( 219686 )  2024/10/07 17:13:12  
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(写真:© 2024 Bloomberg Finance LP) 

 

 石破茂首相が4日午後の衆参両院本会議で行った就任後初の所信表明演説を巡り、野党だけでなく国民からも「手のひら返し」「嘘つき」などの厳しい反発・批判が巻き起こっている。直前の総裁選で力説していた「国民に十分な判断材料をお示ししてから」という衆院解散を、「実質審議抜きで、過去最速での断行」を決断しただけでなく、専門家を自認する安保防衛政策でも、日米地位協定見直しなどの持論を引っ込めるなど「“変節”ばかりが際立った」(立憲民主幹部)からだ。 

 

【写真】石破首相。内閣支持率は「発足時としては過去最低レベル」 

 

 加えて岸田文雄前首相が突然の退陣表明の際、「自ら身を処す」とした「巨額裏金事件」への対応でも、石破首相は旧安倍派を中心としたいわゆる“裏金議員”について、「地方県連の判断を重視する」ことを理由に、ほぼ全員公認という“大甘対応”とする方向だった(その後、6日に①一部非公認②大半に比例重複立候補を認めないーーに方針転換)。これも踏まえ、石破首相自身も政権発足後の各党あいさつ回りで、極めて親しい関係だった野党幹部に「本音を出すと国民は喜ぶが党内は怒る」と苦笑交じりで打ち明けるなど、「自説より党内の意見を優先する態度」(側近)を際立たせた。 

 

 そうした状況も踏まえた上で、与野党は、10月7日に衆院、翌8日に参院でそれぞれ各党代表質問、続いて臨時国会会期末となる9日には党首討論を実施し、同日夕の衆院本会議で解散という日程で「大筋合意」(自民国対)したとみられている。 

 

 これにより、表向きは自民党の思惑通りの「解散日程」となったが、「所信表明演説も含めた一連の石破首相の“不誠実な変身”」(政治ジャーナリスト)もあってか、大手メディアが一斉に実施した世論調査での内閣支持率も「発足時としては過去最低レベル」(アナリスト)に。 

 

 さらに、「10・27衆院選」の各種事前情勢調査でも「自民苦戦」との予想が大半を占めているため、党内の“反石破勢力”は、「自民が単独過半数を割れば、早期退陣もあり得る」(閣僚経験者)と早くも“石破おろし”に蠢き始めているのが実態だ。 

 

■「石破演説」に野次と怒号が飛び交う 

 

 1日夜の石破新政権発足を受けて4日午後の衆院本会議で行われた石破首相の所信表明演説に対しては、野党側からは「嘘つき」「約束を守れ」などの野次と怒号が飛び交い、傍聴席では「演説がよく聞き取れない」との声が広がるなど、「新首相の所信表明としては極めて異例の事態」(自民長老)となった。 

 

 

 石破首相が就任会見で、ブランドのロゴがレンズに入っていたため、ネット上で“イシバノメガネ”と話題になった黒枠のメガネを光らせながら行った「石破演説」の冒頭で「全身全霊を捧げ、日本と日本の未来を守り抜いてまいります」と声を張り上げた途端、議場には野党席からの「約束を守れ、約束を!」との大声が響き渡った。続いて石破首相が「政治資金問題などをめぐり、国民の政治不信を招いた事態について、深い反省とともに触れねばなりません」と切り出すと、すかさず「じゃあなんで裏金議員公認するんだ!」との野次も。 

 

 石破首相はなおめげずに、総裁選でも掲げてきた「5つの守る」を中心に演説を展開。その中でライフワークの「安全保障」だけでなく、“苦手”とされる「経済」でも「『賃上げと投資が牽引する成長型経済』を実現しつつ、財政状況の改善を進め、力強く発展する、危機に強靱な経済・財政を作っていく」「物価上昇を上回る賃金上昇を定着させなければならない」などと訴え、2020年代には、最低賃金を全国平均で1500円とすることを目標に努力を続けると決意を表明した。 

 

 ただ、「経済を語る際はほとんど演説書の棒読みに終始したことで自信のなさも浮き彫りになった」(政治ジャーナリスト)ことも否定できない。 

 

■「まれに見るスカスカの所信表明」と立憲・野田代表 

 

 こうした石破演説について、議場でやじり続けた野党側からは、元首相の野田佳彦立憲民主党代表が「近年まれに見るスカスカの所信表明。総裁選挙の時には極めて具体的に熱っぽく語っていたことが全然入っていない。国民に信を問うとするならば何を問うのか」と酷評。“自民寄り”ともみられてきた玉木雄一郎・国民民主党代表も「何がやりたいのか全くわからない」と厳しく突き放した。 

 

 今回の「石破演説」は、およそ9500字で、2012年に自民党が政権を奪還して以降では最も長くなったとされる。草稿を練った官邸筋は、「石破総理がこれまでの政治活動の中で大切にしてきた言葉や思いをできる限り盛り込んだ」と説明。その中で、石破首相が閣僚として手がけた地方創生については、「地方こそ成長の主役で、地方創生2.0として再起動させる」と表明し、政府に「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間で取り組む基本構想を策定する方針をアピール。 

 

 

 また外交安保では、「現実的な国益を踏まえた外交」を進める立場から「日米同盟の抑止・対処力を強化する」と明言。対中外交については「戦略的互恵関係の推進」を掲げる一方、中国の東・南シナ海への進出には強い懸念を表明し、9月の日本人男児襲撃事件については「断じて看過しがたい」と厳しく非難した。 

 

 併せて、来年国交正常化60周年を迎える韓国とは、アメリカを含め緊密な連携を図る考えを強調。自衛官の処遇改善に向け、自身をトップとする関係閣僚会議の立ち上げを表明した。その一方で、自民党総裁選で掲げたアジア版北大西洋条約機構(NATO)創設や、日米地位協定の改定にはあえて言及しなかった。また、自民党が党是とする憲法改正については、首相在任中の国会発議に触れ、「議論を積極的に深めてほしい」と衆参両院憲法審査会での論議促進を呼び掛けた。 

 

 そして、自らの政治信条を盛り込むいわゆる「結び」では、「納得と共感の政治」と題し「私は、議員になる1年前の昭和60(1985)年、渡辺美智雄代議士の、『政治家の仕事は勇気と真心を持って真実を語ることだ』との言葉に大きな感銘を受けた」と思い入れたっぷりに語り出し「爾来(じらい)40年、こうありたいと思い続け、今、この壇上に立っている。政治を信じていただいている国民の皆さまが、決して多くないことを私は承知しているが、政治は国民を信じているのか。『どうせわかってはもらえない、そのうち忘れてしまうだろう』などと思ってはいないか」と自省。 

 

 その上で石破首相は、「国民を信じない政治が、国民に信じていただけるわけがない。勇気と真心を持って真実を語り、国民の皆さまの納得と共感を得られる政治を実践することで、政治に対する信頼を取り戻し、日本の未来を守り抜く決意だ」と切々と訴えた。ただ、この「結び」に対しても、野党の野次は一段と激化、「自民党席からの拍手はほぼかき消されるような異様な幕切れ」(自民長老)となった。 

 

■「自公過半数割れ」なら政局大混乱も 

 

 

 そこで今後の政治日程をみると、石破首相は9日の解散断行の翌日、ラオスで11日まで開催されるASEAN関連首脳会議に出席。さらに週末以降の連休中には恒例の日本記者クラブ主催の党首討論会をこなして、15日の衆院選公示に臨む。当然、その後は重点選挙区を中心に全国を駆け回って支持を訴え、27日の投開票日を迎えることになる。さらに、11月上旬の召集が見込まれる次期特別国会で改めて首相指名を受け、第2次石破政権を発足させるとの段取りが想定されている。 

 

 ただ、「この段取りは、衆院選結果が『自公両党で過半数獲得』(追加公認も含む)が大前提」(自民幹部)となっており、「もし、自民が単独過半数を大きく割りこんだり、自公で過半数割れとなった場合は、首相退陣論も浮上し、政局は大混乱となる」(政治ジャーナリスト)とみられるだけに、石破首相にとって週明け以降投開票日までの3週間は「トップリーダーとして、決死の覚悟で国民に訴え続ける“背水の陣”での戦い」(自民長老)となることは間違いない。 

 

泉 宏 :政治ジャーナリスト 

 

 

 
 

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