( 212313 )  2024/09/16 15:55:02  
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(c) Adobe Stock 

 

 田中真紀子氏のテレビ番組での発言が話題を呼んでいる。総裁選に関するもので「いまの候補者がた、たくさん次から次に出てらっしゃるけど、まあなんか、勘違いしてるっていうか、私の今の立場で見ますとね、ヘナチョコばっかりが出たいから出てきてると。出したい人じゃなくて、この際、出とかなきゃと売名をかねてですね。与野党ともに。ふざけてますよ」といった具合のコメントした。この騒動を巡り実業家の堀江貴文氏がSNSで「笑、現役引退したロートルは何でも言えるわな。」と投稿した。 

 

【動画】独占インタビュー“自民党のドン”茂木敏充幹事長「私が総理大臣になったら、日本こう変えたい」 

 

 元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。 

 

 9月9日放送の日本テレビ『情報ライブ ミヤネ屋』に、生出演した田中真紀子氏(80)が大いに総裁選をぶった斬った。 

 

「いまの候補者がた、たくさん次から次に出ていらっしゃるけど、まあなんか勘違いしてるっていうか」 

 

「私の今の立場で見ますとね、ヘナチョコばっかりが出たいから出てきてると。出したい人じゃなくて、この際、出とかなきゃと売名をかねてですね。与野党ともに。ふざけてますよ」 

 

 真紀子氏自身は、2001年自民党総裁選で、小泉純一郎氏を支援したが、純一郎氏については、 

 

「お調子者でね、この総理。本当に調子乗っちゃって、自民党ぶっ壊す!なんて言わなくていいこと言ってね、壊してないじゃないですか。また息子が似たようなの出てきたでしょ。怪しいね~これも」 

 

と進次郎氏も巻き込んだ批判を展開している。批判だけで終わるのかと思いきや、以下のような指摘もしているので興味深い。 

 

「明日から日本の顔として世界のひのき舞台に出て行ける人っていますか?」 

 

「私は1人いると思うが、あえて申しませんけれど、そのあとの方たちはちょっと使いものにならない。なりたいなりたい、なってみたいと。分かりますよ。そんなことでなるポストじゃない。都知事選とか地方の首長選挙じゃないですからね。内閣総理大臣が何かということが全く分かっていない。恐るべきこと」 

 

 真紀子氏のいう「1人」が誰なのかについて番組司会者である宮根誠司氏が問い詰めると、「エレベーターに閉じ込められちゃった人」と、9月6日に官邸内のエレベーターで閉じ込められた林芳正氏であることを示唆し「賢いし経験もある」と述べた。 

 

 

 林芳正氏が経験があるのはその通りだが、同じような閣僚経験からいえば茂木敏充幹事長もいる。となると真紀子氏の基準からすれば、茂木氏は賢くはないということなのだろうか。このあたり、真紀子氏が何を考えているかについて考えると、例えば、同番組中には、以下のようなことも述べている。 

 

「私は父の姿を見ていたし、池田、佐藤、田中という時代の総理になられた方をよく見ていた。父を見ていても非常に孤独だし、厳しい仕事ですよ、一国の総理大臣というのは」 

 

 どうやら父親である田中角栄氏、池田勇人氏、佐藤栄作氏といった歴代の総理大臣を見聞きした経験から、何らかの評価を下しているようだ。しかし、なぜ林芳正氏がその対象なのかははなはだ疑問だ。筆者はこれまで、林氏を肯定的に評価することが少なかった。もちろん、林氏が賢いのは間違いないだろう。しかし、永田町(国会がある)での経験を積むことが、ただ単に政治の世界で生き残るためのスキルを磨いているだけではないか、という疑問も残る。林氏の経験自体が豊富であることは確かだろう。 

 

 例えば、安倍晋三元首相は、林芳正氏の人物像についてこう述べている。 

 

「もう一点、この時の改造で私が気にかけたのは、文部科学相です。林芳正さんにお願いしました。加計学園が運営する岡山理科大の獣医学部新設を認可するかどうか、という課題を文科省が抱えていたのです。林さんならば、中立的に、理路整然と判断してくれるだろうと期待したのです。私の気持ちを忖度せずにね。林さんには、火消しの能力がありますから。淡々と事務的に答弁をするという点で彼の右に出る人はいません」(『安倍晋三 回顧録』中央公論出版新社) 

 

 この安倍氏の評価は私の林氏への評価と似たようなものがある。 

 

 問題が起こると、林氏はその担当の大臣に任命されることが多く、賛成でも反対でもないような発言を、あたかも中身があるかのように説明する才能を持っている。彼の表現力は非常に高く、複雑な状況でも巧みに対応できるのだ。たとえば、農業問題が深刻になったとき、林氏は農林水産大臣を務めた。その当時、諫早湾干拓事業が大きな問題となっていた。 

 

 諫早湾干拓事業では、水門を閉めたことで、近隣の海で二枚貝のタイラギが死んだり、海苔の色が悪くなったり、タコが取れなくなるなどの問題が発生したと批判された。しかし、水門を閉じたことで高潮の被害を防ぎ、農業には良い影響を与えたという面もあった。つまり、水門を閉じても開けても、どちらにしても問題が出てくる状況だった。 

 

 

 この事業について、当時の民主党の菅直人氏は「無駄な公共事業」として批判し、政権を取る前にも市民運動家たちと一緒に水門に押しかけ、すぐに開けるように求めた。民主党が政権を取った後、開門に向けた動きが進んだが、水門を開けることで困る業者も多く、状況はますます複雑になっていった。 

 

 そんなとき、林氏が農水大臣に就任した。普通なら、記者の質問に困る場面が多いはずだが、林氏は自分の言葉を巧みに使い、記者たちをうまくかわした。まるで何かをはっきりと言っているように見えるが、実際には具体的なことは何も言っていない。しかし、聞く側にそう感じさせない巧妙な答弁を続けた。 

 

 そうした林氏を、真紀子氏は「意中の一人」として挙げている理由は明確ではないが、安全な選択肢であることは確かだろう。麻雀の用語で「安全牌(アンパイ)」という言葉があるが、これは相手に勝たせないために安全な牌を選ぶという意味だ。林氏も大きな失言をせず、長年内閣の重要な役職を務めてきたが、大きなスキャンダルに巻き込まれることもなかった。そうした安定感から、彼を支持しておけば間違いは起きないだろう。 

 

 では、安全牌という観点以外ではどうであろうか。 

 

 朝日新聞(9月1日)でのインタビューでは、真紀子氏は以下のようなことも語っている。 

 

<国家を導こうという覚悟と気概が感じられません。商店街の福引みたいですね。抽選券20枚(党所属国会議員の推薦人20人)で一回ガラガラを回せるから、自分もやってみようかと。20人を集められないうちから名乗り出る人もいて、メディアで目立ちたいだけに見えます。/ 父(田中角栄氏)が首相になった(1972年の)総裁選ではお金が飛び交ったと言われますが、福田赳夫さんたちと国家像や政策の具体的なぶつかり合いがあった> 

 

<父はよく、国会議員として若い頃に街頭演説で鍛えられたと言っていました。聴衆でばんばん政策を質問してくる人がいて、懸命に答えたら「わかった。角さん頑張れ」と去っていって、とてもうれしかったと。/民主主義の基本は透明性と説明責任です。わかりやすく語り、説得できる政治家を国民は歓迎します。見えないところで票を集めても、国家像や説明能力がない人は、国民の前にさらされれば一発でわかります> 

 

 

 新聞のインタビューでは、テレビの生放送と比べて、落ち着いた雰囲気での受け答えがされている。しかし、それでも林氏をどのような理由で応援しているのかははっきりとしない。林氏は、自分の考える国家像について語ることが少ないタイプの政治家だからだ。彼の公式ホームページには「人にやさしい政治」「仁」というキャッチフレーズが載っているが、これだけでは彼がどんな国を目指しているのかは、いまいちよくわからない。 

 

 こうして考えると、真紀子氏が林氏を支持しているのは、積極的に応援しているというよりも、消極的な選択に見える。つまり、他にもっと良い候補がいないからという理由かもしれない。実際、真紀子氏が理想としているのは、田中角栄のような強いリーダーシップを持った政治家なのだろう。 

 

 田中角栄が活躍していた時代、日本はまだインフラ(道路や橋、鉄道などの公共設備)が不足していた。そして、外交的にもアメリカの直接的な影響力が少しずつ薄れていく移行期にあった。そんな時代に、田中角栄は「列島改造論」という考えを提唱し、全国のインフラを整備した。また、外交面では日中国交正常化を実現するという大きな成果を挙げた。 

 

 一方で、令和時代の日本では、国がインフラを強化する必要はほとんどなくなっている。たとえ新しいインフラを作ったとしても、それによって人々の流れが増えるわけではなく、経済が成長することも期待できない。それに加えて、インフラをつくってしまうとその維持に多くの費用がかかり、地方の財政に負担をかけている。過剰な道路や鉄道網、商業施設は、もはや厄介者になってしまっている。 

 

 さらに、社会保障(年金や医療などの制度)も年々増え続け、国民の負担がどんどん重くなっている。このような状況では、次の首相には田中角栄のようなカリスマ性を持ち、国民の負担を減らすことができる政治家が求められている。 

 

 真紀子氏が言うように、現在の自民党総裁選挙には、メディアで目立ちたいだけの候補が多いのは事実だ。しかし、私たちが本当に望むのは、私たちの生活を豊かにしてくれる政治家、つまり、実質賃金(物価の影響を受けない本当の給料)や可処分所得(税金や社会保障を引いた後の自由に使えるお金)を増やす政策を進める首相の登場だろう。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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