( 209578 )  2024/09/07 17:17:56  
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現役世代が高齢者を支える現行の社会保障の仕組みには限界も 

 

「2025年問題」──来年は「団塊」世代がすべて75歳以上となる節目とされているが、人口減少問題に詳しいジャーナリストの河合雅司氏によれば、厳密には今年2024年には同世代がすべて後期高齢者となるという。超高齢社会がさらに深刻化する中で、社会保障制度維持のために政府が「次なる手」として打ち出したのが「全世代型社会保障」という制度だ。しかし、果たして政府の思惑通りになるのか? 河合氏が解説する(以下、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』より抜粋・再構成)。 

 

【イラスト図解】日本で2023年に生まれた人に待ち受ける過酷な未来「12歳」「20歳」「42歳」「47歳」「67歳」になったとき 

 

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 日本崩壊の萌芽は政府の政策にも内在しているが、最も分かりやすいのが社会保障制度だ。早くから対策に取り組んできた分野ではあるが、想定を上回る人口減少のスピードに、打つ手がだんだんと限られてきた。 

 

 2024年は、団塊世代がすべて75歳以上となる年だ。「2025年問題」と誤認識が定着しているが、厳密には1年早い。 

 

 75歳を超えると大病を患う人が増えるため、今後の医療や介護をめぐる公費負担の急伸が懸念されている。内閣府は1人あたりの平均医療費が2019年比で2030年には10%増、平均介護費は34%増と予想している。 

 

 2040年にはさらに膨らみ、それぞれ16%増、63%増になるという。こうした高齢者の激増が「2040年問題」として懸念されている。 

 

 足元を見ても、総務省によれば2023年9月15日現在の75歳以上人口は2005万人だ。2000万人を突破したのは初めてであり、高齢者の総数(3623万人)に占める割合は55.3%である。 

 

 平均寿命が延びており、「より年配の高齢者」が増えている。総人口に占める80歳以上人口の割合は10.1%だ。社人研の将来推計によれば2060年頃には総人口の約2割に達し、5人に1人が該当するようになる。 

 

「より年配の高齢者」の増加は社会保障費の膨張に直結するため、政府は早くから年金、医療、介護について負担増とサービスの縮小の両面からの改革を進めてきた。 

 

 だが、社会保障費の自然増の伸びを抑制する手法には限界がある。度を越せば制度として機能しなくなるためだ。そもそも利用者増が大きすぎるため、伸びる分を改革による抑制分では賄いきれない。 

 

 一方、出生数の減少は政府の想定を上回るスピードで進んでおり、現役世代が高齢者を支える現行の社会保障の仕組みは早晩行き詰まる。 

 

 そこで、政府が「次なる手」として考えたのが全世代型社会保障である。「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心」という構造を改め、年齢を問わず個々の負担能力に応じて支える形にしようというのだ。 

 

 政府は75歳以上の人に対し、後期高齢者医療制度の保険料引き上げに加え、出産育児一時金を42万円から50万円に引き上げるための財源の一部も負担させた。さらに、医療費窓口負担を原則2割に引き上げる構えだ。 

 

 

 問題は、現役世代の人数が著しく減っていることだけではない。賃金上昇が進んでこなかったため、社会保障費の伸びが雇用者総報酬の伸びを上回る状況に陥っており、現役世代に過度の負担を求める状況になっている。 

 

 本来ならばもっと早い段階で社会保障制度を抜本改革する必要があったはずだが、政治の不作為があった。選挙への影響を懸念する国会議員には、高齢有権者に不人気な政策を敬遠する傾向が強い。 

 

 このため、世論の反発が強い増税を避け、国民が気づきにくい給与天引きで社会保険料を引き上げるという姑息な手段を繰り返してきたのである。 

 

 結果的に、現役世代が負担する社会保険料は急上昇してきた。財務省が例に挙げている協会けんぽの場合、報酬に占める割合は2000年には22.7%だったが、2023年は30.1%だ。2040年には32.6%になる見込みである。 

 

 この結果、国民負担率も上昇し、2024年度の国民負担率は45.1%と所得の半分近くを占めている。収入が増えても税金や社会保険料として半分近くが消えて行く現状は、現役世代のやる気を削ぐ。SNS上には「五公五民」といった若い世代の不満の声が渦巻いている。 

 

 だが、全世代型社会保障への移行は政府の思惑通りには進みそうにない。高齢者の暮らしも決して楽ではないからだ。 

 

【プロフィール】 

河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。 

 

 

 
 

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