( 212068 )  2024/09/15 17:29:10  
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日銀のゼロ金利解除にともない、「これから変動金利を引き上げます」と公表する金融機関が増えています。そこで、「住宅ローン変動金利は今どうなっているのか?」を銀行員が解説します。また、住宅ローン返済中の人や借り入れを検討中の人へのアドバイスもお伝えします。(金融ライター・加藤隆二、現役銀行員) 

 

住宅ローンの金利差0.1%で返済額はこんなに変わる! 

 

 日銀のゼロ金利解除にともない、金利上昇に対する不安が高まっていることから、「銀行の短期プライムレート引き上げ!住宅ローン金利も上昇か?」といった記事や見出しをよく見かけます。 

 

 2024年8月29日時点では、返済中の住宅ローン変動金利が引き上げになった金融機関はなく、「これから変動金利を引き上げます」と公表する金融機関が増えているのが現状です。 

 

 また、短期プライムレート引き上げは、必ずしも住宅ローン金利の引き上げにつながるものではありません。 

 

 なぜなら、『「短期プライムレート」に連動する住宅ローン』と『「短期プライムレートをもとにした基準金利」に連動する住宅ローン』は別物だからです。 

 

 実際に、私が銀行でお客様に住宅ローンの変動金利について以下のように説明しています。用語のおさらいと合わせて確認していただければわかりやすいと思います。 

 

 「住宅ローンの変動金利は、短期プライムレート※をもとに銀行が決めた基準金利※に連動して、金利が上下する仕組みです。 

 

 この基準金利から◯%優遇したものが、お客様の適用金利※になります。この『基準金利からマイナス◯%』の金利優遇※は、原則として変わることがありません。 

 

 そして、基準金利が上昇すれば、原則として同じ変動幅で金利が上昇します。逆に基準金利が下降すれば、同じ幅で下がる仕組みです」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの銀行は短期プライムレートを引き上げ 2024年7月から8月、メガバンクの「短期プライムレートの引き上げ」が発表されました。続いて地方銀行、信用金庫、JAやろうきんまで、相次いで短期プライムレート引き上げを公表しています※。 

※<メガバンク>みずほ銀行、<地方銀行> 横浜銀行、<信用金庫>京都中央信用金庫、<JA、ろうきん> JA横浜、東北労働金庫 

 

 それらの内容は「2024年9月から、短期プライムレートを0.125%~0.150%引き上げる※」というものです。 

※銀行により短期プライムレートの利率と、その引き上げ幅は異なる場合があります 

 

 そして、短期プライムレート引き上げの発表をきっかけに、「返済中の住宅ローン変動金利も引き上げになるのでは?」という危機感が一気に高まっているのです。 

 

短期プライムレートが上がれば金利も上がるローンもある 短期プライムレートが引き上げられた場合に、すべての融資やローンの金利が一斉に上がるわけではありません。 

 

 一般的に、短期プライムレートに連動して自動的に金利が変動するのは、事業資金融資や不動産投資ローンなどです。 

 

<事業資金融資> 事業資金融資の中でも、変動金利で、短期プライムレートに連動するタイプでは、自動的に金利は引き上げられます。事業資金融資では、融資の契約時点でそうなることを説明してあるので、大々的な発表などは今後も行わないと思われます。 

 

<不動産投資ローンなど> アパートローンや不動産投資ローンにおいても変動金利で短期プライムレートに連動するタイプでは、金利が自動的に引き上げられることになります。 

 

 こちらも個別に利用者へ通知が発送される形になりますが、これら不動産投資関連のローンに関しては、いくら契約だからといっても、黙って引き上げると他行で借り換えをされる可能性もあります。 

 

 そこで、銀行員が対象の顧客に対し、訪問や電話などで説明するなどの対応をします。現在、私の勤務する銀行でもその準備をしているところです。 

 

 事業資金融資でも不動産投資ローンでも、基本的には契約通りに連動した引き上げが実施されることになります。 

 

 もちろん銀行も、資産家であるとか優良企業であるとか、個別の「忖度(そんたく)」で引き上げを見送る、といったことはありえますので、一律に引き上げというわけではありません。 

 

 そして繰り返しますが、「住宅ローンの変動金利は、基準金利に連動して金利が変動するので、銀行が基準金利の引き上げをしない限り、金利も変動しない」仕組みです。 

 

 そして、いよいよこの基準金利を「見直す」と銀行が相次いで発表しています。 

 

 

※出所:みずほ銀行:【住宅ローン】変動金利の基準金利見直しのお知らせ、三菱UFJ銀行:【住宅ローン】変動金利の基準金利見直しについて、りそな銀行:ローン基準金利の見直しについて 

 

※出所:住信SBIネット銀行:円預金金利およびローン金利の改定について、ソニー銀行:【重要】住宅ローン金利の改定について、イオン銀行:円預金およびローン店頭表示金利の改定について、PayPay銀行:住宅ローン基準金利の変更について、auじぶん銀行:住宅ローン基準金利の変更について 

 

※出所:横浜銀行:住宅ローン基準レートの見直しについて 

 

 2024年8月初旬から「住宅ローン変動金利を引き上げる(または「基準金利を見直す」)」と、金融機関が相次いで発表しています。 

 

 以下に、各金融機関の金利引き上げの状況をまとめました。 

※2024年8月31日時点の情報 

※公式ホームページの「重要なお知らせ」「ニュースリリース」などから筆者調べ 

 

変動金利の引き上げを発表した「メガバンク」は?変動金利の引き上げを発表した「ネット銀行」は?変動金利の引き上げを発表した「地方銀行・信用金庫」は? 

 

 上記の一覧表から言えることは以下の通りです。 

 

・メガバンク:「基準金利を見直す」ことだけ発表、または現時点で発表なし 

・地方銀行、信用金庫:メガバンクに追従している 

・ネット銀行:「基準金利を改定」つまり「基準金利を変える(変動させる)」と発表している 共通しているのは、「住宅ローンの金利を引き上げる」と明言はしていないという点です。 

 

 たとえば、メガバンクや地方銀行などは「基準金利を見直す」と、かなり抽象的な表現にとどめています。 

 

 一方、ネット銀行はもう少し具体的な発表です。なぜかというと、住宅ローン変動金利の基準金利を独自に決定しているためで、「〇%から〇%に改定」と具体的な金利も同時に公表しているものと考えられます。 

 

 ネット銀行も「引き上げ」という表現は避けているのですが、基準金利が「改定」つまり引き上げられれば、適用金利も引き上げられるわけです。したがって、「住宅ローン金利を引き上げる」と言っていることになるのです。 

 

 メガバンクなどは基準金利の見直しという表現なので、見直すだけで変わらないという「含み」も残しているようにも感じられます。 

 

 しかしながら、ゼロ金利解除から預金金利の引き上げという流れの中で、「金利の見直し」とくれば、これは「金利の引き上げ」を連想するのが当然とも言えます。その点、ネット銀行の方が一歩踏み込んだ表現をしているのでしょう。 

 

 たとえば、数は少ないのですが、東北ろうきんのように、「住宅ローン金利を引き上げる」と明言している金融機関もあります。 

 

 画像はその内容で、一覧表の金融機関との表現を比べて見てください。 

 

 

 「金利のある世界」に突入したことを痛感する最近ですが、それでも銀行員として皆さんに伝えたいことがいくつかあります。 

 

慌てず焦らず、確かな情報ソースから情報を得る まず「慌てないで!焦って動かないで!」と銀行員の私はお伝えしたいです。 

 

 金利上昇のニュースに動揺する気持ちはよくわかります。しかし、慌てて行動する前に、しっかりと情報収集することが大切ではないでしょうか? 

 

 ここでいう「情報」とは、ネット記事(もちろんこの記事もそうです)だけでは不十分で、自分がローン返済中なら取引銀行の公式ホームページや、それでも不足なら直接問い合わせるなどが考えられます。 

 

 インターネットやSNSには、さまざまな情報があふれていますが、その中には誤った情報や偏った考えも多く含まれています。 

 

 さらに、サービスなどに誘導する意図や、不安を掻き立ててだまそうとするものもあるのです。 落ち着いて、信頼できる情報ソースから、確かな情報を収集するようにしましょう。 

 

今すぐ、自分の契約を再確認する 住宅ローンを返済中で、変動金利の引き上げに該当すると思われる人は、今すぐにでも自分の契約を再確認しましょう。 

 

 金利が変動するルールや、そのほかの契約事項などを再確認することで、そのあとの行動も考えやすくなります。手元に控えがなくても、銀行に連絡すれば入手することができます。 

 

自分の金利について確かな情報を得て対策を考えることが大切 最近の金融機関による発表を見ると、「住宅ローン変動金利は上がるのか?」などと予想めいたことを言うよりも、「自分の住宅ローン金利がどのくらいまで引き上げられるのか?」そして、「返済はいつの時点から増えるのか」などを、遠い未来ではなく現実ととらえて対策を考える時期に来たと言えるのではないでしょうか? 

 

 「慌てず焦らず、確かな情報ソースから情報を得る」「今すぐ、自分の契約を再確認する」ようにして、まずは、確かな情報を得るようにしてください。この記事が皆さんの参考になれば幸いです。 

 

加藤隆二 

 

 

 
 

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