( 218581 ) 2024/10/04 16:52:35 0 00 (ブルームバーグ): 1日に就任した石破茂首相は、着任早々日本銀行の金融政策について立場を翻し波紋を呼んでいる。
日銀の利上げを容認・支持しているとみられていた石破首相が2日、植田和男日銀総裁との会談後に「追加利上げをする環境にあるとは思っていない」と発言し、円相場は2%以上急落した。
これに先立ち、石破氏が自民党総裁選に勝利した翌営業日9月30日の株式相場は、逆に利上げと円高に対する警戒感から大幅に下落。岸田文雄前首相が就任した2021年10月、同氏が掲げる金融所得課税への警戒感から株価が下落した「岸田ショック」をほうふつさせ、「石破ショック」との声も挙がっている。
当時の岸田首相は、株価の下落や経済界の反発を受けて金融所得課税を就任わずか1週間で撤回、企業に賃上げを促しインフレと所得増の好循環を目指す方向にかじを切った。さらに少額投資非課税制度(NISA)を抜本的に拡充し、貯蓄から投資を促す資産運用立国を目指し、評価された。
結果的に株価は在任中に最高値を更新。石破首相が前首相のように、総裁選時の公約に執着せず柔軟な政策運営をするのか、投資家は固唾(かたず)をのんで見守っている。
岸田政権の置き土産の中で市場関係者が特に注視しているのは、日銀の金融政策、資産運用立国、コーポレートガバナンス(企業統治)改革の三つだ。
日銀の金融政策
日銀は黒田東彦前総裁の下、「異次元の金融緩和」をスローガンに前例のない大規模な緩和を行った。世界の主要中銀がコロナ禍に実施した大規模な金融緩和策をそろって縮小する中でも、黒田日銀は一貫して金融緩和を維持し、大規模緩和からの出口政策という難しい宿題が後任の総裁に残された。
岸田前首相からその任務を託された植田総裁は就任から1年半の間に、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)を終了し、マイナス金利政策も解除した。7月には追加利上げと国債買い入れ額の縮小に踏み込んだ。
「金利をマイナスからプラス圏に引き上げるには非常に微妙なさじ加減が必要で、もっとイデオロジカルな総裁が選ばれていればはるかに危険なことになっていただろう」とジュピター・アセット・マネジメントの日本株マネジャー、ダニエル・カーター氏は語る。植田氏を選んだことは「世間で十分に認識されていない」隠れた岸田前首相の功績だと同氏は指摘する。
「軍事オタク」を自認し、経済政策には疎いとみられる石破首相は、日銀の金融政策にはあまり口を出さないとの見方も多かった。しかし、2日には「個人的な意見」と断りながらも、追加利上げの環境にはないという首相としては異例の踏み込んだ発言をした。
資産運用立国
金融市場関係者の間では、岸田政権の最大の功績はNISAを拡充して貯蓄から投資へと個人マネーのシフトを促したことだとの見方が多い。
金融庁によると、新NISAが始まった1月以降の半年間で、大方の予想を上回る10兆1341億円もの投資がNISAを通じて行われた。このうち3兆6594億円が上場株式に回り、株式相場を支えている。ピクテ・ジャパンの大槻奈那シニア・フェローは、年後半も7兆-8兆円程度の投資が継続し、株式へも数兆円が流入すると読む。
日本証券業協会の大手証券へのヒアリングに基づく調査によると、8月の急落局面でもNISA経由の個人は株を買い越していた。
日銀の調査では、6月末時点の日本の個人金融資産2212兆円のうち現預金が51%を占める。直近の株価上昇もあって株式の比率は若干上昇したものの、拡大余地はまだ十分ある。石破首相も「岸田政権の資産運用立国の政策を発展させる」と表明しており、今後の政策が注目される。
コーポレートガバナンス改革
近年、東京証券取引所は上場企業に対しガバナンス強化や株価向上への取り組みを促してきた。海外投資家もこの取り組みを高く評価し、株価上昇につながった。
とりわけ資本コストや株価を意識した経営に向けた対応策を発表した企業のリストを東証が開示し始めたことは、企業への大きな圧力となり、投資家との対話を増やすきっかけともなった。
東証の一連の対応は岸田政権独自の政策とは言い難いものの、資産運用立国を通じて富の増大を目指すという政権の大きな政策の方向性と合致した。
前政権の教訓生かせるか
石破首相がどこまで岸田前政権の政策を継承するかはまだ未知数だ。ただ、出だしから市場の洗礼を受けた石破首相が、市場の動揺を避けるには何をするべきかを前政権から学ぶだろうとの声もある。
ソニーフィナンシャルグループの渡辺浩志金融市場調査部長は、石破首相が総裁選で法人税引き上げに前向きな発言をしたことに触れて、所得の再分配政策だけでは限界があり経済成長を目指す政策が重要だと指摘。「石破首相は分配志向が少し強く見えるが、岸田前首相を見習い成長と分配のバランスを取らないと、株式市場が拒否反応を示すだろう」と語った。
(c)2024 Bloomberg L.P.
Hideyuki Sano, Aya Wagatsuma
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