( 212613 ) 2024/09/17 15:37:30 0 00 Photo by gettyimages
記録的な冷夏でコメが不作となり、タイ米を緊急輸入した「平成の米騒動」を思い出した人も多いのではないか。しかし、今回のコメ不足は不作が原因ではない。背景には、日本の農政の不作為がある。
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「8月8日に南海トラフ地震への臨時情報が出され、災害に備えたコメの買い占めが起こりました。それ以前の6月からコメの流通在庫は減っており、パニック的な買い占めにつながった。台風10号の上陸も相まって、いまだに収まっていません。
ただ、100万トンもの政府備蓄米が倉庫に眠っているのですから、政府と農林水産省が『備蓄米を出す』と一言言えば、パニックはすぐに収まったはずです。しかし、政府は10年に一度クラスの不作か、通常程度の不作が2年連続する事態にしか備蓄米を放出しないと決めており、機動的な放出ができない。今回のコメ不足は、これが最大の要因だと思います」
こう話すのはアジア成長研究所特別教授で、農業経済学が専門の本間正義氏である。
街なかのスーパーの店頭からコメが消えて久しい。徐々に新米が出回り始めてはいるが、その価格は高止まりしている。なかなか手を出しにくい人も多いのではないか。首都圏もさることながら、実は大阪のほうがコメ不足は深刻だという。
「大阪府では6月から『子ども食費支援事業』の第3弾が始まり、子育て世帯に『お米クーポン』を配布しています。これによって、コメの需要が高まり、関東よりもひどいコメ不足になっているのです。その結果、コメの価格もどんどん上がっていっています」(米流通評論家の常本泰志氏)
大阪府の吉村洋文知事は「お米クーポン」の使用期限を11月末まで1ヵ月延長するとともに、「備蓄米が倉庫にあるのであれば、それを放出しないのはおかしい」と政府の方針を批判した。
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しかし、農水省は重い腰を上げようとしない。なぜか。宮城大学名誉教授で、農業経営学が専門の大泉一貫氏が言う。
「農水省は、コメの価格を維持したり、あるいは上げたりするために、いわゆる減反政策をはじめ、あらゆる政策を行ってきました。米価が上がると農家が豊かになると信じていて、コメの価格維持に躍起になってきたのです。そんなところに備蓄米を放出したら米価が下がってしまう。だから、農水省は頑なに備蓄米を放出しない」
もとより、'23年産のコメの出来具合を示す作況指数は「101」と平年並みだった。昨年も猛暑だったが、不作だったわけではない。にもかかわらず、なぜここまでコメが不足しているのか。前出の常本氏が解説する。
「背景には『ふるい下米』19万トンの不足があります。これは玄米をふるいにかけて下に落ちた粒の小さなコメのことで、これを使って単価をおとしたブレンド米を主に官公庁が仕入れ、自衛隊や公立病院、役所の食堂などで提供されます。昨年の天候不良で収穫が減り、業者はふるい下米の代わりに、B銘柄(コシヒカリよりも下のランクのコメ)を使い出しました。
そうすると、もともとB銘柄を使用していた大手外食チェーンなどの飲食店でコメが入手できなくなり、代わりにコシヒカリなどを仕入れることになります。最終的に、スーパーで流通するようなコメが不足するようになったのです」
これが現在起きているコメ不足の原因だ。政府は、9月以降、新米の収穫が本格的に始まるので、コメ不足は解消するとアナウンスしているが、はたして本当だろうか。
つづく後編記事『コメが足りないのに、なぜ転作農家に補助金を出すのか?「令和の米騒動」の背後にあった農協(JA)の「悪だくみ」』では、日本の稲作が抱える深刻な問題にさらに迫ります。
「週刊現代」2024年9月14・21日合併号より
週刊現代(講談社・月曜・金曜発売)
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