( 218839 ) 2024/10/05 14:35:09 1 00 2050年には日本で3人に1人が子どもを持たないと言われる中、子どもがいない女性たちの支援を行う「マダネプロジェクト」の主宰者くどうみやこさんに取材が行われた。 |
( 218841 ) 2024/10/05 14:35:09 0 00 写真はイメージです Photo:PIXTA
世界の先陣を切って少子化が進む日本。2050年には3人に1人が子どもを持たない時代になるという推計もあり「異次元の少子化対策」として、子育て支援や両立支援が進む。しかし「人は結婚して子どもを持つもの」という思考の裏で、そうではない生き方をする人が息苦しさを抱えていることもある。連載『「子どものいない人生」私の選択』の第2回では、子どもがいない女性たちの交流の場を主宰するくどうみやこさんに話を聞いた。(取材・文/フリーライター 柳本 操)
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● 子宮の病気を患い 子どもを産めない現実に直面
「子どもがいない女性の中には、苦しさを表現できないまま孤立している人もいる。彼女たちが誰にも気兼ねすることなく素直に気持ちを吐き出せる安全な場所をつくりたい」
こう語るのは、子どもがいない女性を応援する活動を行う「マダネ プロジェクト」主宰のくどうみやこさん。くどうさんもまた、子どもを持たない女性だ。
企業での広告・宣伝の仕事を経て、31歳で結婚し退職。フリーランスでインターネットメディアを立ち上げた。頭ではいつか子どもが欲しいと思いながらも仕事中心の生活を送り、自然妊娠をすることもなかった。子どものことが気になりつつも、出産問題は先送りにしていた。
毎年受けていた健康診断で、42歳の時に子宮の疾患が見つかった。「子どもを産むことは断念するしかない」と医師に告げられ、子どものいない人生が確定した。自分で産むことがかなわないという現実に直面し「もっと早く子供を持つことを真剣に考えればよかった」と悔やんだ。
女性にとって「産まない」と「産めない」では、気持ちの上で大きな落差があることを知る。道端で赤ちゃんや小さな子どもに会うと、以前はほほ笑みかけていたのに目をそらすようになった。知り合いの子どもの成長を目にするSNSからも距離を置くようになった。
「それでも、私の場合は病気で命に関わる可能性があると言われ、生きているだけで幸せだと思えたこと、また、マーケットをリサーチするという職業柄、自分のことを比較的客観視できたことが、気持ちの切り替えに役立ったのかもしれません」(くどうさん)
当時、子どもを持たない女性の生き方は取り沙汰されておらず、この先どのように生きていこうか、と考えたくどうさんは、子どものいない女性が自分らしく人生を歩んでいける場づくりを思い立ち、2012年に「マダネ プロジェクト」を立ち上げた。
マダネ(madane)とは、マドモアゼルほど若くなく、マダムほど落ち着いていないミドル世代に対して名付けた総称だ。
● 山口智子さんの言葉がきっかけで 2016年が「子なし元年」に
プロジェクトへの参加資格は、年齢、既婚・未婚、子どもがいない理由は問わないが、基本的に子どもがいない人生が決まった女性。
不妊治療をしたが授からなかった、病気など体の問題があった、タイミングを逃した、パートナーが欲しがらなかった、経済的に難しかった、ただ欲しくなかった――など、さまざまな人が互いの価値観を尊重できる場とした。
15年4月に第1回の「子どもがいない女性の会」を東京都内で開催した。翌年には雑誌『FRAU』(講談社)で女優・山口智子さんが「私はずっと、『親』というものになりたくないと思って育ちました。私は、『子どものいる人生』とは違う人生を歩みたいなと」とインタビューで発言し、子どもを持たない女性の生き方に対する社会の関心が高まったことから、くどうさんは16年を「子なし元年」と呼んでいる。
マダネ プロジェクトが全ての参加者の安全基地であるために、交流会で決め事として共有しているのは、「相手の考えや価値観を否定しない」「主観的なアドバイスはしない」「でも、自分の経験は話してもいい」ということ。参加する人の100%が個人参加ということからも、身近な友人や夫にさえつらい気持ちを言えないという人がたくさんいることが見えてきた。
子どもを望んでいた人が子どもを諦めるということは、喪失体験であり、心の整理をつけて再び歩み出すのは簡単ではない。
「中にはうつ状態になったり、10年以上苦しんだりしたという人もいます。それでも子どもがいないという共通項がある人たちの中だからこそ、安心して気持ちを吐き出せた、という声が多いです」
20年のコロナ禍以降はオンライン交流会「つながるオンライン」を開始。交流会には、これまでのべ500人以上、20~80代(中心世代は40代)の女性たちが参加している。
● 職場で嫌な思いをしても言わない 理由は「言っても変わらないから」
マダネ プロジェクトでは当事者にさまざまな意識調査やヒアリングを実施。前回、岸田政権の「異次元の少子化対策」が進む陰で、職場で起こっている「しわ寄せ」について言及したが、そんな女性たちの存在を浮き彫りにするデータがある(図1)。
「私たちが行った意識調査では、子どもがいないことで職場で嫌な思いをした経験がある人は75.2%を占めていました。一方で、職場に意見や不満を伝えた人はわずか9.9%でした」(くどうさん)
具体的に「嫌な思いをした」事柄として、「子どもがいない人への偏見」「仕事のしわ寄せ」「子なしハラスメント」「職場での疎外感」「子どもがいる人の優遇」などがあった。
それらによって「仕事へのモチベーションや生産性が下がった」人は55.0%と半数を占める。しかし、職場に意見や不満を伝えたことがない人が83.7%と大多数で、その理由は「言っても変わらないと思うから」(52.4%)、「子育てに理解がない人と思われるから」(44.9%)、「タブー感があるから」(44.3%)など、半ば諦めの気持ちを抱えていることが分かる。一方で「子育てと仕事の両立は大変だから」という回答もも34.6%あった。
図1 子どもがいないことで職場で嫌な思いを経験するが、不満は表明していない
子どものいない働く女性202人(平均年齢42.9歳)を対象に行った意識調査より。子どもがいないことで職場で嫌な思いをした経験者は75.2%。意見や不満を職場に伝えたことがない人は83.7%と多数だった 出所:「子どもの有無による働き方の意識調査(マダネプロジェクト2020)」
● 「悪気はなくても傷つく」 子どもがいる人から言われた言葉
「子なしハラスメント」という言葉から、自分も知らずに加害者になっているのではとドキッとする人もいるかもしれない。くどうさんは、マダネ プロジェクト参加者へのヒアリングから「子どもがいる人から言われて傷ついた言葉」を4つのカテゴリーで挙げる。
・産んでいない人には分からない(子育てもしたことがないくせに、親でない人には親の気持ちは分からない) ・子どもは産んだ方がいい(子どもはいた方がいいよ、早く産まないと産めなくなるよ、女性は産んでこそ一人前、子育てしないと大人として未熟) ・子どもがいないと自由で気楽(時間があってうらやましい、お金が貯まるでしょ、自分のことだけ考えていればいいから楽だね、子どもがいない人は税金を多く払うべき) ・子どもがいないことへの哀れみ(いなくてかわいそう、将来寂しくなるよ、残念だね)
言い方は違うが「似たようなニュアンスで言葉をかけたことがある」と思い当たる人も少なくないのではないだろうか。特に祖父母や親世代はよかれと思って言うこともあるだろう。「こちらには悪気はない」「そんなことで傷ついたと言われても」という意見もあるはずだ。
しかし、言葉単独ではたいしたことにはみえなくても、子どもを持たない人は、いろいろな人からいろいろなパターンで、それらの言葉や態度にさらされている。
弱いパンチを繰り返し受け続け、ある時「どうしてそんなことを言うんですか!」と抗議したとして、言った側はなにげない言葉に対して突然怒りを表明された、と面食らうかもしれない。この両者の認識のギャップが存在する限り「黙っている方が、さらに傷つけられることはないはず」と沈黙を選ぶ。
このような思考が「不満を伝えたことがない」人が83.7%、という数字に表れているといえるのではないか。
もちろん、言葉に対する受け止め方は人それぞれで「全く気にならない」「なんとも思わない」という女性もいることは、付け加えておきたい。
● 「触れてはいけない話題」から 10年の時を経て……
くどうさんがマダネ プロジェクトの活動を始めた10年前は、子どものいない人は「仕事が命のバリキャリ」というイメージが強く、活動に対して「子どものいない人は苦労がないのだから支援する必要などない」という否定的な意見を受けることもあった。また、子どもがいないということについて「触れてはいけない話題」というムードも感じていた。
しかし、今ではごく普通に人生を送りながら、子どもを持たない生き方をする女性が大勢いることを参加者は知ることができる。
シングルや事実婚の参加者も増えた。交流会を始めた当初は「不妊治療の結果、諦めた人」「もともと子どもを望まなかった人」などグループを細分化してほしい、という声もあったが、「さまざまな背景を互いに共有してこそ、視野を広げられる」という姿勢を貫いた結果、参加者からも「この場は多様性が感じられていい」といわれるようになった。
直面する課題も生き方もさまざまであることを実感し「前半は涙していても後半は笑いに包まれて終わる」という交流会になることが多いという。
家族そのもののカタチも大きく変わってきている。 「子なし」「子持ち」といった対立構造で捉えるだけでは、世界を狭めてしまう一方だ。子どもを持っていようがいまいが、それぞれが安心して生活できる社会が保証されるべきだろう。
本連載では、悩み苦しんだ末に「子どものいない人生」を選んだ女性たちに直接話を聞いた。
第3回では、「4.4組に1組のカップルが不妊に悩む」という状況の中、40代になってから不妊治療を始めたかおりさん。職場では治療について公表することができず、なかなか治療を終えることができなかった苦悩を語る。
第4回では、家庭環境の影響から「子どもは欲しくない」という気持ちに幼いころから悩んできたケイコさん。30代以降「欲しい」と「欲しくない」の両極で揺らぎ、自分を見つめ直したプロセスを明かす。
第5回では、家族の介護を経てめいの子育てをし、結果的に子どもを持たない人生となったじゅんこさんとその夫のRさんに話を聞く。
3人の女性の物語をたどりながら、時代や社会という大きい文脈も踏まえ、その人らしい生き方について改めて見つめ直してみたい。
柳本 操
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