( 211043 ) 2024/09/12 16:03:56 0 00 (c) Adobe Stock
兵庫県の斎藤元彦知事が「パワハラ疑惑」「おねだり体質」で窮地に立っている。疑惑を告発した文書を配布した前県西播磨県民局長の男性職員が死亡し、知事の最側近である副知事が引責辞任を表明したのだ。斎藤知事への辞任圧力は日に日に強まっている。
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ただ、斎藤知事は「県職員との信頼関係を再構築し、県政を立て直す」などと辞職しない考えだ。3年前の知事選で「守るべきは守り、変えるべきは変えたい」と県政刷新を掲げて初当選した斎藤氏。2021年の兵庫県知事選挙の告示前にはXで「兵庫県、はずかしい」などと現状を憂う投稿し(その後投稿は削除)、物議を醸していたが、ブーメランとして戻ってきた形だ。
そんな中でデイリー新潮は9月11日、兵庫県への取材から斎藤知事が仮に「この9月中に知事を退くとすれば」と前置きし、「約1561万円の退職金が支払われる計算」であることを報じている。
組織のハラスメント問題に詳しい経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
ビジネスリーダー向けの雑誌『プレジデント』の編集部で13年間働き、さらに社員会(労働組合にあたる組織)の代表も務めた経験から、パワハラについて考える機会が多かった。ビジネスリーダーとして、部下を指導する立場にありながら、上司や経営陣の指導を受ける部下でもあるため、パワハラを「する側」でも「される側」でもあったという状況だ。また、社員会にはパワハラ被害の相談も寄せられていたため、経営陣に事態の解決を求めることもあったし、管理職としてパワハラ問題の解決を求められる場面もあった。
パワハラ(パワーハラスメント)とは、職場で上司や同僚が自分の地位や権限を使い、他の人に精神的・身体的な苦痛を与える行為のことを指す。
現代では、たとえば「お前なんか死んでしまえ」や「この給料泥棒」などと感情的にひどい言葉をぶつけることは、私の周りでは少なくとも見られなかった。これほど露骨な言葉を言えば、スマホで簡単に録音され、すぐに問題になる時代だ。暴力などの身体的なパワハラも同様に、非常にリスクが高い。
しかし、パワハラが問題になるのは、決定的な「一言」だけが原因とは限らない。実際に裁判になったり、会社で処分が下されるケースでは、その「一言」だけで突然レッドカードを突きつけられるわけではない。多くの場合、職場の上下関係や日常のストレスが積み重なり、長期間にわたって不満が溜まった結果、問題が表面化するのだ。もし、自分がパワハラをしてしまうかもしれないと心配しているなら、言葉だけに気を付けるのではなく、まずは普段からの態度を見直すべきである。
周りに10人もいれば、必ず一人くらいはどうしても馬が合わない人がいるものだ。だからこそ、日頃から人との接し方に気を配ることが重要なのである。
パワハラ問題について、背景を理解することが大切なのは、パワハラが表面には見えにくく、すぐに罪に問われにくいケースが多いためである。その場面だけを見ると、単なる仕事の指導に見えることもあるが、全体を通して見ると「あの人ばかりが厳しく叱られている」といった不満が積もっていくことがある。このような問題を整理すると、以下のようになる。
1. 指導や助言とパワハラの違いが分かりにくい
指導やアドバイスがパワハラと受け取られることがある。上司の指導がただのアドバイスなのか、それとも権力を使って無理をさせているのか、その境目が曖昧な場合が多い。
2. 業務の適正範囲がはっきりしない
仕事の範囲は組織の文化や役職によって異なるため、どこまでが適切かを明確にするのが難しい。例えば、上司が厳しい目標を設定し、厳しく管理することが、仕事の一部として受け入れられることもあれば、過度な負担と感じてパワハラとされることもある。
3. パワハラに対する感じ方は人によって違う
同じ言葉や行動でも、人によって受け取り方が違う。ある人には問題なくても、別の人には強いストレスとなることがある。例えば、厳しい指摘がある人には仕事の改善に役立つかもしれないが、他の人には精神的な負担となることがある。
こうした問題を整理すると、結局「人間関係って難しいね」という結論に行きつく。しかし、今はテレワークが広がっているため、パワハラを受けることよりも、人間関係が薄れてしまうことが新たな問題になっていると感じることもある。
このような時代の変化は「ピリオドエフェクト」と呼ばれる。ピリオドエフェクトとは、ある時代に起こった出来事が、その時代に生きる人々の行動や考え方に影響を与えることを指す。たとえば、戦争や経済危機、インターネットの登場、パンデミックなどがそうだ。これらの大きな出来事が、その時代に生きている人々の生活や考え方を大きく変えるのである。
稲盛和夫のような過去の経営者は、会議で幹部がいい加減なことを言い始めると灰皿を投げたり、おしぼりを投げつけたりしたという話がある。当時はそれが当たり前とされていたが、今のリモートワークや人権意識が高まっている時代では、そうした行動は受け入れられなくなっている。
リーダーが「強い愛」を示したつもりでも、現代ではそれはむしろ逆効果となってしまうだろう。
今回の兵庫県知事のパワハラ疑惑をめぐっては、百条委員会で「2月の終わりごろに、案件はよく覚えていないが、知事に相談に入った時、非常に怒り、付箋を投げた。少し厚い5ミリ程度の付箋だったと思うが、知事は真正面に向かって投げてアクリル板に当たったのをはっきり覚えている」(片山安孝元副知事の証言)という証言もあった。机を叩いたりすることもあったようだ。
付箋をアクリル板に投げつける行為、机を叩く行為が、法的にアウトである可能性は低いが、さきほどの整理に従えば、人によっては過度のストレスを感じてもおかしくない行為となりそうだ。このまま行くと、イライラして貧乏ゆすりをするような行為も、相手に過度のストレスを与える行為になっていくのかもしれない。今回のケースとは違うが、過度に管理職を縛り上げるルールづくりには慎重でありたい。そしてまた、これらの行為は兵庫県知事のパワハラを決定づけるものではない。
さあ、ここまできて、兵庫県知事のパワハラ疑惑、そして、おねだり疑惑について述べよう。
これまでのところ、職員によるアンケート、百条委員会によって、知事の過去の一挙手一投足が糾弾される展開となっている。
先に述べたように、パワハラとは、これまでの経緯やパワハラしがちな人格が背景となって、さらに明確にアウトな案件が存在すれば、責任を問われることになる。しかし、ここまで問題が大きくなったのは、県知事の部下にあたる元局長が、自殺をしたことに関連している。
「明確にアウトなパワハラ事案があり、それにともなって、あんな叱り方をされた、深夜に業務対応を求められたのはパワハラの気質があったのだ」であれば、県知事は罪に問われるのだが、明確なパワハラ事案は結局出てきていない。そして、パワハラめいたことをされた、乱暴な言葉遣いを受けた、交通ルールを破ったなどと一方的な証言だけが飛び出し、知事がそれを否定するという展開になっている。
「おねだり疑惑」については、全国の知事や市長が普通にやっていそうなことだ。問題が大きくなるにつれて、手続きのミスに注目する声も上がっている。たとえば、元大阪市長の橋下徹氏もその点を指摘しているが、大事なのは、パワハラ問題の有無と、政治家としての行動の2つだ。
手続きのミスを後回しにするべき理由は、これがパワハラの根本的な問題につながるからだと感じている。
例えば、次の3人がいるとする。「できない<普通<できる」の順で考えよう。
・Aさん:上司への報告は「普通」、時間厳守は「できない」、机の整理整頓は「できる」 ・Bさん:上司への報告は「できない」、時間厳守は「できる」、机の整理整頓は「普通」 ・Cさん:上司への報告は「できる」、時間厳守は「普通」、机の整理整頓は「できない」
この3人の上司が、特定の人を厳しく指導しようとした場合、その人が苦手な部分に目をつけることができる。たとえば、Aさんには時間厳守を厳しく指摘し、Bさんには上司への報告を、Cさんには机の整理整頓を指導する。このように相手の弱点を狙ってルールを設定し、問題を指摘することがパワハラの原因になることがある。
本来やるべきことをやらなかった、やってはいけないことをやっているなど手続き上のミスがあったかもしれないが、それを大きく問題にするのは政治的な意図が見え隠れしている可能性がある。手続き上のミスをつく、というのは、弁護士や共産党が得意とする方法論だが、それに乗っかるのはあまり好きになれない。
やはり、まずは法的に問題があったかどうかを確認することが重要だ。そして、今回の件では法的な問題はいまだに見つかっていない。
次に、政治家として、特に兵庫県知事としての行動が問われる。知事の振る舞いが不十分で、兵庫県民の信頼を失っているのであれば、辞任すべきだ。これは民間の会社でも同じで、株主の信頼がなければ社長は辞めなければならないのと同様だ。政治家も、有権者の信頼を失ったら行動を起こす必要がある。
現代では、SNSやYouTubeなどを使って有権者に、自らの身の潔白を直接アピールする手段があるのに、それを活用してこなかった。メディアにも積極的に出向き、自分の考えをしっかりと説明すべきだった。説明の方法、世論への訴えかけと言う情報戦にも属する部分で、大きな敗北を喫してしまった。政治家の手腕としては致命的な部分であろう。
また、民間企業では「厳しく叱れる人材が必要だ」と考える経営者も多い。部下を叱る中間管理職は、事前に経営者や幹部の理解を得ておくことで、裁判で有利になることがある。これを政治の世界で実行するなら、兵庫県知事は選挙の際に、有権者に「厳しく指示を出すこと」への許可を得ておくべきだっただろう。
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