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スーパーからコメが消えた「令和の米騒動」は新米の普及で回復しつつあるとされるが…(2024年07月25日、時事) 

 

 スーパーのコメ売り場からコメが消えた「令和のコメ騒動」。2024(令和6年)産の新米が出回り始め、ようやく売り棚にコメが並び始めた。 

 

【図表】23年産から急激に値上がりしたコメ 

 

 農林水産省はこの騒動ともいえる現象について、インバウンド需要の盛り上がりや南海トラフ地震注意報が発令されたことにより消費者がコメの買いだめに走ったことを原因にあげているが、コメ不足懸念は23年産米の収穫が終わった直後の昨年11月から出始め、当時からコメ加工食品業界団体が解消を訴えていた。その後に開催された農林水産相の諮問機関である食料・農業・農村政策審議会の食糧部会でも大手卸やコンビニベンダーなどからコメ需給がひっ迫するのではないかと懸念が述べられていたが、農水省は全く対策を講じなかった。 

 

 対策らしいものを講じたのは政府備蓄米のうち古古古米にあたる20年産米わずか1万トンを、米菓、味噌、焼酎など向けにコメ加工食品業界へ入札売却することを今年8月に決めたぐらいである。 

 

 コメ不足騒動は一過性の問題ではない。その背景には長年にわたるコメ減らし政策が続けられ、かつ、流通までもが規制されるという歪んだ政策により、生産現場が衰退していることが最大の原因だ。 

 

 現在の政策を続けていると再びコメ騒動が起きると断言できる。その時は取り返しのつかない事態になり、それを回避するためには今すぐにでもコメ政策を大転換する必要がある。 

 

 コメの需給状況がどうなっているのかを知る方法として一番確実なことは、仲介業者が日々売り買いしているスポット価格を見ることである。スポット価格は、人間で例えるなら体温のようなもので、価格が上がることで需給状況がタイトになっていることがわかる。 

 

 グラフはコメ卸業界の全国米穀販売事業共済協同組合(略称:全米販)が作成した関東コシヒカリの年産ごとのスポット価格を示したものである。これで明らかなように23年産は出回り当初から右肩上がりで値上がりしている。その流れを引きずって24年産米も高値でスタートした。 

 

 全米販の子会社クリスタルライスは、日々スポット市場で売り買いするほか、定期的にFAX取引会を開催している。直近の取引会(8月29日実施)では、収穫前の東北各産地の新米を中心に35産地銘柄3万1000俵余りの売り物があり、青森まっしぐらや宮城や岩手のひとめぼれ、秋田あきたこまちなど提示された。その価格は9月、10月の渡し条件で2万6000円から2万8000円で、昨年同期に比べるとおよそ1俵当たり1万円の高値になっている。 

 

 盆前に刈取りが始まった関東早期米の庭先価格は集荷合戦が過熱化して2万4000円でスタートしたが、その時は9月になれば価格が落ち着くという見方もあった。しかし実際にはさらにヒートアップして東北産米はさらに高値になった。 

 

 以前からコメの端境期に当たる6月から8月にかけて需給がひっ迫するという見方がコメ業界では強かった。コメ小売業界の全国団体の日本米穀商連合会が今年5月にアンケート調査を実施したところ、仕入れ数量が少なくなっていると答えた小売店が66.4%、仕入れが出来ないと答えた小売店が18.6%もいた。 

 

 事態を重く見た日米連は農水省に出向き、こうした逼迫状況を改善してほしいと陳情したものの農水省からは「スーパーの店頭には精米が並んでおり、ひっ迫している状況ではない」という回答で何らの対策も示されなかった。そのあとひっ迫していない根拠として挙げていたスーパーのコメ売り場からもコメが消えたが、それでも政府備蓄米を売却しなかったことから市場のコメ価格が急騰した。 

 

 

 農水省の事務次官OBがコメの生産者を前にした講演会で「農水省のコメ需給見通しが外れるのはもはや伝統的」と称していたが、その例に漏れず23/24年(23年7月~24年6月)の需給見通しが大幅に外れた。それは外れたというレベルではなく、狂った。 

 

 具体的に数字を示すと、今年3月に開催された食糧部会では23/24年の需要量を681万トンとの見通しを発表したが、7月30日に開催された食糧部会ではそれよりも21万トンも多い702万トンの実績があったと公表した。わずか4カ月の間で需要量を21万トンも見誤る需給見通しなど公表しない方が良い。 

 

 その理由について農水省ではインバウンド需要などを要因としてあげているが、3月の食糧部会の後に筆者がコロナ明けでインバウンド需要が回復すると見込まれるが、その需要をどう見ているのか質したのに対して農水省は「織り込み済み」と答えていた。しかも、いかに訪日外国人が増えても平均9日程度しか滞在しない外国人が20万トンものコメを食べるわけがない。 

 

 また、コメ不足の要因として、高温障害による精米歩合の低下を理由に挙げているが、このことは23年産米の検査がほぼ終えた昨年末にはわかっていたことである。取ってつけたような理由に過ぎない。 

 

 これだけ需給見通しが狂う本質的原因は、コメの需給を非主食用と主食用と分けて策定して公表しているからである。冒頭にコメ加工食品業界が原料米逼迫の窮状を農水省に訴えたことを紹介したが、これら業界の使用する原料米は非主食用米として区分される。しかし、加工原料用米は品位が低くて価格が安い特定米穀(いわゆるくず米)と称されるものの、価格の居所によっては主食用にも使用されるため、一様に区分できない。 

 

 さらにややこしいのは、農水省は主食用か非主食用か区分するに際して恣意的に区分している。例えばパックご飯は主食用の区分に入っているが、冷凍米飯は非主食用の区分に入る。冷凍米飯の需要量がいかに増えようとも農水省の策定では主食用の需要が増えたことにならない。また、輸出用米も「新規需要開拓米」という括りの中に入っており、主食用分野には加えられない。輸出用米が増えても主食用米の需要が増えたことにはならない。 

 

 これら主食用から区分されたコメには加工用米や新規需要米という名目で助成金が支給されるため新たな利権が発生するだけでなく、用途限定米穀という法律まで作り、流通を規制しているため農水省の認可が必要になる。用途以外に使用すると厳しい罰則規定があり、需要者は自由にコメを使えないという弊害を生んでいる。 

 

 規制があることによってコメの用途が拡大せず、さらに生産量を減らして米価を上げることをコメ政策の根幹に置いているため需要そのものも縮小、産業として育たない。米価を上げるために供給量を絞り、それにより市場が縮小し、さらに供給量を絞るという負のスパイラルが続いているというのがコメ業界の実際の姿である。 

 

 こうした政策を続けていると生産から流通、実需まですべて死に体になってしまう。すでに最も根幹と言うべき生産分野の衰退化が始まっており、令和のコメ不足もその兆しと捉えることもできる。 

 

 

 現状のコメ政策が進められると将来コメ業界がどうなるのか? その予測を示した「米穀流通2040ビジョン」と題する冊子を全米販が6月12日に公表した。 

 

 何もせずこのままの状況が続くと、2040年にはコメの生産者は20年に比べ65%も減り30万人程度になり、生産できる数量はわずか363万トンになるという衝撃的な数字を示した。生産者が減少するスピードと減少率は官民の研究機関が予測を出しており、農研機構も25年には一戸平均で40ヘクタールの水田を耕作しないと現在の生産量は維持できないという見通しを作成するなど生産基盤の弱体化は早いスピードで進んでいることが示されている。 

 

 全米販の2040ビジョンでは、国内のコメ需要を賄えなくなる年は33年と予測しており、遠い将来のことではない。にもかかわらず農水省はさらに強力なコメ減らし政策を目的とする「畑地化促進事業」を推進している。 

 

 これはこれまでの転作より強力で、畑地にすれば転作助成金を上乗せするというもの。このコメ減らし政策を推進する背景になっているのが、海外から大豆や小麦、トウモロコシなどの穀物が従来通り輸入され続けるという見通しの上に組み立てられている。一方で食料の安全保障を声高に叫びながら、最も安定的に国内で生産できるコメの生産を減らすというのは、考え方が理解できないばかりか国民生活の安全を脅かす政策判断だと言える。 

 

 こうした歪んだコメ政策を止め、真に産業としてコメを復活させるためには、コメの価格は市場に任せ、生産者がコメを再生産できるように欧州連合(EU)並みに国が直接補償する以外にない。コメの市場は産業インフラになるように現物プラス先渡し市場と価格変動のリスクをカバーできる先物精算市場を整備する必要がある。 

 

 これによってコメは品位や食味によって価格が決められ、主食用であれ加工用であれ必要とされる需要に流れていく。こうした産業としてあるべき姿に戻すことがコメ業界にとって極めて重要だ。現在のように用途を法律で規制していてはいつまでたっても需要が増えないばかりか輸出も増えない。 

 

熊野孝文 

 

 

 
 

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