( 216510 )  2024/09/29 01:25:27  
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10月1日出荷分から15円に値上げされる「うまい棒」は駄菓子屋でも人気の商品 

 

「10円で買えるお菓子」の代表格として知られた「うまい棒」(やおきん)が12円(税抜き)に値上がりしたのは、2022年4月のこと。そして今年10月1日出荷分から、15円(同前)に値上がりすることが発表された。うまい棒が値上げするたびに、ネットでは大きな話題になるが、私たちはうまい棒の値上げをどう受け止めるべきか。また駄菓子屋は「15円うまい棒」にどう対応していくのか。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏がリポートする。 

 

【画像】あなたが好きなのはどれ?15種類のうまい棒 

 

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 うまい棒の値上げについてネット上では、「これまで安かったのだから仕方がない」と販売元のやおきんへの理解を示す意見が多かったように感じられます。経済評論家の森永卓郎氏は出演したラジオ番組で「努力が足りない」と表現し、駄菓子屋で消費税のことも考慮し、「14円にすべきだった」と述べています。 

 

 このように日本の物価の指標としても取り沙汰される「うまい棒」ですが、私は今回の値上げは仕方ないかな、と思っています。何しろ「ステルス値上げ」という言葉があるように、いろんなお菓子が量を減らして価格を維持してきた側面もあります。長きにわたるデフレに慣れた日本人ですが、昨今は円安や原材料価格の高騰もあり、「こんな時代だからね」といった正常な感覚になりつつあるのではないでしょうか。 

 

 お菓子の値上げで思い出すのは2016年のこと。赤城乳業が「ガリガリ君」を60円から70円に値上げ(いずれも税抜き)した際は、社長や社員が登場し、値上げすることに対して頭を下げる企業広告を作ったほど。まだ当時は日本にデフレの空気が蔓延していて、なかなか値上げを許容できない空気感があったのかもしれません。ちなみにガリガリ君は2023年にも値上げして、今は80円(同前)になっています。 

 

 さて、森永氏も指摘した駄菓子屋での販売についてですが、駄菓子屋はいかにして値上げに対処しているのか? コンビニなどでは値上げした価格に普通に消費税をのせて販売していますが、駄菓子屋では販売価格の単位は主に「10円」です。1円玉や5円玉は流通しないことが多いです。「五円チョコ」の愛称で知られる「ごえんがあるよ」は5円で売っていましたが、今は単品売りはしていません。 

 

 

佐賀県唐津市の駄菓子屋「からつ駄菓子屋さん」を運営する(有)井上商事の代表・井上誠二さんに、15円になるうまい棒をどのように売るかを聞きました。なお、同店では12円になった時は、赤字覚悟で10円で売り続けました。 

 

「さすがに15円のものを10円で売るのは無理です。私の店では2本30円で消費税分を取らないようにする予定です」(井上さん) 

 

 30円の8%ということで2円の消費税がかかりますが、これを店側がかぶる、ということですね。同店では「10円コーナー」や「20円コーナー」などがあり、基本的には10円単位で消費税分は取らずに運営しています。「15円コーナー」は作らないようです。というのも、井上さんは、子ども達が決められた予算内に収めるよう、10円単位でコーナーを作っています。それは、子ども達がゲーム的に楽しみながらお金について学べる機会ににつながると考えているから。15円では、それが複雑になってしまうのです。現に同店には「2個30円コーナー」が存在します。 

 

 今回同店を取材したのは9月25日でしたが、30本入りの「大人買いコーナー」のうまい棒の売れ行きは好調のようでした。うまい棒が値上がりすることを知った人々が買いに来たようです。さらに、駄菓子問屋はこうした値上げのニュースがあると、安い内に商品を確保しようと動き、それで品薄になるのだといいます。 

 

 かくして注目を集める「15円うまい棒」ですが、私自身も感慨深いものがあります。現在、マクドナルドのハンバーガーの価格は170円~となっていますが、2002年の一時期は59円で売られていました。当時はデフレが加速しており、牛丼チェーンでは1杯250円なんてこともあり、「安い=エラい」という空気感があったように思います。当然今とは時代は異なりますし、インフレ率や為替の問題もありますが、10月1日からうまい棒が15円になると、4本買えば2002年のマクドナルドのハンバーガーとほぼ同じ値段ということになるのです。 

 

 こうして、うまい棒だけでなくさまざまなモノが値上がりしているわけですが、物価高騰を嘆くばかりではなく、これは来たる賃金増への布石だと前向きに捉えたいところです。我々労働者は仕事に打ち込み、「うまい棒は15円が当たり前」と感じられるようになるのが、日本経済復活への一歩となるかもしれませんね。 

 

【プロフィール】 

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。 

 

 

 
 

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