( 214513 ) 2024/09/23 01:04:39 0 00 米の価格が上がり続ける要因は「値段を決める過程」にも(写真:イメージマート)
全国各地のスーパーや小売店から米が消え、価格が高騰する異常事態が続いている。今後の価格はどうなるのか──凶作や生産コスト増だけでは説明がつかない「米価のカラクリ」に迫る。【前後編の後編。前編から読む】
【図解】生産農家から消費者の元に届くまで、米の流通・価格の仕組み
9月に入り小売店に新米が入荷するようになったが、消費者が気になるのは、やはり「価格」だ。都内スーパー店長が打ち明ける。
「今年の6月以降、卸売業者からの仕入れ値が段階的に上がっています。昨年は2000円程度で販売できた5kgの新潟県産の新米も、今年は3000円超に値上げせざるを得なくなっています。『米不足に便乗しているのでは?』と思うお客様もいるようですが……」
総務省統計局調査によると、2024年7月の米5kg(コシヒカリを除く国内産精米)の価格は全国平均で2411円。昨年同月の2046円から300円以上も上昇した。
また農水省の「米の需給状況の現状」を見ると、2023年産米の生産量は661万トン。対する需要量は702万トンだから、需要が大幅に上回ったことが分かる。さらに、物流や肥料、燃料コストの上昇が価格に転嫁された形となった。
だが、米の価格が上がり続ける要素はこれだけではなく、「値段を決める過程」にも要因がある。米の専門店「つねもと商店」COOで米流通評論家の常本泰志氏が解説する。
「米の価格は、基本的に各都道府県の農協が集荷時に農家へ支払う『概算金(玄米60kgあたりの仮払金)』を基に決まっていきます。例年、需給状況や生産コストを踏まえ金額が算出されますが、今年は各農協の概算金が出揃う前に、卸売業者が動き出した。
とにかく量を確保したい一部の業者が、農協を通さず『これだけ出すからウチに卸してくれ』と、例年の概算金を大きく上回る額を農家に提示、直接買い付け交渉するようになったのです」
これに慌てたのが農協だった。
「各農協もこれに対抗せざるを得ず、60kgあたり前年比プラス8000円の概算金を決断した農協もあった。結果、9月9日に出揃った主要産地の米の概算金は前年比2?4割増となり、小売価格を押し上げる結果となりました」(常本氏)
たとえば2024年産米の北海道産「ななつぼし」の概算金は、前年比4000円増の1万6500円、秋田県産の「あきたこまち」は同4700円増の1万6800円と、前例がないほどの上げ幅になっている。
常本氏によると、現在の高値は少なくとも新米がほぼ出揃う10月末ごろまで続くという。
「今後の米の収穫量次第で、ゆるやかに価格が落ち着いていく可能性はありますが、少なくとも2023年以前の水準まで価格が下がることは考えにくい。米の生産、流通コストが上がり続けているうえ、2024年産米については、すでに業者が高値で買い付けているからです。消費者にとっては厳しい状況ですが、米はパンや麺類など他の主食と比べても、価格上昇がかなり抑えられてきた。米の流通に携わる立場としては、ようやく需給に応じた『適正価格』に近づきつつあるという印象です」
1970年に始まった、米の過剰生産を抑える「減反政策」が2018年に廃止され、国による米の生産、価格統制の縛りは解けた。だが農家の経営環境は依然として厳しい。
米農家の廃業、高齢化も進み、この10年で作付面積は2割も減少したという。この先、再び「米騒動」が起こる可能性はあるのか。
「気候による収穫量減のリスクは常にありますが、2024年産米は十分な収穫量が見込まれており、2年連続で米不足が起こる可能性は低いでしょう。しかし長期的に見れば、米農家や作付面積のさらなる減少は避けられない。美味しい国産米の作り手が消えれば、将来的には食肉同様、安価で手に入りやすい外国産米を選ばざるを得なくなるかもしれません。若い担い手を増やすためには、米農家がきちんと稼げる仕組みを作り、農地集約を加速させるなど、抜本的な対策が急務です」(常本氏)
米のありがたさを噛みしめる日々は、まだ続きそうだ。
※週刊ポスト2024年10月4日号
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