( 212203 )  2024/09/16 01:26:03  
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年金「繰り下げ受給」には注意点も(イメージ) 

 

 老後のお金を増やそうとしたものの、決断を誤ってしまうこともある。開始時期を遅らせることで年金額を増やす「繰り下げ受給」が注目されるが、安易な選択は注意が必要だ。70代男性Aさんが言う。 

 

【図解】繰り下げ受給で年金額はこう変わる 65歳受給と70歳受給を比較 

 

「定年後もアルバイトで働き続けることができたので、年金受給を70歳に繰り下げることに。受給開始までは退職金の一部を取り崩して生活費に充てていたのですが、いざ70歳を過ぎて受給し始めると、天引きされる税金や社会保険料の負担が想像以上に重くて……」 

 

「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が言う。 

 

「繰り下げ受給を選択すると年金額は年8.4%増額するので、70歳まで5年間の繰り下げで受給額は142%に増額します。しかし、収入が増える分、所得税や住民税、社会保険料の負担が増えます。繰り下げ受給で何歳から得するかを表わす損益分岐点は概ね85歳以降になる。健康寿命も考慮して繰り下げ受給を選択する必要があります」 

 

 本誌・週刊ポストがシミュレーションしたケース(別掲表)では、65歳で年金受給額が200万円の人が70歳に繰り下げ受給した場合、受給額は284万円に増える一方、税や社会保険料の負担が年20万円以上増加した。額面の金額で比較すると繰り下げた人の総受給金額は81歳で上回るが、手取り額で比較すると85歳になる。 

 

 それだけではなく、医療費負担が大きく増えるケースもある。 

 

「70歳を超えて『現役並み』の所得と判断されると、医療費の窓口負担は本来の2割が3割へと1.5倍に増額されます。医療費の自己負担額に上限が設けられる高額療養費制度でも『現役並み』区分の人は自己負担上限額が『一般』区分の1.4倍になる。病気リスクが高まる70歳以降に医療費の自己負担額が増えると、年金繰り下げ受給のメリットは大きく目減りします」(同前) 

 

 繰り下げ受給で生じる恐れのあるデメリットはほかにもある。 

 

「妻は5歳下なので、私が65歳時点で年金を受給していれば妻の加給年金を5年分受け取れた。年40万円近く、5年で200万円ほどをみすみす手放してしまった」(Aさん) 

 

 どうしても繰り下げ受給を選ぶ際は、「ひと工夫」が必要になると北村氏は指摘する。 

 

「年金の繰り下げは基礎年金と厚生年金を両方同時か、どちらか一方を選択できます。加給年金は厚生年金に付くものなので、基礎年金だけの繰り下げを選択すれば、加給年金を丸々受け取れるうえに、繰り下げの増額メリットを享受できます。 

 

 また、平均寿命が長い妻だけを繰り下げることで、夫が先立っても妻の収入を確保するという手もあります」 

 

 制度を把握したうえでの選択が肝心だ。 

 

※週刊ポスト2024年9月20・27日号 

 

 

 
 

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