( 214203 ) 2024/09/22 01:29:53 0 00 米の価格が上がった原因は凶作や生産コスト増だけではなかった(時事通信フォト)
全国各地のスーパーや小売店から米が消え、価格が高騰する異常事態が続いている。今後の価格はどうなるのか──凶作や生産コスト増だけでは説明がつかない「米価のカラクリ」に迫る。【前後編の前編】
【図解】生産農家から消費者の元に届くまで、米の流通・価格の仕組み
「8月に入ると品薄感が強まり、徐々に棚からお米が消えていきました。卸売業者に相談しても『契約分を納めるのが精いっぱい』と言われ、同月中旬以降は棚が空に。9月に入って新潟県や千葉県産の新米が入荷するようになりましたが、連日、夕方までには完売の状況が続いています」──そう話すのは、都内の中規模スーパー店長だ。
首都圏や都市部で「米不足」が顕著になったのは今年8月のこと。それまで当たり前のように買えた米が店頭から消えるまでは「あっと言う間だった」と店長は振り返る。
「テレビや新聞で連日『米不足』が報じられたこと、また8月8日の『南海トラフ地震臨時情報』発出、8月末の台風10号接近が重なり、首都圏でも消費者の不安が加速した感があります。一部で中高年の買い占めが目立ちましたが、彼らは『平成の米騒動』を想起したのかもしれません」
今から約30年前。1993年後半から1994年前半にかけて起きた「平成米騒動」は、記録的な冷夏による米の収穫減が最大の要因だった。今夏と同様、小売店から米が消え、消費者の争奪戦に。国産米とタイ米のブレンド米や、抱き合わせ販売、ヤミ米が販売される事態にまで発展した。
今夏の米不足は昨年の高温障害に加え、外食・インバウンド消費の盛り返し、また災害を意識した備蓄意識の高まりなどの要因が重なった結果と報じられているが、米の専門店「つねもと商店」COOで米流通評論家の常本泰志氏は別の側面に目を向ける。
「米騒動が起きた1993年の主食用米の作況指数(平年収穫量を100とした指標)は74と明らかな大凶作でしたが、2023年は101と平年並みでした。また政府が示した今年6月末時点の米の在庫量は、全国で156万トンと過去最低だったものの、通常であれば新米が出回る時期まで十分に賄える量。数字だけ見れば米不足が起こるとは考えにくかったのですが、大きな盲点がありました」
それは収穫時に出る「網下米」の収穫量激減だった。
「網下米は『ふるい下米』『くず米』とも呼ばれる小粒でやや品質が落ちるお米です。煎餅や味噌など加工食品に用いられるほか、主食用米とブレンドされ、自衛隊や自治体食堂などで活用されますが、2023年の収穫量は前年比4割減と、約19万トン減少しました。
網下米の不足は昨年末に判明し、それを必要とする一部業者が代わりに主食用米を買い付けるようになった。結果、本来は一般家庭で消費されるはずの米が極端に不足したのです。網下米の収穫量は作況指数に反映されないこともあり、多くの卸売業者が供給不足に気づいたのは今年2月ごろでした」(常本氏)
くず米を使用する食品に主食用米が使われたことで、米不足に拍車がかかったという見方である。
小売店から米が消える一方、外食チェーンやコンビニではいつもと変わらず商品が提供されていた。大量消費する米をどのように確保していたのか。
「大手の外食チェーンやコンビニ業界は、大量の米を長期契約で押さえるのが一般的。取引のある卸売業者にとっては最大のお得意様であり、万一、米が不足した場合でも、最優先で在庫の確保に動きます。逆に、複数の卸売業者と取引があり、都度、最安の業者から仕入れているスーパーや小売店、飲食店などは融通を利かせてもらいにくく、米を確保するため相当な苦労を強いられたはずです」(常本氏)
そうした中、注目されたのが大凶作や災害に備え、常に100万トン程度がストックされている「政府備蓄米」の放出だ。8月下旬には大阪府の吉村洋文・知事が放出を要請したが、坂本哲志・農水相は「政府介入は米の需給や価格に影響を与える恐れがある」と慎重な姿勢を崩さなかった。備蓄米の放出について常本氏はこう考える。
「仮にその時点で放出が決まっても、市場に出回るのは9月。新米の流通と時期が重なれば、市場の米はダブつき価格が急落、流通が混乱する恐れがありました」
(後編につづく)
※週刊ポスト2024年10月4日号
|
![]() |