( 217481 )  2024/10/01 17:21:33  
00

(写真:徳間書店提供) 

 

企業は退職金制度を福利厚生のようにアピールし、従業員もポジティブなイメージを持っている人が多いかもしれません。しかし、表面的なイメージと裏腹に、退職金制度は企業にとって都合よくできているのです。堀江貴文氏の著書『ニッポン社会のほんとの正体 投資とお金と未来』より一部抜粋・再構成のうえ、その実体をお届けします。 

 

■退職金(退職一時金)とはなんだろう?  

 

 長年の勤務に対する功績報酬。退職後の生活支援金。だいたいそんなポジティブなイメージを持っている人が多いと思う。でもその認識は半分正しくて、半分誤りだ。 

 

 たしかに定年になってそれなりの退職金を得れば、老後の足しにはなるだろう。退職所得には大きな税制優遇もある。でもそこで手にする退職金はなんら特別なものではない。その実体は「給与の後払い」にすぎないのだ。 

 

 退職する従業員に会社がまとまった額のお金を一括支給する――。実はそのような制度は世界にあまり例がない。日本独自の習慣なのだ。現在の退職金制度が普及したのは戦後すぐのころである。 

 

 当時、企業はどこも深刻な資金不足におちいっていた。低賃金で働かされる従業員の不満は爆発寸前だ。そこで多くの企業の取った策が、いまは賃上げしない(賃上げできない)代わりに定年時にまとまった報酬を支給するというスキーム、つまり「退職金」の導入だった。毎月支払うべき給与の一部を後払いするというわけだ。 

 

 そうして労使が歩み寄り、企業は戦後不況を乗り越えていった。やがて朝鮮特需が到来し、高度経済成長期に突入するのだ。そのときの退職金制度がそのまま今日にいたるまで受け継がれているのである。 

 

 しかしいまは戦後ではない。当時とはまるで状況が違う。それにもかかわらず多くの企業がかつての退職金制度を変わらずに用いている(2023年時点で退職金制度のある企業の割合は約75%)。 

 

 なぜだろう?  そう。そういうことだ。退職金は企業にとって都合のいい制度にほかならないからだ。 

 

 

 無利息で運転資金を調達できるのである。しかも後払いの際(退職金を支払う際)には感謝までされる。さらに万が一倒産し、退職金にまわす資金がなくなったら支払う必要はない。魔法のような資金スキームである。つまり退職金制度は従業員のためにあるのではない。企業のためにあるのだ。 

 

 でも一方で、退職金制度は福利厚生(従業員やその家族に対する生活支援)の一環だとアピールする経営者も少なくない。冒頭で挙げたようなポジティブなイメージがまかり通っているのはそのせいだ。 

 

■福利厚生というアピールはミスリード 

 

 中小企業の退職金の相場は、大卒で約1100万円、高卒で約1000万円(新卒入社で定年まで勤務した場合)。大金といえば大金だ。いざ支払うとなれば、それなりの負担にはなる。まして経営状態の思わしくない、内部留保の限られた企業ならなおさらだろう。退職金を工面するのはひと仕事だ。そうした事情を鑑みて、従業員に対する福利厚生だと勝手に決めつけているわけだ。 

 

 退職金の性質について法的に明確な定義はない。だから福利厚生だというその決めつけもウソにはならない。しかしウソにはならないが、明らかなミスリードだろう。 

 

 退職金制度がある会社は、決算報告書に将来発生する退職金額を「債務(退職給付債務)」として計上する必要がある。従業員にまだ支払われていない賃金という位置づけだ。退職金はあくまで給与の後払いなのである。 

 

 その大前提をうやむやにするような決めつけは感心しない。本人にそのつもりはなかったとしても、従業員を欺いているようなものだ。 

 

 就職、転職活動で退職金の有無を気にする人は多い。でも、退職金制度がある=労働条件が良い、というのは思い込みにすぎない。働き盛りの30代、40代ともなれば、いろんなことが起きる。結婚、育児、子どもの進学、あるいは独立・起業――。なにかと物入りだ。収入は1円でも多いほうがいい。 

 

 

■退職金は時代遅れな制度 

 

 定年時にもらうお金よりも、そうしたライフイベントの真っただ中でもらうお金のほうが何倍も価値がある。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)に投入できる種銭も増える。退職金に惑わされるのは愚かだ。 

 

 近年では退職金制度がない代わりに、昇給やインセンティブに重点を置く企業も増えてきた。支払うべき給与をそのつど全額支払うということだ。あたりまえだが、それが適正な雇用というものだろう。 

 

 私もかつてライブドアを率いていたとき、退職金制度は設けなかった。とうぜんそのぶん月々の給与に還元していた。そのほうが経営陣も従業員も向上心をもって職務に励める。退職金がないことがメリットになりうるのだ。 

 

 退職金という悪しき習慣が日本をダメにする。みんなそのことに気づくべきだろう。 

 

堀江 貴文 :実業家 

 

 

 
 

IMAGE