( 217416 )  2024/10/01 16:13:12  
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YouTubeで『終了ライブ「自民党総裁に石破茂…。自民党の国会議員て、バカが半分以上いるのか!」』と銘打って生配信した百田尚樹氏(画像:YouTube「百田尚樹チャンネル」より) 

 

 日本保守党代表で作家の百田尚樹氏が、自民党新総裁の石破茂氏の選出県である、鳥取県について述べた発言が激しい批判を浴びている。 

 

【写真】呂布カルマ氏にディスられて炎上した、鳥取県の「名物駅」 

 

 百田氏は、自身のYouTubeチャンネルの中で、石破氏について「もともと、鳥取県かなんかでしょ。鳥取県なんか人口、何人おんねんっちゅう話でしょ?  ものすごい少ないですよ、鳥取県の人口なんか。何人おるのか…数十万人ぐらいでしょ。そっから選ばれとるヤツが日本の総理大臣になんねん。もういいかげんにせえよ」という発言をしたのだ。 

 

 これに対して、SNS上では批判が殺到、擁護する人はほとんどいない状況となった。 

 

■鳥取出身者から見た百田氏発言の問題点 

 

 百田氏は、その後X上に「これは、はっきり言って失言やね。 YouTubeで、ついうっかり言ってしまった軽口やけど、小選挙区制を否定しかねない発言であり、鳥取県をバカにしたと見られても仕方がない。 鳥取県の皆様に謝罪します」と投稿して謝罪をした。 

 

 さらにその直後に、「鳥取県の皆様、本当にごめんなさい。心から謝ります。 けど、 皆さんの選んだ石破茂は嫌いです」と投稿している。 

 

 百田氏が謝罪したことを評価する声も一部では出てはいるものの、百田氏への批判は収まっているとも言いがたい。 

 

 筆者は鳥取県の生まれで、大学入学まで同県で暮らしていた。このたびの百田氏の発言は、鳥取出身者としても、看過できないことだ。 

 

 鳥取県出身といっても、筆者は地元を離れて30年以上になるし、東京在住歴のほうが長い。地元意識は希薄であるし、石破氏を積極的に支持しているわけでもない。他の鳥取県出身者や在住者にも、同様の人が少なからずいると思う。 

 

 しかしながら、鳥取県からこれまで1名も総理大臣が出ていない状況がある。中国地方の中でも唯一、総理大臣を輩出していない県で、周辺県と比べて、地元に利益誘導がされてこなかったという実態もある。 

 

 このご時世、利益誘導は期待すべきではないだろうが、石破氏の支持者ではなくとも、地元から総理大臣が出ることを好ましく思っている鳥取県民、鳥取県出身者は多いのではないだろうか。 

 

 百田氏の発言は、石破氏に対する反発心から、つい彼の地盤である鳥取まで叩いてしまったのだと思うが、結果的に石破氏を支持していない鳥取県民まで敵に回してしまうような物言いだったかもしれない。 

 

 

 もっとも、こうした失言をしてしまうのは、百田氏だけではない。 

 

 9月12日、ジャーナリストの青木理氏がYouTubeの番組で、ジャーナリストの津田大介氏から「人々はなぜ自民党に投票し続けるのか」と聞かれ、「劣等民族だから」と答えて、批判を浴びた。 

 

 青木氏は後に謝罪をしたが、自民党に投票した人たちのみならず、多くの人たちから反発を買う、不適切な発言だったと思う。 

 

 米大統領候補のトランプ氏も、テレビ討論会でハイチ系移民について「彼らは犬を食べている。猫も食べている。住民のペットを食べている」と発言して激しい批判を浴びた。 

 

 ある集団を十把一絡げにして根拠のない理由で叩くことは、何の利益ももたらさないことは肝に銘じておきたい。 

 

■謝罪の内容にも問題があったが… 

 

 さらに百田氏は謝罪をしてはいるが、誠実な対応だったとは思えない。失言をした場合、後で取り消したところで、完全に収まるわけではない。多くの人は、「謝罪はしたけど、本音では悪かったと思っていないだろう」と考える。 

 

 謝罪をするなら、誠実かつ丁寧に行うことが重要だ。 

 

 百田氏は、X上で謝罪文を投稿するにとどまっているうえに、謝罪文の最後に「けど、 皆さんの選んだ石破茂は嫌いです」という余計な一言をつけてしまっている。 

 

 このような行為は、「火に油を注いでいる」とまでは言えないまでも、「焼け石に水」の行為であったと思う。謝罪するのであれば、余計なことは言わず、謝罪だけすればよかった。石破氏への批判がしたければ、時間を置いて、投稿を分けてすればよいまでのことだ。 

 

 さらに、9月30日時点で、百田氏が当該の発言を行った動画は削除されていない。 

 

 反省し、謝罪するのであれば、動画は削除するか、当該発言部分をカットして再アップすべきだし、動画で失言したのであれば、謝罪は動画でも行うべきだろう。 

 

 百田氏の言動に関するトラブルは、これまでも起きている。記憶に新しいところでは、大阪・泉南市議会議員の添田詩織氏が、百田氏からDM(ダイレクトメッセージ)でデートの誘いを受けたが、断ったらネットリンチを受けた――という報道が、今年2月にスポニチから出された。 

 

 この報道の事実関係について、当初は、百田氏は否定をしていたが、途中で一転して謝罪するに至った。しかし、それでは収まらず、添田氏がDMの内容を公開、百田氏の支持者が添田氏を攻撃するなどして、事態は余計に悪化するに至った。 

 

 

■なぜ問題発言をくり返すのか 

 

 百田氏がこのような態度を取り続けるのは、百田氏自身の性格もあるのだろうが、百田氏、あるいは日本保守党の支持者が、離反することはないどころか、擁護し続けるからという面もあるだろう。 

 

 企業の経営者であれば、さまざまなステークホルダーに対する説明責任が求められるため、不適切な行動は改めなければならないし、改められなければ、辞任に追い込まれてしまいかねない。 

 

 しかし、政治家は、有権者から支持が得られれば、職を失うこともないし、たとえ失っても、支持さえ得られれば再選が可能である。百田氏のもう一つの職業である、作家業も同様で、書籍が出版でき、読者が得られ続けていれば、仕事を失うこともない。 

 

 元兵庫県知事の斎藤元彦氏は、パワハラ疑惑や独裁的な県政運営が問題視されたが、辞任はせず、兵庫県議会から不信任決議を受けて失職に至った。斎藤氏は、出直し選挙に挑む意向を表明している。 

 

 はたから見ると、斎藤氏は強権的で往生際が悪いように見えるのだが、政治家という特殊な職業の枠内においては、合理的な行動を取っていると見ることもできる。 

 

 百田氏に関しては、彼がどのような行動を取ったところで、離れない支持者が一定数いる。百田氏が物議を醸すような言動をとるからこそ、支持をしている人たちもいるだろう。不適切な言動に対して、心から反省して謝罪をすることで、支持者が喜ぶかといえば、そうとも言えない。 

 

■熱狂的な支持者が仇となる 

 

 百田氏は、動画の中で正確な数字は挙げなかったが、鳥取県の人口は、約54万人である。しかも、徐々に減少している。 

 

 百田氏のYouTubeチャンネル「百田尚樹チャンネル」の登録者数は46.6万人、Xアカウントのフォロワーは65.3万人である。まさに、鳥取県の人口とほぼ同レベルのフォロワー数がある。 

 

 そのうちのどれくらいが、百田氏、あるいは日本保守党の支持者なのかはよくわからない。ただ、百田氏が今後もこのような言動を続ければ、支持者の数は減少し、熱狂的な支持者だけが残っていくだろう。 

 

 

 アメリカでは泡沫候補だったトランプが多数派を形成し、大統領に就任するまでに至ったが、日本はアメリカほどには政治的な分断は起こっていないし、政敵を手厳しく批判することに対して、寛容でもない。 

 

 百田氏は、高市氏を支持していたが、下手をすると百田氏や、彼の支持者の応援が「ほめ殺し」になってしまう可能性もある。熱狂的な支持者がいることは、諸刃の剣でもある。 

 

 添田氏の一件もそうなのだが、本来なら連携すべき保守派同士の亀裂を生んでしまっており、誰も得をしていない。 

 

 鳥取の話題に戻ろう。百田氏の今回の一件の直前に、鳥取がらみで“炎上”が起きていた。 

 

 ラッパーの呂布カルマ氏が、鳥取県の智頭町にある「恋山形駅」の写真とともに「何だこの駅…気持ちわりぃ…」と投稿して、賛否両論の声が巻き起こった。呂布カルマ氏は、自身の意見に対する批判に反論して炎上状態となった。 

 

■「ディスり」を逆手にとった鳥取県 

 

 この騒動に対して、平井伸治・鳥取県知事は県議会で「鳥取県は『炎上商法』でやっている。そういう意味でまんまとひっかかった」と述べ、話題となった。さらに、これに便乗して、鳥取県と智頭急行は「恋山形駅応援プロジェクト」の実施を決定した。 

 

 「炎上商法」と言っても、炎上したのはむしろ呂布カルマ氏のほうで、鳥取県や恋山形駅はむしろ恩恵を受けた側だ。 

 

 百田氏の件にしても、あまり世の中で話題にならない鳥取が大きな話題になり、しかも鳥取に対する擁護意見が多数寄せられたという意味では、やはり鳥取県は大きな恩恵を受けたと言えるだろう。 

 

 なにせ、百田氏のSNSのフォロワーは鳥取県の人口と同じくらいいるのだ。そういう人物がネタにしてくれただけでなく、それをきっかけに鳥取について大きな話題が生まれた、きっと、平井県知事も喜ばれているに違いない。 

 

 総裁選に勝利した石破氏を叩くぶんには、世間は「強者への挑戦」と見なされるかもしれないが、鳥取県のような過疎の弱小県を叩くと、「弱い者いじめ」に見えてしまう。擁護する人がほとんどいないのは当然のことである。 

 

西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 

 

 

 
 

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