( 214003 )  2024/09/21 16:36:43  
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候補者9人による討論会で存在感を発揮できなかった小泉進次郎氏(出典:代表撮影/ロイター/アフロ) 

 

 9月27日に投開票が予定されている自民党総裁選挙。当初、その有力候補とされていたのが小泉進次郎氏だったが、9人の候補者による討論会で期待されたほどの存在感を発揮できず、支持が伸び悩んでいる。各メディアの「次の自民党総裁にふさわしい候補」に関する調査ではどの候補者も圧倒的な支持には至っていないものの、勢いを増しているのが高市早苗氏である。果たして初の女性総理となるのか。それとも小泉氏の逆転はあるのか。総裁選の行方を占う。 

 

 小泉進次郎氏は、これまで国政選挙のたびに多くの聴衆を集めてきたが、今回の総裁選において、9人の候補者による討論では、その存在感が薄れていた。しかし、9月18日に大阪で行われた演説では、「初めて進次郎の良さが出た」と自民党関係者は語る。 

 

 進次郎氏は、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開や、ライドシェアの全面解禁を目指す方針を示し、「『維新といえば改革』というイメージを、『改革といえば自民』に変えることが次期総理・総裁の責務であり、私がその立場に立てば、圧倒的なスピードで変革を進める」と自信を持って語りかけたという。 

 

 大阪における自民党の現状は、維新の躍進により勢力が大きく後退し、非常に厳しいものがある。このような状況下で、イノベーションを無視する現状維持路線の姿勢や旧来のバラマキ政治が党内で主流となっていることに対して、進次郎氏は強い危機感を抱いていた。 

 

 そのため、「改革派」としての自分こそが維新に対抗できる人物であるという強い自負が、今回の総裁選への立候補の原動力となっていたのである。 

 

 総裁選の序盤においては、進次郎氏が確実に1位か2位に食い込むと予想され、決選投票では勝利を収めるだろうと思われていた。しかし、自民党支持層に対して行われた「次の自民党総裁にふさわしい候補」を問う各種調査結果の現状をまとめると、以下のとおりである。 

 

●共同通信(9月15~16日) 

1位 高市早苗氏 27.7% 

2位 石破茂氏  23.7% 

3位 小泉進次郎氏 19.9% 

●朝日新聞(9月14~15日) 

1位 石破茂氏 32% 

2位 小泉進次郎氏 24% 

3位 高市早苗氏 17% 

●読売新聞(9月14~15日) 

1位 石破茂氏 26% 

2位 高市早苗氏 25% 

3位 小泉進次郎氏 24.1% 

●産経新聞(9月14~15日) 

1位 小泉進次郎氏 29.4% 

2位 石破茂氏 24.1% 

3位 高市早苗氏 16.3% 

●日経新聞(9月13~15日) 

1位 石破茂氏 25% 

2位 高市早苗氏 22% 

3位 小泉進次郎氏 21% 

 このように、各メディアによる調査結果には多少の差があるものの、進次郎氏はおおむね上位3位に入っている。とはいえ、今や危機的な状況に立たされているのが現状である。 

 

 

 この調査結果をどう評価すべきかについて、大手全国紙の記者はNHKの情勢調査を基に次のように語っている。 

 

「NHKもまだ公にはしていないが、大規模な自民党員調査を実施しており、その結果では石破茂氏と高市早苗氏が強い支持を集めている。地方の党員票では進次郎氏は3位にとどまりそうだ。ただ、問題は国会議員票の行方である。進次郎氏の後見人である菅義偉前首相や森喜朗元首相が積極的に動き、国会議員の支持を集めた結果、進次郎氏は約50名の国会議員票を確保している。ほかにも、小林鷹之氏や茂木敏充氏が票を伸ばしたものの、石破氏や高市氏の国会議員票の増加は鈍い状況だ。しかし、進次郎陣営としては、1回目の投票で少なくとも70~80票を獲得する目標を掲げていた。その目標に達していないため、特にネット上での批判が高まる中、進次郎陣営の焦りは相当なものだ」 

 現在、多くの自民党議員がいまだ態度を決めかねているとされている。自民党総裁選は無記名投票で行われるため、誰が誰に票を投じたかは最終的には明確にはわからない仕組みだ。 

 

 差し迫った衆議院選挙を考慮すると、どの候補が総裁になれば自分の選挙で勝利できるかが最大の焦点となる。選挙に弱い選挙区が地盤の衆議院議員たちは、最後の一瞬まで慎重に候補を見極めることになるだろう。 

 

 進次郎氏はネガティブキャンペーンに悩まされているが、当初の戦略では「正義の騎士」として支持率低迷が続く岸田文雄首相に1対1で挑む構図を描いていた。岸田首相の派閥が裏金問題を起こしながらも、首相自身には処罰が行われず、さらに続投の意欲が側近を通じて伝えられていた状況の中で、進次郎氏は「今こそ自民党を改革できる」として、自らを「改革派の進次郎」と位置づけ、世論と党内の支持を得ようとしたのだ。 

 

 たとえ選挙に敗れても、善戦したという印象を残すという狙いもあっただろう。 

 

 しかし、岸田首相が裏金問題の責任を取り退陣を表明したことで、進次郎氏が掲げていた大義が大きく揺らいでしまった。PR会社の手配で華々しく出馬会見を開き、記者からの厳しい質問にも丁寧に答えるなど、最初の勢いがピークとなってしまった。 

 

 ライドシェアや解雇規制緩和といった政策はテック企業から歓迎されたが、防衛増税の実施を表明し、レジ袋有料化について「自分は実施しただけ」と責任を他人に転嫁する発言は、大きな失望を生んだ。 

 

 また、政治改革を訴える一方で、総裁選のときだけPR会社の戦略に従い、SNSを活用するものの、普段は、X(旧Twitter)やインスタグラムに積極的ではない姿勢も好感を得られないのではないだろうか。 

 

 SNSは、自分の評判や有権者が何を求めているかを直接感じ取れる場であるにもかかわらず、進次郎氏はその活用に消極的だ。エゴサーチを行えば、ネガティブな意見が目につくだろうが、それこそが有権者の声であり、彼にとって重要なフィードバックとなるはずだ。 

 

 

 また、今回の総裁選では、高市陣営が全国の党員に向けて送付したリーフレットを発端とした非難合戦が勃発している。総裁選の告示前においても、文書の郵送を禁止するルールが決まっていたにもかかわらず、高市陣営から党員らにリーフレットが届いたのだ。 

 

 この行動に対し、ほかの陣営からは「このリーフレットのせいで高市がリードしている」といった怒りの声が相次いでいる。特に茂木氏は「ルールを守れない人に、ルールを守る政治はできない」と厳しく批判した。 

 

 これに対し、高市氏は「リーフレットには総裁選挙にまったく触れておらず、党の方針に違反していない」と釈明し、さらに高市陣営からは「ほかの候補もリーフレットを配布している」と反論し、「これは高市潰しだ」と逆に怒りを示している。 

 

 なぜこのような事態に至ったのか、ある自民党関係者は次のように解説している。 

 

「高市陣営がどれほどの量を配布したのかは不明だが、全国の党員に相当な数のリーフレットがばら撒かれたと見られる。ほかの候補は選挙管理委員会に確認し、配布量を制限したのに対し、高市陣営は圧倒的な物量で勝負した。多くの党員が高市氏のリーフレットしか受け取っておらず、これにより、普段支援している議員が高市氏を支持していると勘違いした党員もいた。また、リーフレットの内容も、党員のプライドをくすぐり、愛国的な情緒を鼓舞するものだったため、これが党員票の動向に大きく影響を与えたと言われている」 

 

 情勢が終盤に差し掛かる中で、高市氏と石破氏が1位か2位に入り、決選投票に進む可能性が高いと見られている。その結果、勝敗を決めるのは地方の党員や世論ではなく、決選投票での自民党の国会議員の動向ということになる。現在、多くの自民党国会議員たちはすでに決選投票に向けて動きを始めている。 

 

 永田町では「石破氏を嫌う議員が多いため、高市氏が有利だ」「右派色の強い高市氏で衆院選に勝てるのか」「菅氏と麻生氏が裏で握っていて、石破氏に支持が集まる」「岸田派は防衛増税を推進する石破氏に流れている」などと、さまざまなうわさが飛び交っている。 

 

 しかし、派閥の影響力が弱まった自民党においては、政策を明確に打ち出す候補が票を伸ばす傾向がある。そうなると、高市氏に有利な局面も出てこよう。 

 

 安倍晋三元首相の後ろ盾を失い、推薦人集めにも苦労していた高市氏が、逆転して首相に就任する日が来るのだろうか。 

 

執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一 

 

 

 
 

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