( 214023 )  2024/09/21 17:03:04  
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北陸新幹線(画像:写真AC) 

 

 北陸新幹線小浜ルート反対の声が日に日に増している。25年もの工期と3.9~5兆円越えを前に、国土交通省資料にある沿線知事たちのコメントも、辛うじて小浜ルート推進を前提にしながらも、工期と費用面、便益面での慎重な検証を求める厳しいものが多くなってきた印象だ。 

 

【画像】「えっ…!」これが60年前の「米原駅」です(計20枚) 

 

 前回の記事(「北陸新幹線「米原ルート」 所要時間を計算したら「小浜ルート」よりも速かった!」2024年8月31日配信)で、筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)は2016年の国による金沢~新大阪間の所要時間の試算で、米原ルートは米原駅乗り換え前提で1時間41分との試算に疑義を示した。 

 

 そして、米原ルートでも新大阪~鳥飼車両基地間10kmのみ複々線化などさまざまな工夫により、ほぼ現行通りの東海道新幹線ダイヤのまま新大阪乗り入れを果たし、小浜ルートよりも1分速い1時間20分にできることを明らかにした(訂正:筆者による米原ルート案は1時間20分としていたが、正しくは1時間19分で、政府による小浜ルート試算も正しくは1時間20分であったが、それよりも1分速い)。いかに米原ルートが不利に見えるように数字が盛られていたかがおわかりいただけたのではないか。 

 

 この記事を踏まえ、日本維新の会の馬場代表からは 

 

「貴重な、しかもわれわれ素人では知り得ない情報を有り難うございました。この間、石川県に出張した帰り台風の影響で大阪方面からたくさんの方々が北陸新幹線を利用されダイヤがメチャクチャになった上に列車内も戦後か?と思うほどすし詰めでした。とにかく北陸新幹線は1日でも早くしかもできるだけ安価で新大阪につなぐ事が重要です」 

 

とのコメントをいただいた。また、工学院大学特任教授・東京大学名誉教授の曽根悟氏からは評価できる部分とそうでない部分のご見解をいただいた。 

 

「北村案で高く評価できるのは(1)鳥飼~新大阪間の複々線化案、(2)レベルの低い運行管理システムを前提にしてはいけないとしたことの2点であり、逆に本質論に基づかない所要時間の計算によるタイトルはほぼナンセンスです。米原-京都間は300X(高速度試験車)ではATC信号が420の区間でもあり、速く走りたい区間です。一方の整備新幹線は山陽新幹線と同様の設備で基本的には300km/h走行の準備はされていながら、現実には240km/h程度で走ればよいつもりの区間なので、この前提での比較自体がナンセンスです」 

 

としており、さらに複々線起点の鳥飼付近、米原駅構内、敦賀駅の分岐器の使い方の点では、160km/hで通過を前提とした北村案でも明らかに不十分とのご見解であった。要はさらなるスピードアップの可能性も検討できるとのことで、この点については追って300km/hでの走行や分岐器通過速度のさらなる向上を検討の上、筆を改めたいと思う。 

 

 米原ルートでも小浜ルートとほぼ同じ所要時間にできるのに、米原ルートの所要時間が盛られて米原ルートの倍額以上の国民負担と、工期も15~20年余計に待たされる機会損失だけでもおなかいっぱいな話だが、盛られていたのはなんと所要時間面だけではなかった。 

 

 料金面でも2016年時点の国の試算では、新大阪~金沢間で小浜ルートは8740円に対し、米原ルートは1万1190円と、2450円も高いという試算を出していた。これは現行の旅客営業規則や鉄道事業免許のあり方を無視した「盛りに盛った富士山盛りの数字」で、小浜ルートの方がはるかに安く見せる「印象操作」が行われていることが明らかとなった。今回、筆者試算により小浜ルートも米原ルートも料金は変わらないことをお示ししたい。 

 

 

2024年8月31日配信の筆者の前回の記事「北陸新幹線「米原ルート」 所要時間を計算したら「小浜ルート」よりも速かった!」 

 

 まず国の小浜ルート料金はどのように算定されたのか。算定の基となる営業キロを計算してみると、新大阪~敦賀間は国の試算で140.0km+敦賀~金沢間125.1km、合計265.1kmになる。265kmというと、現在の越前たけふ~上越妙高間とほぼ同じで、この区間の指定席特急料金を消費増税前の2016年当時の価格で3990円となる。となると運賃は4750円と試算していたようだ。 

 

 これに対し米原ルートでは、新大阪~敦賀間は経路特定制度により、米原経由でも湖西線経由でも距離が短い湖西線経由で計算されることになっており、新大阪~敦賀間は米原経由だと152.6km(筆者のルート案では151.7km)のところ、133.1kmで計算されるのが慣例である。この133.1kmに敦賀~金沢125.1kmを加えて258.2km。201km以上の場合は特定都区市内制度が適用され、大都市の中心駅からの営業キロ計算になり、大阪~新大阪間3.8kmを加算して262.0kmで計算となる。これで運賃は小浜ルートと同じ4750円になるはずである。 

 

 続いて、米原ルートの料金について、どうすればこれほどまでに二郎ラーメンのような盛り方をした数字になるのか、最大限考えてみた。以下のような結果になった。 

 

 1万1190円から当時の運賃4750円を引くと6440円。これを埋めるには東海道新幹線と北陸新幹線で指定席特急料金を打ち切り計算にしないと埋まらない。実際、博多駅などJR会社境界駅での料金打ち切り計算例はある。ただし博多駅での打ち切りの場合は改札を出ない限り、自由席特急料金+1回分の指定席料金で計算となっているため、指定席料金520円は通算となる。料金はいずれも2016年当時のものだ。 

 

・特急料金 新大阪~米原:2480円 

・特急料金 米原~金沢:2590円 

・指定席料金:520円 

・小計:5590円 

 

これではまだ合計1万340円で850円足りない。この微妙に残った850円の差は何か。 

 

「もしや…指定席料金は二重取りの計算なのではないか」 

 

そこで指定席料金を通算ではなく二重取りにしてみよう。これで520円の加算で1万860円である。まだ330円残っている。これはずっと謎であったが、最後にひねり出したのが 

 

「もしや……経路特定制度を適用していないか」 

 

そこで経路特定制度を外し、湖西線経由の営業キロを適用せずに求めてみると、新大阪~金沢間の営業キロは277.7km、特定都区市内制度適用で大阪~金沢間の営業キロ281.5kmで5080円となり、前述の指定席特急料金6110円を足すと、政府の米原ルート試算通りぴったり1万1190円になるのだ。 

 

 なんと経路特定制度を適用せず、特急料金も米原で打ち切り計算にし、さらに指定席料金520円は1回分にできるところを2回かかる前提にした、盛りに盛った数字で米原ルートの方が、料金が大幅に高く見えるように設定された数字だったのだ。 

 

 しかも、料金打ち切り計算についても博多駅や新青森駅のようなターミナル駅で打ち切るならまだしも、ターミナル駅の2駅手前で打ち切るというのは愚策である。筆者のXには 

 

「東海道新幹線内でのJR西日本による料金取りっぱぐれを防ぐため、東海道新幹線内はJR西日本が第2種鉄道事業者(線路を借りて営業する鉄道事業方式)として営業する前提で考えるべき」 

 

との声が寄せられた。ナイスアイデアである。実際、都営三田線が2駅だけ乗り入れている、東京メトロ南北線乗り入れ区間(目黒~白金高輪間)では都営側が第2種鉄道事業者として運行し、運賃は目黒から乗っても通算にして営業しているではないか。 

 

 これを適用せずに米原ルート料金試算を二郎ラーメンのような盛り方をし、料金マシマシトッピング付きにした数字にして小浜ルートの優位性を示した国の比較は、もはや 

 

「小浜真理教」 

 

ではないのか。ちなみに米原ルートでも運賃・料金を湖西線経由の営業キロ計算にして指定席特急料金も通算にすると、2016年当時の料金なら 

 

・乗車券:4750円 

・指定席特急料金:3990円 

・合計:8740円 

 

となり、小浜ルートと変わらない。2024年価格でも 

 

・乗車券:4840円 

・指定席特急料金:4060円 

・合計:8900円 

 

と当初の1万1190円と比べると大幅に安い。取りあえず小浜ルートと同額まで持ってきたここからが安くなるポイントだ。 

 

 指定席特急料金は、東京~大宮・新横浜間を含まない区間で見ると、おおよそ下記のキロ程で区切られた料金体系のようだ。JR西日本の北陸新幹線はJR東日本の料金体系を、同じJR西日本でも山陽新幹線はJR東海の料金体系を踏襲している。 

 

・0~100km JR東海:2290円、JR東:2400円 

・101~200km JR東海:3060円、JR東:3170円 

・201~300km JR東海:3930円、JR東:4060円 

・301~400km JR東海:4710円、JR東:4830円 

・401~500km JR東海:5150円、JR東:5370円 

・501~600km JR東海:5490円、JR東:6070円 

・601~700km JR東海:5920円、JR東:6070円 

・701~800km JR東海:6460円 

・801~900km JR東海:7030円 

・901~1000km JR東海:7570円 

・1001~1100km JR東海:8130円 

・1101~1200km JR東海:8670円 

 

 ご覧の通り、JR東海の料金体系の方が少し安い。現状、北陸新幹線は東京方面からの直通のみを前提とした料金体系だが、東海道・山陽新幹線との直通を前提とするならば、当然、新大阪方面との直通利用ではJR東海の料金体系が採用されるだろう。小浜ルートも山陽新幹線との直通を視野に入れてはいるが、新大阪までJR西日本の線路なので、JR東日本の料金体系が新大阪まで適用されることになる。 

 

 

北陸新幹線米原ルート・新大阪~敦賀間を含む利用での運賃・特急料金早見表(画像:北村幸太郎) 

 

となると、特急料金面でも小浜ルートよりも米原ルートの方が安くなるのだ。JR東海式の料金で新大阪~金沢間の米原ルートの料金を算出して比較すると…… 

 

●小浜ルート 

・乗車券:4840円 

・指定席特急料金:4060円 

・合計:8900円 

 

●米原ルート 

・乗車券:4840円 

・指定席特急料金:3930円 

・合計:8770円 

 

なんと米原ルートの方が、所要時間が1分短いだけでなく、料金も130円安くなるのだ(2024年価格で算出)。ちなみに現行の敦賀乗り換えでは 

 

・乗車券:4840円 

・指定席特急料金:4570円 

・合計:9410円 

 

なので、新幹線が新大阪まで全通すれば今よりも640円安くなる。 

 

 筆者のXに寄せられた、東海道新幹線内はJR西日本が第2種鉄道事業者とする案について、投稿者は東京メトロ南北線の目黒~白金高輪間を第2種鉄道事業免許で走る都営三田線の例を挙げていた。 

 

 そこでどのように収入の配分や線路使用料の設定が行われているのか。線路使用料は整備新幹線区間と比較してどうなるのか。参考にするため東京都交通局に聞いたところ 

 

「所管部署にて確認を実施致しました所、東京メトロさまとの契約に基づいており、当局の一存ではお答えすることができない」 

 

とのことであった。仕方がないので仮定で試算をしてみることにした。今回は料金の配分についてのみ触れ、線路使用料については次回の記事でお示ししたい。 

 

北陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表上り15分サイクル修正版(画像:北村幸太郎) 

 

 JR西日本を新大阪~米原間の第2種鉄道事業者にした場合、その運輸収入はどう分けることになるか。筆者は以下の四つを想定している。 

 

 北陸新幹線区間を含む利用と同数の運賃と料金をJR西日本に。ただし、「自由席でしらさぎ・はくたか←米原乗継→こだま・ひかり」利用の場合の新大阪~米原間の運賃・料金については、別途配分のルールを定める必要がある。前回記事で示した筆者の想定本数を基準に考えてみる。 

 

 敦賀・越前たけふ発着の場合は、1時間に4本ある各駅停車タイプの半数が米原止まりのため、半数を新大阪~米原間距離案分の上JR東海に配分したらいい。例えば新大阪~敦賀間なら151.7kmの内、新大阪~米原間は106.7km、70%を占めるので、収入の50%×70%=35%をJR東海に配分すればいい。 

 

 福井以東発着の場合は、1時間に8本ある内3本が米原乗り換えになるため、37.5%を新大阪~米原間距離案分の上JR東海に配分したらいい。 例えば新大阪~金沢間なら276.8kmの内、新大阪~米原間は106.7km、38.5%を占めるので、収入の37.5%×38.5%=14.5%をJR東海に配分すればいい。 

 

 ただし、福井以東発着の場合、越前たけふ、敦賀、米原のいずれかで速達列車の通過待ちがあるため、新大阪発着の「つるぎ」と組み合わせての利用も一定数想定されるほか、わざわざ乗り換えが発生する便を選ぶ人がそんなにいるのか、といった点は要検討で、JR東海への配分はもう少し下がるかもしれない。 

 

 今回の試算には関係はないが名古屋方面については、運賃・料金通算の上、従来の在来線特急「しらさぎ」での配分の仕方を踏襲するものと思われる。 

 

 新大阪~米原間のみ北陸新幹線列車の指定席利用分については全額JR西日本へ。これは当然だろう。 

 

 

北陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表下り15分サイクル修正版(画像:北村幸太郎) 

 

 最後に、新大阪~米原間のみを自由席で利用するケースでの配分だ。これは都営三田線と東京メトロ南北線の目黒~白金高輪間の例では、前述の通り都営側から回答が得られなかったため推測になるが、本数が完全に半分ずつになるようにしていることから、本数の比率に従って折半にしているものと思われる。そこで今回は自由席の車両数の比率を用いてはどうかと考える。筆者想定のダイヤで自由席の両数を計算し、その比率で配分割合を決める。 

 

・こだま10両×毎時1本=10両 

・ひかり5両×毎時2本=10両 

・北陸4両×毎時2本=8両(「はくたか」と敦賀での特急接続がないタイプの「つるぎ」を参考にして、4両とした) 

 

 東海道20両+北陸8両=合計28両なので、東海道70%、北陸30%の配分にするのが落とし所になるのではないか。その他列車間の運転間隔も考慮した配分の検討もアリだろう。皆さまもこんなアイデアはどうかというのがあれば、筆者のXまでお寄せいただければと思う。 

 

筆者作成の北陸新幹線、東海道新幹線直通用N700H系のイメージ。ぼくのかんがえたさいきょうのしんかんせん感満載だ。撮影協力:中古プラレール販売店ISSECO(画像:北村幸太郎) 

 

 なお、前回記事で示した筆者のダイヤ案では、京都に5分止まる「岡山ひかり」も、京都駅の停車時間を削って米原停車とする案にしているが、これについ前述の曽根悟氏は 

 

「ひかりが京都に長時間停車する真の理由は、Japan Rail Pass でも「のぞみ」に乗れるようになったとはいえ、相変わらず「のぞみ」には乗りたくなくなるような政策を続けているためです。京都観光の海外客が手荷物を持って「ひかり」への乗車が集中し、停車時間が5分程度必要になることがしばしば起きるからです。そのため米原での待避ではダメなのです」 

 

としている。これはJapan Rail Passの制度上の問題なので、北陸新幹線乗り入れを契機に見直しが必要だ。それかJapan Rail Passの乗客を北陸新幹線経由に誘導する施策を考えてもいいだろう。 

 

 東京~金沢間が「かがやき」で2時間半、金沢~京都間が「つるぎ」で1時間05分にできるなら、乗り換え時間を含めても東京~京都間は3時間40分程度と、「こだま」並みの所要時間にできる。 

 

 

 
 

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