( 218296 )  2024/10/04 00:45:13  
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世耕弘成参院議員 

 

 石破茂首相が高市早苗前経済安保相を決選投票で下した自民党総裁選が終わって、こんな声がある。 

 

【写真】世耕氏が次のステップに進もうとするとき争う相手はこの人? 

 

「自民党から去った人が総裁選終盤に影で動いて、票を集めていた。それが批判を浴びて石破氏に流れた票もあった気がする」 

 

 こう話すのは旧岸田派の衆院議員。また、旧二階派の衆院議員もこう話した。 

 

「もう自民党じゃないのに、ウラで総裁選に口出すなんて、空気が読めていない」 

 

 批判のターゲットになっているのは、元自民党参院幹事長の世耕弘成参院議員だ。 

 

 自民党の安倍派を中心とした政治資金パーティー収入を裏金にしていた事件で、世耕氏は1542万円を裏金にしており、4月に党から離党勧告の処分を受け、離党している。 

 

 だが、自民党総裁選の裏で、党員ではない世耕氏が動き回っていたという。 

 

■「高市氏でまとまろう」と世耕氏が伝言 

 

 総裁選も終盤になり、石破首相、高市氏、小泉進次郎前環境相の「3強」の争いという構図が固まりつつあったころのこと。 

 

「世耕さんが高市さんにまとめようとしている。そちらには電話はないか」 

 

 そんな内容の電話が安倍派の参院議員たちに伝わっていった。 

 

 世耕氏は参院党幹事長とともに、「清風会」という安倍派の参院議員のグループを率いてきた。清風会に所属していた参院議員の一人が語る。 

 

「離党後はさすがに影響力が落ちてしまった世耕氏ですが、総裁選で復活を図ろうとしたのか、清風会のメンバーをまとめて高市氏に票を集めようと動いていました。私にも、世耕氏から連絡を受けた議員から『高市氏でまとまろうと世耕氏が言っている』と伝言がきました。何人かの清風会の議員は、世耕氏と直接会って話をしたそうです」 

 

 そして、こうも続けた。 

 

「世耕氏は確かに安倍派の参院をまとめ、ボス的な人でした。しかし、自民党を離れざるを得ず、おまけに総裁選で自らは票を持っていないのに、なぜそこまで口出しするのかとムッとしたところもあります。一方で、安倍派をはじめ派閥がなくなったことで、情報がなくなり、どう動けばいいのかと不安になっている議員は、渡りに船と、ボスの世耕氏の呼びかけに応じていました」 

 

 

■安倍元首相の命日に議員らに呼びかけ 

 

 無所属となりながら、世耕氏は党内で影響力を保とうと動いてきた。 

 

 今年7月8日、安倍晋三元首相の命日に、安倍氏が亡くなった現場である奈良県の近鉄大和西大寺駅前に世耕氏の姿があった。すでに離党していたが、大勢の安倍派参院議員を引き連れて、横断歩道を渡って歩き、献花をするときも合掌するときも、常に立ち位置は真ん中。その姿はまさに “参院のドン”と言わんばかりだった。 

 

 近くの寺に場所を移しての法要後、世耕氏は報道陣に、 

「無所属ですから」 

 と言って現場を後にしたが、参加していた清風会の議員は、こう話していた。 

 

「世耕氏に『安倍元首相の法要をやるからこい』と誘われたら行くしかない。もちろん、安倍元首相の追悼の念がありました。離党した世耕氏が、なぜ清風会の会長然として呼びかけるのか疑問もありましたが、一方で、いくら自民党を離党して無所属といっても、あれほど権勢を誇った人ですから、いつ復活するのか、何をやるのかわからない。参加した議員は『一緒に行かないと怖い』とつぶやいていました。私も同じような怖さがあり、時間をやりくりして参加した」 

 

■衆院選・和歌山2区から出馬表明へ 

 

 世耕氏の高市氏への集票作戦は実を結ばなかった。それでも石破政権が誕生すると、世耕氏は次のステップに入った。 

 

 石破首相は自説を変えて衆院の早期解散を明言し、総選挙は10月27日投開票で実施される見込みになった。かねて参院から衆院への鞍替えを模索していた世耕氏は、無所属で和歌山2区から出馬する公算が大で、近く記者会見をする模様だ。 

 

 すでに自民党は和歌山2区で、政界引退する二階俊博元幹事長の三男、二階伸康氏の公認を決めている。世耕氏の出馬によって、保守分裂の激しい選挙となることは確実だ。 

 

■裏金議員なのに政治資金パーティーを開催 

 

 世耕氏は早期の解散総選挙を見越していたのか、裏金議員でありながら、今年6月と8月に相次いで政治資金パーティーを開催し、批判を浴びた。 

 

「いくら自民党をクビになったといえども、パーティーの裏金が事件になっているのに、短期間で2回もやるなんて異例のこと。その頃から、参院から衆院にくら替えするカネ集めだと思っていた。地元でも、ミニ集会を行い、支援者を口止めしながらも虎視眈々と狙っていた」 

 

 と語るのは和歌山県内の自民党県議。そして、こうも話す。 

 

「世耕氏が衆院にくら替えを決断した背景が、情勢調査でしょう。自民党がやった調査では、和歌山2区で世耕が7、伸康が3という世耕氏圧勝という数字でした。最近は世耕氏個人でも調査したらしく、そこでも勝てるという結果だったと聞きました。この選挙区は二階先生一家のもんじゃないという世襲批判もあります。もともと二階先生の圧勝が続いてきた選挙区ですから、保守分裂はしても、野党候補の台頭はまず考えられない。世耕氏と伸康氏の激しい争いになるでしょう」 

 

 一方、伸康氏に出馬要請をした和歌山県町村会の会長も務める岡本章・九度山町長は、世耕氏に手厳しい。 

 

「世耕氏は前の衆議院選挙でも二階先生の選挙区から出馬したがっていた。彼のくら替えの理由は首相になるためでしょう。和歌山や国を思ってではなく、個人のためです。そんなくら替えに大義はない。それに裏金事件でも秘書のせいにして、ぬくぬくと議員を続けている。本当は議員辞職でしょう」 

 

 自民党の政務調査役を長く務めた、政治評論家の田村重信氏は、 

 

「その昔、ロッキード事件で田中角栄元首相は逮捕され、自民党を離党して無所属ながらキングメーカー、闇将軍などともいわれた。ただ、田中氏と世耕氏ではあまりに格が違いすぎる。世耕氏の総裁選への口出しは、石破政権では自民党に戻れない、なんとか高市総裁を実現してきっかけをつかもうと思ったのか、焦りが感じられますね」 

 

 と言い、さらにこう話す。 

 

「世耕氏はずっと衆院くら替えを狙っており、石破政権で復帰の目も遠のいたので決断したのではないか。当然、二階元幹事長も黙っていないはずなので、和歌山2区は保守分裂で、とんでもない熾烈な選挙になるでしょう」 

 

 

■安倍派事務局長は法廷で世耕氏と食い違う説明 

 

 自民党の裏金事件では9月30日、安倍派の事務局長兼会計責任者の松本淳一郎被告に有罪判決が言い渡された。裏金事件の中心となった安倍派の責任を負う形で在宅起訴された松本事務局長は、世耕氏と同じNTTの出身で、政治の素人だったが、世耕氏から請われて19年に派閥の事務局長になった人物だ。 

 

 松本事務局長は自らの裁判の被告人質問で、いったんは中止となった派閥から議員へのキックバックを再開したことについて、 

 

「2022年8月の幹部会議で継続が決まった」 

 

 と述べ、波紋を呼んだ。政治倫理審査会や会見で世耕氏ら安倍派幹部は、 

 

「8月の会議では結論が出なかった」 

 

 と説明しており、明らかに食い違っていたためだ。 

 

 松本事務局長に出された判決文は、 

 

〈(松本被告は)収支報告書の虚偽記載の前提となるノルマ超過分の処理について清和研会長や幹部らの判断に従わざるを得ない立場にあり、権限には限界があったことは否定できない〉 

 

 と世耕氏ら安倍派幹部の責任にも言及した。 

 

 世耕氏にはまず、裏金事件の真相をきちんと説明することが求められている。 

 

(AERA dot.編集部・今西憲之) 

 

今西憲之 

 

 

 
 

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