( 213903 )  2024/09/21 14:42:10  
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ある日、知らない人が名簿をもって自宅を訪ねてきた(写真はイメージ/gettyimage) 

 

 PTA活動にはさまざまな課題がある。PTAの入り口でもあり、最も大きな問題のひとつが「加入」だ。「任意加入」団体であるにもかかわらず、「強制加入」が常態化しているPTAはいまだに少なくないという。 

 

【550人アンケート】ズバリ、PTAって必要ですか? 

 

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■入学説明会で「会員のみなさま」 

 

 昨年末、長男の小学校入学説明会でのことだった。 

 

 京都府に暮らす中井亮さんは、手渡された文書に、おや、と思った。 

 

 文書はPTAの本部役員や地区ごとの地域委員を決めるお知らせで、「会員のみなさま」と書かれていた。 

 

「PTAの会員にまだなっていないのに、役員の選出を求められるなんて。順番としておかしいと思いました」(中井さん) 

 

 入学すると、今度は「2024年度学級委員並びに専門部員の選出について」という文書が届いた。「PTA会員様」と書かれたこの文書によると、「4月の授業参観の後でクラス役員などを決める」「役員の免除は基本的になし」と書かれていた。 

 

“免除なし”とは、つまり全員加入が基本、ということだ。 

 

 中井さんは衝撃を受けた。 

 

「テレビなどで強制的にPTAに加入させられる学校があるのは知っていて、『地方の学校は大変だなあ』くらいに思っていた。まさか、都市圏にある地元の学校がそうだったなんて」 

 

■首相も「入退会は保護者の自由」 

 

 PTAは任意加入の団体だ。熊本市の保護者がPTAに対して強制加入は不当として会費の返還などを求めて争った「熊本PTA裁判」で、2016年に熊本地裁は「PTAは入退会自由の任意加入団体である」という前提を示している。昨年3月の参議院予算委員会では、岸田文雄首相が「PTAは任意の団体であり、入退会は保護者の自由」との見解を示した。 

 

 AERA dot.編集部が行ったPTAに関するアンケートには、550件の回答が寄せられ、回答者の実に6割が「強制加入」を経験していた。 

 

 中井さんの学校では、PTAやその活動についての説明や入会意思の確認を行わないまま、保護者を自動的に「PTA会員」として扱っていた。 

 

 中井さんは今年6月に開催されたPTA総会に出席。いくつかの法的根拠を挙げて「強制加入」の問題を指摘した。 

 

 

「その場にいた役員たちはぼんやり私の説明を聞いていて、反論はいっさいなかった。けれど、行っていた強制加入については誰も謝罪しませんでした」(同) 

 

 結局、役員は「入会届の整備には時間がかかるが、進める」と認めて、総会は終了した。現在、中井さんは推移を見守っている。 

 

■校長の反対で挫折 

 

 記者も地元の小学校PTAで会長をしていたとき、入会届の整備に取り組んだが、校長に反対され、結局、実現しなかった。 

 

 校長は入会届の必要性に理解を示してくれたが、「校長会の意向には逆らえない」という。 

 

 校長会のメンバーである周辺の小中学校長にも理由を尋ねると、入会届を整備することで会員が減少し、PTAの規模が縮小してしまうのではないかと口々に訴えた。それだけ学校はPTAを頼りにしていたのだろう。 

 

 特に、「入会届は整備しない」という校長会会長の方針は絶対で、一校長としては、それに従わざるを得ないという。なので、記者が所属したPTAではいまだに強制加入の状況が続いている。 

 

■自宅に知らない女性が訪問 

 

 強制加入には、「個人情報」の問題も付きまとう。子どもの住所や氏名などの個人情報が、保護者の同意を得ないままにPTAに渡っていることがあるのだ。 

 

 大阪府在住のトシオさん(仮名、30代)は、子どもが小学校に通いだした昨年4月、こんな経験をした。 

 

「ごめんください」 

 

 ある日、自宅にひとりの女性が訪れた。「PTAの地区委員」だという。妻は、「なぜ、見知らぬ人が自宅の住所を知っているのか」と驚いた。 

 

 女性から集団登校の登校班の名簿を手渡された。そこにはPTAに伝えた覚えのない子どもの名前や年齢、住所、連絡先などがびっしり並んでいた。 

 

 トシオさんが入会の意思を示した覚えはないのに、「個人情報」が学校からPTAに渡った、としか考えられなかった。 

 

「入学式ではPTAの人が出てきて、『PTAの加入は任意ですけれども、例年みなさん参加しております』みたいなことをぼそっと言って終わり。入会の意思確認はされませんでした。『説明がなさすぎる』とはっきり言っている保護者もいました」(トシオさん) 

 

 

■「個人情報の提供は法令違反」 

 

 個人情報保護法違反ではないかと、市教育委員会に問い合わせたところ、市教委はこんな趣旨の回答をした。 

 

“学校は入学式の前に入学説明会を開いた。その場で学校がPTAに個人情報を渡す旨の文書を配布し、保護者はそれに了承した” 

 

 そうした文書を受け取った記憶はなかったため、トシオさんは市に対し、文書の公開を請求。すると、市教委の担当課長から「謝罪の手紙」が届いた。 

 

「そんな文書はなかったということです。手紙には謝罪とともに、学校が行ったPTAへの個人情報の提供は法令違反なので校長を指導する、とありました」(同) 

 

■入会届のある学校は1割 

 

「入会届を整備すべきではないのか」 

 

 トシオさんは子どもの学校だけではなく、PTA問題に詳しい市議会議員を通じて、市教委にも働きかけた。10月になってようやく、個人情報の提供について、学校は同意書を作成。それに追随するかたちで、今年の3月末になって、PTAも入会届を整備した。 

 

 トシオさんは、市内の全公立小中学校のPTAに入会届があるかについて、文書の公開請求を行った。 

 

「入会届があったのは約1割で、ほとんどの学校に入会届がありませんでした。PTAの規約に『入学したらPTA会員になる』という内容が堂々と書かれている学校もありました」(同) 

 

 PTA問題に詳しい大塚玲子さんは「入会届をきちんと整備することが大切」だと指摘する。 

 

「入会届を出すことによって、本人の意思に基づいてPTAに入ることで、PTAがきちんと機能する。個人情報が保護者に無断で学校からPTAに流出するようなことも起こらない」(大塚さん) 

 

 PTA加入の入り口となる「入会届」ひとつとっても、さまざまな課題をはらんでいる。AERA dot.ではPTAにまつわる諸問題を取り上げていく。 

 

(AERA dot.編集部・米倉昭仁) 

 

米倉昭仁 

 

 

 
 

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