( 214228 )  2024/09/22 01:59:00  
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結婚式のご祝儀に「新一万円札がNG」とされる根拠は? 

 

 世の中には人を不快にさせないために様々なマナーがある。特に昨今は、様々な人に配慮が求められるようになり、新しいマナーらしきものが続々と生まれているようだ。だが、そうしたものにどこまで従う必要があるのだろうか。他者への配慮が行き過ぎた社会に、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が警鐘を鳴らす。 

 

【写真】渋沢栄一もこんなマナーが生まれることは予想していなかっただろう 

 

 * * * 

 9月15日に放送された『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)で、全ての人に清廉潔白を求める「ホワイト社会」についての議論が展開されました。その中で作家の竹田恒泰氏が「最近、生きづらいなあと思ったことが一つあるんですけど」と前置きしながら、「新一万円札を結婚式の祝儀に使わないようにする」という新たなルールというかマナーの存在を紹介。曰く、肖像画の渋沢栄一に妾が複数名いたことが問題視されているのだといいます。 

 

 この件を知り「ここまで来たか……」と愕然としました。結婚式に出席する前に、福沢諭吉の一万円札を求めてATMで「諭吉、出ろ!」と念じながら20万円とかをおろし、3枚入っていて「よかった……」なんてやるんですかね。でも、5年後には旧札はほぼ流通していないでしょう。その時は「津田梅子の5000円札6枚で3万円にする」みたいなご祝儀カルチャーになっているのでしょうか。 

 

 正直、私は合理性もない無駄なマナーなんていらないと思っています。メディアに登場する「マナー講師」という方が時々います。この方々は自身が考えるマナーを披露するのですが、それはむしろ「失礼なことを作り出すクリエイター」といった扱いをされ「失礼クリエイター」ともネットでは評されます。 

 

 古くは「ハンコを押す際、左前に少し傾けるようにしろ。そうすればお辞儀をしているように見える」なんてものがありました。さらに、今でも定着している「立場が下の者は名刺交換の際、下から出す」もあります。エレベーターから降りる時は立場が下の者が後に降りる、というのもありました。 

 

 これら、本当にウザいです。名刺を下に出したら相手が気を遣ってさらに下に出し、また相手はその下に出し、最後はしゃがんで名刺交換をする。エレベーターでも「ドアに近いヤツからさっさと降りろ!」と思います。あとはどこかの会社に行って、打ち合わせをした際、エレベーターホールまで同社社員が送ってくれますが、私が乗った後、ずっと頭を下げているのです。正直、これも非常にウザい。あなた方もさっさとそこから去りたいでしょ! 私もあなた方から頭を下げられるのを見るのはキツイんです! なんかエラソーに見えるのイヤなんです! 

 

カーディーラーに行っても、客が車に乗って視界から消えるまで営業マンは頭を下げている。いや、こちらだってそこまでしてもらいたくありません。さっさとオフィスに戻ってくれよ!としか思えないのです。 

 

 

 私は2001年まで会社員でしたが、当時はここまでめんどくさいビジネスマナーはそんなになかったように思います。いつしか「マナー講師」や「失礼バスター」みたいな人々が出てきて勝手によく分からないマナーを作り続けて今に至ります。 

 

 今回の新一万円札の件ですが、この風潮が進むとどんどんおかしなことになるんですよね。あり得る未来を考えます。 

 

【1】戦国武将や江戸時代の将軍を題材とした小説を書くのはご法度。なぜなら彼らは妾を持っていたから 

 

【2】昭和の時代のコンプラ無視のお笑い芸人はテレビ局から出入り禁止 

 

【3】会議では、両サイドの発言時間を50:50にしなければならない 

 

【4】大笑いをして手を叩く行為はその場で「あまり面白くないな」と思う人へのハラスメントなので、手を叩く行為は禁止。小笑い程度に留めよ 

 

【5】肌の色が白いことを「美白」と呼ぶが、色が白くない人が「私は『美』ではない」と傷つくし、人種問題にも配慮しなければならないから、「美白」という言葉は禁止。よって、積極的に日焼け防止をすることも禁止 

 

 そんな極端なこと……と思うかもしれませんが、これって本当にあり得る未来なんですよ。とにかく「傷つく人がいるかもしれないから配慮をしなくちゃ……」ということから、何でもかんでも規制をしようとする。これが何をもたらすかといえば、自由な発想を阻め、発言することを委縮させる社会の到来です。そもそも、全ての人に清廉潔白を求める社会を「ホワイト社会」と呼称すること自体、いろんな問題を孕んでいると思いますが、本当に行き過ぎて欲しくないですね。 

 

【プロフィール】 

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。 

 

 

 
 

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