( 218626 ) 2024/10/04 17:28:11 0 00 残業は基準やルールが明示されないのが辛く、暗黙のままダラダラやると、精神的にもしんどい。基準がないから「試されてるのかな」と裏読みしてしまう若い世代も(写真:8x10/PIXTA)
若者と接する場面では、「なぜそんな行動をとるのか」「なぜそんな受け取り方をするのか」など理解しがたいことが多々起きる。 企業組織を研究する東京大学の舟津昌平氏は、新刊『Z世代化する社会』の中で、それは単に若者が悪いとかおかしいという問題ではなく、もっと違う原因――たとえば入社までを過ごす学校の在り方、就活や会社をはじめとするビジネスの在り方、そして社会の在り方が影響した結果であると主張する。
残業の「過多」だけではない。残業がしんどくなる理由
本記事では、前回、前々回に続いて著者の舟津昌平氏がZ世代の新卒社会人3名に対して、世で語られるZ世代像へのリアルな意見を聞いていく(3名は仮名、敬称略)。
■「Z世代はすぐに転職する」という言説にどう思うか
舟津:「Z世代はすぐに転職する」と言われることがありますよね。働き始めて半年ほどのみなさんに伺うのははばかられるところもありますが、転職については率直にどうお考えですか。
木下:私は学生のときは、簡単に転職を考えることはないだろうって思っていました。でも、いざ働き始めたら、やってみないとわからないことばかりなので、転職についてもやってもないのに否定するのはよくないなと思い始めています。逆に今は、転職は全然アリだなと。
舟津:1年足らずで考え方が180度変わるのは面白いですね。実際に働いてみないと、そこはわからないものだったと。崎山さんはいかがですか。
崎山:転職自体はいいと思っています。ただ、勤務してから1年以内の転職はよくないなとも思っています。それこそ、逃げ癖がついてしまう。雇われている以上、自分が好きな仕事だけで働けるわけではないと思っているので、そこは我慢かなと思っています。
舟津:転職するにしても、今の職場でやれることってまだまだありますからね。崎山さんの基準としては、1年以内は転職しないとマイルールを持っているんだと。田川さんはどう思っていますか。
田川:僕も転職は好意的に捉えています。与えられた大事な選択肢の1つですし、それは学生の頃から思っていました。今の会社にも納得して入ってはいますが、一生は勤め上げないだろうなという気持ちで入っています。きっとどこかで転職するんじゃないでしょうか。
舟津:なるほどね。みなさん、転職には前向きということですが、会社への愛着や貢献意識を持っている、あるいは今後持てるということはありますか。
崎山:愛着はあるにはあります。ただ、一生今の会社に身を捧げるイメージはありません。あるとしたら、せっかく雇ってもらった、採用してもらったという意識はあるので、そこへの恩返しをできたらいいなっていう気持ちはありますね。
舟津:採ってもらったことへの恩は返したいんだと。
いや、なぜこんなことを聞いたのかというと、このまま会社が終身雇用を放棄して転職が奨励されるようになれば、会社と個人の関係って、限りなく「取引関係」になっていくんですよね。だとすると、働く場所への愛着や貢献意識って持てるのかなって思いまして。
私の認識としては、組織とかコミュニティに愛着を持つ人が段々減っている、あるいは持たないほうが賢いと考えてる人が増えているような気もするんですね。気がするだけですが。そういう中で、会社や組織ができることってあるのか、組織論の研究者としては考えたくなるのですが、みなさんは今の職場に求めることってありますか。
■残業が当たり前の雰囲気がしんどい
木下:私は残業が当たり前の雰囲気を変えてほしいですね(笑)。会社としては、OJT期間に残業はないということになってるらしいんですけど、私の部署はすでに残業が多くて、帰れるタイミングがわからないんです。19時半を過ぎたあたりから、「これ、いつ帰れるの?」って変な汗まで出始めちゃって。だから、ダラダラ残業するっていうと言葉は適切ではないかもしれませんけど、やれるとこまで働くみたいな雰囲気は本当にしんどいので、変えてほしいです。
舟津:もちろん、木下さんの職場がどういうものかまったく知らない中で口を挟むと、おそらくその人たちにとっては当たり前すぎて気づかないんでしょうね。木下さんに対してすごく気を遣っているつもりでも、残業については無自覚だから、木下さんが早く帰りたがっているとは思ってすらいないのかもしれない。
田川:僕も全く同じ意見です。僕も今OJT中ですので、「もう帰っていいよ」って言われないと帰りにくい状況です。18時が定時なんですけど、みなさん微動だにしないので、僕から「定時ですよ」って言いたいくらいで。部長がたまに早く帰ることがあるんですが、その日が金曜日なのに「明日やるから今日は早く帰るわ」って言うんですね。土曜日に働くんだって思って。なので、やっぱり残業とか区切りをきっちり示してほしいです。
■ルールがないことのしんどさ
舟津:残業って、する・しないの話になりがちですけど、もちろん0か1ではないので、基準やルールが明示されないのも辛いんですよね。「うちは定時で帰るやつはダメだ」とか「みんな19時半まで働こうぜ」って明確に言うならまだ交渉の余地があるかもしれませんが、それを言わずに暗黙のままダラダラやると、精神的にもしんどいでしょうね。
木下:やっぱり、終わりが見えないのがきついですね。
田川:立場としては、言われないと動きづらいです。そこも「試されてるのかな」って裏読みしちゃいますね。
舟津:ああ、基準がないから、変に裏を考えてしまうというのもポイントですね。考え出すと際限がないですから。ただ、上司にとっても指示を出すのが怖い部分もあるんでしょうね。そもそもみなさんに喋りかけること自体にびびってる節もありますし、労働時間ってセンシティブなものだから、直接明言したり、ルールを作るのが怖くて、なおのこと言えないのかもしれない。ただ、言えないことがまた不信感を生んでしまうんですけどね。崎山さんは、どうですか。
崎山:僕はお金ですね。業務に関しては特に不満はないので、趣味の海外旅行のために、お金を稼ぎたいです。
舟津:なるほど、賃上げ要求。それは非常に真っ当です。日本企業って、財務指標はここ15年くらいけっこう良くなってるのに、人に還元しない傾向はずっと続いていて、賃上げも後回しになってしまっていますからね。
■Z世代として社会に求めること
舟津:では最後に、別の座談会で他のZ世代の方にも伺ったことなんですが、みなさん社会に対して求めることってありますか。本当に自由に答えてもらって構いませんので、個人的なことでも世代を代表しての意見でも大丈夫です。
田川:僕は、水曜日を休みにしてほしいです。
舟津:もっと休んでいいんじゃないかと。でも、提言としてそれは面白いですね。水曜日を休みにしても社会が回るのか試したの? っていう。
木下:水曜日休みだったら、「前日休んだから」と「明日は休みだから」がずっと続きますもんね。
舟津:たしかに、うまくできてますね。なかなかキャッチーな提言です。
田川:逆にそういうキャッチーなのしか出てこないですね。おそらく、リアルに満足して困っていないからかもしれません。
舟津:その前置きも大事ですね。つまり、今はわりと満足して暮らせているから、社会に求めることもたいしてないけど、しいて言うなら休み増えたっていいんじゃない? と。面白い答え方です。崎山さんは、何かありますか。
崎山:僕は、政治の裏金問題への真っ当な処分ですかね(皆、笑)。やっぱり働き始めて、給料から税金とか社会保険料でがっつり引かれていることを知ったので、ちゃんと納めてほしいと思いますし、税金は正しく使ってほしいです。
舟津:たしかに、社会人になってから税金を納めてる実感って、すごく大きいですよね。給料から相当引かれてるけど、これは何に使われているんだと。それはZ世代、若者だからストレートに言えることかもしれませんね。
少し抽象的な話に昇華させると、「黙ってやり過ごす」ということが問題を乗り切る対処法として広まるのは、とても危険です。大学でも、卒論やレポートを何も言わずに期限を過ぎて出す学生たちがいますが、「政治家やオトナはそれで逃げ切れてるじゃん」と、大人を真似しているだけかもしれない。さっきの残業の話も、暗黙でやり過ごそうとする慣習の1つですね。だからこそ、若者や周りは見ているぞって伝えるのは絶対に大事なことですね。木下さんはいかがですか。
木下:政治の話を聞いて1つ思ったのは、私は今、(関東某所)に住んでいて、めちゃくちゃ治安が悪いんですよ。ニュースにもなっていますが、夜中は野外でドンチャン騒ぎだし、駅前では声をかけられることもあってすごく怖いんですよね。どうにかならないかなって思っています。
■逃げ切った人が多数派の世の中で必要な態度
舟津:リアルですね。今まさに時事問題になっていますが、実際に住んでいる立場としても、やっぱり困っているんだと。
社会に求めることを聞いてみてよかったなって思うのは、ある意味若者だから話せることがあるからなんですよね。それこそ、(某所)の問題は、安全圏に住んで逃げ切っている人たちには絶対にわからない問題になっている。
今は都内の住居費ってすごく高騰していて、私の知り合いでも早い段階でマンションを買っている人は、同じ価格でも都内の結構いいところを買えたんですよね。でも、今から買おうとしている人の中には、「その価格じゃ今は相当の郊外しか買えないです」という人もいる。つまり、すでに住むところに悩まない「アガリ」の人がいる一方で、若い人や子育て世帯は、住む場所を選べなくなっていて、制約が大きい。だからこそ、多文化の問題や治安の問題を真面目に考えようというのが、若い人からリアルなものとして出てくるって、すごく意味があると思います。
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