( 217120 ) 2024/09/30 17:52:16 0 00 ポケットペアを提訴し、人気ゲーム『スプラトゥーン』でも異例の取り締まりを始めた任天堂 Photo:PIXTA
任天堂が人気ゲーム『パルワールド』を手がけるポケットペアを提訴し、ゲーム業界やファンを騒がせている。同時に任天堂の人気タイトル『スプラトゥーン』でも、迷惑ユーザーへの取り締まりが行われた。なぜ任天堂の取り締まりは急に厳しくなったのか。この動きから見られる、任天堂の「覚悟」とは。(フリーライター 武藤弘樹)
● なぜ?『パルワールド』を任天堂が提訴 『スプラトゥーン』でも異例の取り締まり
任天堂とポケモン社は共同で、『パルワールド』というゲームを制作したポケットペアを提訴した。『パルワールド』は世界中(特にアメリカ、中国)で大ヒットしている作品だが、ちょっといわくつきで、キャラやゲーム内容が一部本家のポケモンシリーズ(ゲーム)に激似な上に、捕まえたポケモンのごときキャラを強制労働の駒にしたり解体して肉にしたりできる点が本家ポケモンシリーズにはなく発展的であり、発売当初からとかく注目されていた。
パルワールドの発売は今年1月。リリース3日で売上500万本という記録的な売れ方を示した。ポケモン社は1月末に自社公式サイトで『パルワールド』の名指しを避けつつ、「パルワールドに関する問い合わせがすごく多いけど、ポケモン関連の利用許諾はしていない。調査を行った上で適切に対応していく」という内容の、牽制のような警告のような声明を出していた。
一方、ところ変わって任天堂の人気タイトル『スプラトゥーン』では今年9月、運営がユーザーに対して異例の取り締まりの動きを見せていて、それと前述のポケットペア提訴は偶然時期が一致しただけであろうが、この2つの動きから任天堂のこれからの覚悟が漂ってくるように感じられるのであった。その任天堂の“覚悟”について詳しく解説したい。
● 「ポケモンパクリ」の事業拡大に 「待った」の動きか
まず、ポケットペア提訴の件についてもう少し触れておく。任天堂・ポケモン社の提訴がなぜこのタイミングになったのか。これには、ポケットペア社の事業拡大の動きが関係していると見られている。
今年7月、ポケットペアはソニーミュージックとアニプレックス、3社合同によるジョイントベンチャーとして「株式会社パルワールドエンターテイメント」を設立した。その名の通り、パルワールドのライセンスビジネスを国内外で行う会社であり、つまり「パルワールドのキャラクターを著作物または商標として、その権利を使って商売をしていきます」という構えである。
ポケットペア社自体はインディーのゲーム会社だが、ポケモンのパクリ(と思われるような)ゲームのライセンス事業を大手と組んで大々的にやるなら、任天堂としてもいよいよ待ったをかけざるを得なかったのではないか……というのが専門家らの見立てである。
なお、何かのキャラが何かに超絶似ていたとしても、著作権侵害はなかなか成立しにくいこともあってか、今回の提訴は「複数の特許権を侵害」として行われている。
● “世界最強の法務部”を擁する 任天堂が動いた理由
任天堂はゲームに関して数多くの特許を有しているが、その特許権を普段あまり行使することはない。その理由は「任天堂がゲーム業界の発展を願っているがゆえに、他社のゲーム開発をなるべく阻害しないようにしている」や「自社ハード(現行ならニンテンドースイッチ)を盛り立ててくれるソフトメーカーとは協力関係なので、多少のことなら積極的に目をつぶる」などと言われていて、国内では任天堂寄りの意見が多い。また、任天堂は普段からインディーズに協力的なので、「その任天堂がインディー会社に対して動くなんてよほどのことだ」という見方もある。
他方海外では、「特許権を振りかざして他社の自由な開発の邪魔をする任天堂は悪」という意見も散見される。
任天堂は過去に複数の裁判で勝訴しており、「任天堂法務部は世界最強」というネットミームもあるのだが(実際は法務部の業務は別にあって、知的財産部が商標・著作権関連の業務を担当しているようである)、訴訟に至るときは自社のキャラや技術を守るためであったり(マリカー裁判やコロプラ裁判)、自社のためでありつつもゲーム業界全体の利益につながるものであったりする(マジコン裁判/ゲームソフトを不正にコピーして遊べる“マジコン”という機器の製造などが禁止となり、ゲームソフト開発会社が被る不利益を回避した)。
【参考】
任天堂 仕事を読み解くキーワード 法務部 https://www.nintendo.co.jp/jobs/keyword/45.html
任天堂 仕事を読み解くキーワード 知的財産部 https://www.nintendo.co.jp/jobs/keyword/104.html
どの事例にも共通しているのは「一線を越えると任天堂は動く」ということで、今回のポケットペア社提訴を通して、任天堂には「超えてはいけないラインを示そうとしている意図」もあるように思われるのであった。
● ついに始まった 迷惑プレーヤーへの取り締まり
次に『スプラトゥーン』の話である。『スプラトゥーン』は私が大いにハマっている対戦ゲームで、対人戦だからこそ面白いが、人対人だからこその諍いも頻発する。
スプラトゥーンも、他の対人ゲーム同様、悪質なプレーヤーを通報できるのだが、それに対する明確な取り締まりがなされているかは不透明であった。シリーズ中、現行の『3』では通報機能がより詳細になったが、それでも通報して効果があったかは結局わからないままで、煽り(対戦相手に対する不必要な挑発行為)を見つけては日々せっせと通報する私のYouTube配信に煽った本人が現れて、「煽りで通報してもbanされないのに、顔真っ赤にして通報してて、クソ底辺配信者笑えるwwww」といった暴言を吐いていくこともあるくらいだ。当然私の中で悪質プレーヤーへの穏やかでない気持ちは順当に育まれているのだが、『スプラトゥーン』に限らず対人ゲームをする人なら、同種の不快な体験をしたことが必ずあるはずである。
とかく悪質プレーヤーへの取り締まりが待望されていた『スプラトゥーン』において、潮目が変わったのは今年6月のゲームのアップデートである。アップデートに「フレンド申請による嫌がらせ」(無言電話のようなもの。フレンド申請機能を悪用して、マッチングした相手に対して匿名で嫌がらせができる)を回避する仕組みと対処法が盛り込まれ、さらに「迷惑行為、嫌がらせ行為、その他精神的被害を与える行為は利用規約で禁止されている」と、マナーの芳しくないゲームプレイに関して初めて積極的な言及が行われたのであった。
そして9月2日、任天堂は公式サイトに掲載されている「著作物の利用に関するガイドライン」の改訂をおこなった。「任天堂の著作物を利用した不適切だったり転載だったりする投稿を、任天堂は認めない権利を有している」といった文言が加筆され、同月、スプラ界隈で有名な迷惑プレーヤーたちのYouTube配信や動画が任天堂の申し立てにより凍結されたのであった。
古参で一部に人気のあったプレーヤーを含んだ制裁であって、ついに下された運営の鉄槌は界隈になかなかの驚きをもって受け止められた。
何事も光があれば闇があるように、物事は100%キレイなままではいかない。著名な迷惑プレーヤーもダークサイドのプレーヤーたちの受け皿として、いわば“スプラの闇”的に機能していた面は当然あったわけだが、ダークサイドのわりには影響力が強かったから取り締まられた感はある。対戦ゲームの前提をわやにするような迷惑行為や、マッチングした相手のオンライン体験を著しく損なうプレイングが彼らによって発信され、影響を受けやすい低年齢の子どもたちは「そういうことをしてもいいんだ」と良くない方向に学んでいった。
しかし、任天堂は言わずと知れた日本を代表する企業であり、さらに企業の枠を超えたカルチャーを持ち、自社コンテンツの社会的・教育的役割を自認しているはずである。
● 健全な子どもをダークサイドから守る 任天堂から感じる「決意」
シリーズ最初の『スプラトゥーン』が発売されて以来、動画投稿などを行って『スプラトゥーン』を盛り上げてきたのは大学生や成人のお兄さん・お姉さんたちだが、ターゲットには子どもたちが含まれるし、現在は小・中学生や高校生たちも界隈を大いに盛り上げている。健全な子どもたちも触れるコンテンツが、ダークサイドにまみれたままでいいわけがない――そうした決意が、ついに具体的な形を伴って制裁となって現れたのではあるまいか。
これまで、任天堂に限らずどのゲームを見てもチート行為は即アカウント停止措置がなされたが、「マナー」や「悪質か否か」はbanに至るほどの行為とされてこなかった。だから、任天堂が行った悪質プレーヤーへの取り締まりの実行は、かなり突っ込んだ措置である。今後のゲーム業界の方向性にも影響しうる、大きな一手と言えよう。
ポケットペア訴訟とスプラトゥーン取り締まりは、偶然起きた日が近かっただけかもしれないが、ともに将来を見据えて任天堂から打ち出されたものである。ぜひ業界が、ひいては世界がより楽しく、より心安らかなゲーム体験を提供してくれることを期待していきたい。
武藤弘樹
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