる』という響きの良い言葉に共感したい人が多いのかもしれませんが、前線で仕事する柳井さんの言葉のほうが“世界の中の日本”の立ち位置を正確に表わしていると考えます」 

 

 高岡氏がそう考える背景には、シビアな現状認識がある。 

 

「日本は世界で最も深刻なレベルで少子高齢化が進み、国力が衰えています。僕がネスレ日本の社長に就任する20年前にはすでに右肩下がりで、先進国はみんな“日本のようになりたくない”と思っていました。特にネスレのような食品企業は、人口が減って胃袋の数が減り、さらに高齢化で消費量が減ると、誰がやっても売り上げと利益を伸ばすのは難しい。それほど、少子高齢化はビジネスにとってマイナスになるのです」 

 

 

 日テレのインタビューで柳井氏は、1ドル80円だった時代と比べて円の価値が半減し、給与水準が30年間ほぼ上がってこなかった日本は、「世界基準で考えたら年収200万円台の国」と発言した。 

 

「日本の経済がこれだけ縮小して日本人の給料が安いのは、企業に稼ぐ力がないからです。自国の中だけの競争では市場が広がらないし、商品やサービスの平均的レベルが高いので、その中で優位性を求めてもなかなか稼げません。実際、スイスのビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)が発表した世界競争力ランキング2024で、日本は67の国・地域のうち38位でした。バブル期の日本は1位だったので、凋落ぶりは明らかです」 

 

 バブル期の日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称されたが、バブルが弾けてから30年以上もの間、日本経済が低迷を続ける理由は何か。「バブル期は経営者がプロだったのではなく、労働力が優秀でした」と高岡氏は語る。 

 

「戦後の日本経済復興の半世紀でバブルが弾けるまでは、日本は先進諸国に追い付けの新興国。ただ、当時7500万人の人口であった日本の労働人口のほとんどが読み書きできたのは、非常に稀でした。また戦前・戦中の『産めよ殖やせよ』の時代で子供の数が多かったこともあり、戦後の日本の人口は50年間で約5000万人も増えました。質の良い低コストの労働力で、欧米諸国が創ったイノベーションを模倣して、さらに良い商品を作る。人口が増える国内で成長し、かつ海外に低価格で輸出できた。戦後バブルが弾けるまでの半世紀、日本経済はこうした低コストで質の良い労働力に助けられていたのです。 

 

 バブル後に人口が減少し始めたら、本来はそれまでの“勝利の方程式”を捨てなければならなかった。コストが安く質の高い労働力に頼るのではなく、マーケティングを学んだプロの経営者がイノベーションを起こしたり、少数の人間が効率的に高品質の製品を作れるように労働生産性を高めたりする必要がありましたが、日本の経営者はその努力を怠りました。その結果、『失われた30年』が延々と続いたわけです」 

 

【プロフィール】 

高岡浩三(たかおか・こうぞう)/1960年生まれ。1983年、神戸大学経営学部卒業後、ネスレ日本入社。2010年よりネスレ日本代表取締役社長兼CEO。2020年3月、同社を退社。著書に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)、共著書に『逆算力』(日経BP社)がある。 

 

 

 
 

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