( 213668 )  2024/09/20 17:18:26  
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マイナンバーカードの「義務化」はどこまで進むのか?(Photo:umaruchan4678 / Shutterstock.com) 

 

 携帯電話契約時の本人確認の方法について、国がマイナンバーカードに一本化する方針を打ち出し、波紋を広げています。預金口座開設やNISA継続利用者の本人確認についてもマイナンバー活用の拡大に向けた議論が進んでいますが、その範囲はどこまで広がるのでしょうか? 本稿では、政府が掲げる「大義」や金融業界での議論、利用者である国民の反応などについて現状をまとめます。 

 

【詳細な図や写真】「犯罪者のツールを奪うための対策」(出典:総務省「国民を詐欺から守るための総合対策」概要) 

 

 政府がこの6月の犯罪対策閣僚会議でとりまとめたのが、「国民を詐欺から守るための総合対策」です。 

 

 この中で「犯罪者のツールを奪うための対策」として、携帯電話不正利用防止法、犯罪収益移転防止法に基づく非対面の本人確認手法を今後、マイナンバーカードの公的個人認証に原則一本化する方向性を提示しました。 

 

 

 これまで主流だった運転免許証や、顔写真のない健康保険証などの利用を取りやめにすることにしたのです。 

 

 この部分がSNSで注目を浴び、「運転免許証を身分証明として使える道をどんどん削っていくことで嫌でもマイナンバー義務化になります」といった批判が巻き起こりました。 

 

 また、「任意としてはじめたものを、持っていないとできないことを増やすのは詐欺ではないのですか」といった辛辣な声もありました。 

 

 対面の本人確認でもマイナンバーカードなどのICチップ情報の読み取りを義務付けるとともに、ICチップ読取に使うアプリなどを開発するといった方向性が盛り込まれています。 

 

 「総合対策」の中でもう1つ注目を浴びているのが、「預貯金口座等に関する対策」の中の「預貯金口座の不正利用防止対策の強化等」という項目です。 

 

 不正に譲渡・開設された預貯金口座が犯罪者グループ内での金銭の授受に用いられていることを踏まえ、預貯金口座利用時の取引時確認を一層厳格化する方針を提示しています。 

 

 この方針に則り、この8月には金融庁と警察庁が連名で預貯金口座の不正利用等防止に向け各銀行協会あてに要請を発表しています。 

 

 

 

 携帯電話の契約時の、「犯罪収益移転防止法に基づく非対面の本人確認手法」は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化し、運転免許証などを送信する方法や、顔写真のない本人確認書類は廃止するとしています。 

 

 預金口座をめぐっては本人確認の作業のほかに、すでに口座の情報そのものをマイナンバーと紐づけるよう促す制度改正も推進されています。 

 

 この2024年4月に施行された「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」(口座管理法)では、金融機関に対し、マイナンバーを預貯金口座と紐付けるかどうかについて預貯金者の希望の有無を確認するようルールを設けました。 

 

 紐づけミス問題で不信感が高まっていることもあり、ネット上では口座開設時のマイナンバーカード利用の「強制化」ではないかとの観測が飛び交いました。 

 

 厳密にいえば義務が生まれるのはあくまで金融機関側であり、実際に紐付けるかどうかはあくまで預貯金者の任意、つまり強制力はないという立て付けになっていますが、義務化に対する反発の大きさを印象づける結果となりました。 

 

 

 さらに、金融庁が8月に公表した25年度税制改正要望では、NISAの口座開設10年後の所在地確認における「デジタル化・簡素化」が盛り込まれました。建前上、金融庁は「特定の手段を想定しているわけではない」(幹部)と説明しています。 

 

 

 ただ、税制改正要望の「元ネタ」のひとつである日本証券業協会の過去の要望書(23年9月提出)をみると、税務当局におけるマイナンバー活用を前提として手続きを簡素化するよう求める考えが記されています。 

 

 銀行界からも「マイナンバー一本化が実現すれば長期的にみればシステムコストを抑制できるかもしれない」(地銀幹部)と、おおむね歓迎する声が聞こえます。 

 

 厚労省設置の審議会内では保険料水準の調整のため、マイナンバーを利用して資産状況を把握する案も浮上していますが、政府による国民の資産の「監視」を強化する策が具体化すれば、議論のさらなる過熱も予想されます。 

 

 マイナンバーカードが実質的に必須化されるのではとの疑念は今に始まったわけではなく、以前から国民の間で燻(くすぶ)りつづけています。今回の「炎上」はある程度、予想できたはずです。 

 

 なぜ国はこのタイミングで、わざわざ義務化範囲の拡大を打ち出したのでしょうか。 

 

 政府は、犯罪手口の高度化・巧妙化を持ち出し、本人確認のルールを見直して実効性を確保する必要性を強調しています。 

 

 これまでもオレオレ詐欺や、SNSで実行犯を募集する手口などへの対策を講じてきていましたが、実情はイタチごっこです。2023年の詐欺被害額は約1,630億円と、前年から倍増しており、犯罪者グループが用いる不正契約の携帯電話に関する対策が急務、というわけです。 

 

 これまでもマイナンバー拡大のメリットとして国は、災害時や相続時の手続きの迅速化を特に強調してきました。その上で国は、紐付け拡大には行政側にもメリットがあることも認めています。今回の総合対策は、マイナンバーカード利用の拡大を推進するための大義名分の上塗り感も否めません。 

 

 マイナンバーをめぐっては、各種情報の紐付けをめぐっていくつものミスが露見してきました。2023年には、マイナンバーに紐付けされる公金受取口座が誤登録され、口座情報が他人に閲覧されるなど個人情報が漏えいする事案が発生しました。デジタル庁はこの2024年1月、紐付けを誤った事例について、最終的な点検結果を公表しました。 

 

 公金受取のほかに健康保険証や共済年金、障害者手帳などの情報連携に関する事務計8208万件を点検した結果、誤りは8351件に上りました。デジタル庁はマイナンバーの信頼回復に向けた各種施策を打ち出していますが、不信感の払拭には時間がかかりそうなのが実情です。 

 

 複雑で巧妙化する犯罪防止の意義は否定しれないところがあるものの、今一度マイナンバーへ向けられている不信感を直視し、国民の納得を得られる丁寧な政策運営が求められることになりそうです。 

 

執筆:ジャーナリスト 川辺 和将 

 

 

 
 

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