( 218566 )  2024/10/04 16:35:32  
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アクセルを抜いて減速するこの動き(動作)は、よくエンジンブレーキと言われる。しかし、ハイブリッド車やEVによる回生ブレーキではないと、エンジンブレーキ使用時にブレーキランプが光らないので、このことが一部で問題視されているという。 

 

 インターネットはeコマースのようなビジネスを拡大しただけなく、人間同士のコミュニケーションも拡大している。とくにSNS上では、さまざまなテーマについて個々人の意見が表明され、多くの議論が巻き起こっている。 

 

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 そうしたなかで、最近クルマ界隈で話題になっているのが「ステルスブレーキ」というものだ。いわゆるバズワードであり、誰がいい出したのか、何を指しているいるのか明らかでない部分もあるが、大筋としては「ブレーキランプが点かないのにクルマが減速している状態」についての批判的な見方から生まれた言葉といえる。 

 

 運転免許をもっていなかったり運転経験が浅かったりすると、「クルマの減速=ブレーキランプ点灯」と思っているのも不思議ではない。だとすると、ブレーキランプが点かない減速について、なにか裏ワザを使っているのではないかと思うのかもしれないし、そうした行為について「マナー違反だ!」と憤りを覚えるのも理解できなくはない。しかし、残念ながら、クルマというのはずいぶん前からブレーキランプが点かずに減速することもある構造になっている。 

 

 ご存じのように、クルマはアクセルペダルの踏む加減によって加速や速度維持をコントロールして運転するものだ。当然ながら、アクセルペダルから足を浮かせてアクセルオフの状態にすると速度を維持できなくなる。このとき、ブレーキペダルを踏んでいなければ、ブレーキランプは点灯しないが、アクセルオフなのでクルマは減速する。まさに「ステルスブレーキ」と指摘される状態である。 

 

 ただし、こうした挙動については、すでに専門用語が存在する。エンジン車においては「エンジンブレーキ」といい、ハイブリッドカーやEVのような電動車では「回生ブレーキ」と呼ばれるのが、アクセルオフで減速する現象を指している。 

 

 減速エネルギーでバッテリーを充電する「回生ブレーキ」においては、利き具合を電子制御できるため、アクセルオフでの減速度合いを切り替える機能を有する車種も存在している。そうした車両では、アクセルオフだけでかなりの減速が可能になっていることもあるが、保安基準により「減速度が1.3m/S2を超える場合はブレーキランプを点灯させる」ことが定められ、2014年1月30日以降に型式指定を受けたクルマに適用されている。 

 

 ステルスブレーキを主張するクラスタからは「ものすごい減速なのにブレーキランプが点いていなかった」という指摘もあるが、古いハイブリッドカーならまだしも、昨今のモデルであれば保安基準で定められた減速G以上であればブレーキランプは点灯しているはずだ。 

 

 

 一方、エンジンブレーキについてはステルスブレーキ以外の批判もある。エンジンブレーキの強弱は変速比によって変わり、たとえば8速ATであれば8速より6速、4速より2速といった風に、低いギヤを選ぶほどエンジンブレーキは強くなる。同じ速度であれば、ギヤが低くなるほどエンジン回転は上がってしまう。そのため、「エンジンブレーキを多用するとエンジン回転が高まるので燃費に悪影響を及ぼす」といった声もあるようだ。 

 

 クルマ好きでも「アイドリング近辺で太いトルクを発揮する」といった表現をすることがあるなど、エンジン性能は回転数と密接に関係していると誤解しがちだが、たとえエンジンがレブリミット(許容回転上限)の近くでまわっていたとしてもアクセルペダルの開け具合で燃料噴射量は決まってくるものだ。 

 

 仮に1000rpmで最大トルクを発揮できるエンジンであっても、その回転数でアクセルを全開にしていなければスペックシートの性能は発揮していない。エンジンブレーキについても、低いギヤを選んで回転数が上がっていても、アクセルオフであれば基本的には燃料噴射はゼロとなるので、燃費への悪影響は考えづらい。 

 

 クルマ好きには釈迦に説法だろうが、エンジンブレーキで減速するのはポンピングロスが影響している。ポンピングロスとはエンジンが空気を吸い込むときに発生する抵抗のこと。アクセルオフであってもエンジンがまわっている限りは、バルブもピストンも動いている。注射器の口をふさいで、ブランジャーを手で引っ張る状態を想像してみればわかるように、アクセルオフで口の大部分を塞いだ状態というのは抵抗の塊になる。これがエンジンブレーキによる減速を生み出すのだ。 

 

 MT車でレブリミットを超えるほどの回転数になるようなギヤを選ばない限り、エンジンブレーキを使ったからといってエンジンが壊れることもないし、上手に利用すれば燃費には好影響となる。 

 

 さらにいえば、エンジンブレーキや回生ブレーキを積極的に使うべきシチュエーションもある。下り坂が長く続くような道では「エンジンブレーキ使用!」といった看板が出ていることもあるが、これはフットブレーキ(機械式ブレーキ)を使い過ぎると熱をもって利きが悪くなるのを防ぐための注意喚起だ。 

 

 こうした場合において、MTであれば2~3速の低いギヤを選び、ATではSやLといったレンジを選んで、エンジンブレーキを使うのはマナー違反ではない。むしろ、ブレーキランプを点けっぱなしで下っているクルマのほうが、周囲の精神衛生にはマイナスといえるかもしれない。 

 

 いずれにしても、安全のためにエンジンブレーキや回生ブレーキは積極的に活用すべきというのがリアルな運転ワールドといえるのではないだろうか。 

 

山本晋也 

 

 

 
 

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