( 211123 )  2024/09/12 17:36:20  
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日本銀行 植田和男総裁 Photo/gettyimages 

 

まもなく、日銀の金融政策決定会合が開催される。この会合の最大の注目点は、植田和男総裁の記者会見となるだろう。もしかしたら、この会見で相場に一波乱ということもあるかもしれない。今回は、その理由を説明していこう。 

 

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前回、7月の日銀政策決定会合での利上げによって、為替相場は円安から円高基調に転換した。だが、それは株価の大暴落という大きな痛みを伴うものとなり、株式市場は今なお、不安定な状況にある。 

 

円高転換で、たしかに輸入物価上昇は抑制されつつあるが、想定外の“令和の米騒動”があって米価は急上昇した。国民生活はなお大きな負担を強いられている。 

 

筆者は8月6日に寄稿した『日本株大暴落」戦犯たちの憂鬱と個人投資家の阿鼻叫喚…なにが「日本版ブラックマンデー」の引き金を引いたのか』で、日銀は大きな3つのまちがいを犯したと指摘した。 

 

1点目は、利上げと量的金融緩和策として行われていた長期国債の買入額の減額を同時に発表したこと。2点目は植田総裁がさらなる利上げに言及したこと。そして3点目は米国の動向を読みちがえたことだ。 

 

しかも、その後の市場の混乱の火消しをする際に、植田総裁と内田眞一副総裁がそれぞれ異なる説明をしており、これはさらなる不安要素となるかもしれない。 

 

7月の利上げ決定後の記者会見で、植田総裁は先行きについて「経済・物価情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく方針」を示している。 

 

利上げが遅れれば、あとの利上げ幅が大幅なものになり、経済の安定を損ねるという「ビハインド・ザ・カーブ」(政策が後手に回る)リスクがあるからだと説明したのである。 

 

ところが、8月7日に函館市で行われた金融経済懇談会で、次期総裁の有力候補とされる内田副総裁は「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」と述べた。これは為替が急激に円高に振れ、株式相場が大混乱に陥っていたことを受けた火消しではあるが、筆者は内田副総裁が利上げしない理由としてあげたことが気になっている。 

 

それは「円安が修正された結果、物価上昇上振れリスクが小さくなった」こと、また「円安修正は政策運営に影響する」という2点である。 

 

つまり、利上げによって円高が進行したことで、さらなる利上げの必要性が低下したと言っているように聞こえるのだ。 

 

さらに、内田副総裁は「わが国の場合、一定のペースで利上げをしないとビハインド・ザ・カーブに陥ってしまうような状況ではありません」と述べ、金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはないと明言した。この内田副総裁の発言は、植田総裁の発言を180度ひっくり返すものだ。 

 

 

内田眞一副総裁 Photo/gettyimages 

 

正副総裁の方針の違いは、市場が日銀のフォワードガイダンスを信用できなくなり、大きな混乱の要因となる。 

 

ところが、二人の意見の食い違いを裏づけるように、8月23日に国会閉会中審査の衆院・財政金融委員会に出席した植田総裁は、内田副総裁の発言を否定する姿勢を示したのである。 

 

まず、7月の利上げ後に株価が大暴落した点について、「8月2日の米国7月分雇用統計が予想以上に下振れたことによるもの」と答弁し、日銀の利上げが要因ではないとの姿勢を貫いた。 

 

さらに、「現在の実質金利は非常に低く、強い緩和環境を作っている」、また、「経済に大きな悪影響を与えずに追加利上げを進めることが妥当」との考えを示して、さらなる利上げに対する姿勢を変えなかった。 

 

当然、委員からは植田総裁と内田副総裁の発言が食い違っていることについて、説明を求める質問がなされたが、なんと植田総裁は明確な答弁をしなかった。説明が行われなかったことで、かえって両者の間の溝が鮮明となってしまったのだ。 

 

繰りかえすが、方針が明確でない金融当局の動きは、市場が見通しを立てるのを阻害し、混乱のひとつの要因ともなりえる。 

 

では、こうした不安要素をかかえながら、9月19・20日の金融政策決定会合ではどのような決定が行われるのだろうか。 

 

筆者の分析については、つづく後編記事『つぎの「日銀会合」でまた波乱か…!「植田総裁vs.内田副総裁」バトル勃発で、いま注目が集まっている「植田発言」』でじっくりとお伝えしていこう。 

 

鷲尾 香一(ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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