( 214038 )  2024/09/21 17:19:40  
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在来線特急が消えた鯖江駅(福井県鯖江市で) 

 

 9月上旬の平日の昼頃、鯖江駅前の人通りはまばらだった。駅に併設された福井県鯖江市の観光案内所も利用客はほとんど見られない。案内所は9月末で閉鎖する。運営を担う委託業者は「来訪者は3月以降は、がくんと減った」と打ち明ける。 

 

 3月16日の北陸新幹線金沢―敦賀間の延伸開業で、隣接の福井、越前両市には新幹線駅が誕生したが、鯖江市は駅のない「空白地帯」に。関西、中京と北陸を結ぶ在来線特急「サンダーバード」「しらさぎ」も北陸エリアで廃止された。 

 

 JR北陸線の運営を引き継いだ第3セクター「ハピラインふくい」などによると、鯖江駅の4~7月の乗降客数は1日あたり約3800~4200人で推移。延伸前の2023年度の約4000人と大きく変わっていない。 

 

ハピラインふくいと北陸新幹線の路線図 

 

 変化したのは客層だ。 

 

 ハピラインは普通、快速を増便し、福井市などに向かう鯖江市民らの通勤、通学などでの利便性を向上させた。一方で、鯖江は国内トップの眼鏡フレームの生産を誇るほか、漆器、繊維産業も盛んな側面があり、延伸前は県外から訪れた多くのビジネス客らが鯖江駅前を行き交っていたが、特急が消えたことでめったに見かけなくなった。 

 

 駅前の日本酒販売店の店主(51)は「出張の土産で地酒を買う人が多かった。今となってはさみしい」とビジネス客らの減少を嘆く。市内のカレー店の店主(63)は「鯖江に特急が止まらなくなってから、客足は鈍り、売り上げは前年同期より40~50%下がった」と語る。 

 

 市は駅構内にコンビニエンスストアを誘致。来年2月に営業を始める。市が年間の賃料約140万円、毎月の光熱費約20万円を負担。店舗の基礎工事費用約1050万円も補助する。この場所に今年1月まであった別のコンビニは、延伸後の売り上げ減を懸念して撤退していた。市担当者は危機感をあらわにする。「ビジネス客らの利用を促したい。駅は街の顔。廃れさせるわけにはいかない」 

 

 空白地帯は前例がある。 

 

 富山県魚津市の魚津駅。かつて在来線特急「サンダーバード」の終着駅だった。だが、15年3月の北陸新幹線長野―金沢間延伸を機に特急は廃止。新幹線駅の誘致もかなわず、駅を利用する人は減った。 

 

 駅近くで居酒屋を営む早川隆幸・魚津飲食業組合長は「延伸前後で店の売り上げは2割ほど落ち込んだ。特に関西方面からのビジネス客が減り、駅前の人出は少なくなった」とこぼす。 

 

 

 一方で、関東方面からの出張客を中心に、新たな需要も生まれた。新幹線の黒部宇奈月温泉駅が開業した同県黒部市にはファスナー大手「YKK」の拠点があるものの、同駅周辺には宿泊施設が少ない。そのため、隣接する魚津市内のビジネスホテルなどに出張客が流入している。 

 

 魚津市商工観光課の 政二(まさに)弘明課長は「一時的な影響はあったが、市への入り込み数や宿泊者数は延伸前後であまり落ち込まなかった。今後は黒部宇奈月温泉駅を中心に広域観光を推進して誘客を進めたい」と話す。 

 

 鯖江市では、観光施設の入り込み客数も振るわない。「うるしの里会館」の7月の来館者は4644人、「めがねミュージアム」が1万5397人で、コロナ禍前の19年7月より15~6・5%減少。新幹線延伸の効果が十分に波及していないとみられる。 

 

 市は周辺市町と連携し、昨年12月から片道1000円で観光施設などを結ぶ定額タクシーを運行。新幹線延伸後の利用は月60件前後で、大幅な観光客増には至っていない。当面、観光誘客へ手探りが続きそうだ。 

 

 江戸川大の崎本武志教授(観光学)は「新幹線駅のある福井、越前両市と費用を分担し、駅と鯖江を結ぶコミュニティーバスを運行することで、新幹線利用客を鯖江に呼び込めるのでは」と提案。鯖江特産の眼鏡を生かすことも挙げ、「官民挙げて首都圏や金沢で市民らに鯖江の眼鏡に触れてもらうイベントを開くなど積極的にアプローチをすれば、新たなビジネス、観光の需要を喚起できるはずだ」とする。 

 

 

 
 

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