( 220701 ) 2024/10/10 15:03:48 0 00 (c) Adobe Stock
石破茂首相(自民党総裁)は10月27日投開票の衆院選で、派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題に関与した萩生田光一元政調会長ら12議員を党公認候補としない方針を打ち出した。不記載が確認された議員・支部長は比例代表への重複立候補を認めず、問題決着を急ぎたい考えだ。ただ、党内には「二重処分だ」「旧安倍派を狙い撃ちにしている」などの不満が充満する。経済アナリストの佐藤健太氏は「結局は党内の主導権争いに過ぎない。衆院選で大幅な議席減があれば『石破おろし』の号砲が鳴るだろう」と見る。
「今度の衆院選には、私は出馬しない方が良いと思っています」。石破首相が比例重複を認めないとの方針を打ち出した10月6日、首都圏選出のある自民党中堅議員は先輩議員にこう伝えた。この議員は2021年の前回衆院選で野党議員に敗れ、比例復活を果たしている。次期衆院選でも敗北すれば比例代表での“救済”がないため、落選となるからだ。自民党内の動揺は激しく、他にも「出馬辞退」を検討している議員は少なくない。
自民党は4月、裏金問題で不記載が確認された議員ら85人のうち39人を処分した。旧安倍派の幹部だった塩谷立元文部科学相と世耕弘成元参院幹事長は離党勧告となり、塩谷氏は政界引退を表明。離党した世耕氏は次期衆院選に無所属で和歌山2区から立候補することになった。
石破首相が示した公認方針に基づけば、安倍派幹部だった下村博文元文科相、西村康稔元経済産業相(党員資格停止1年)、高木毅元国対委員長(同6カ月)に加えて、政治倫理審査会に出席せず説明責任を果たしていないという理由から党役職停止1年の処分を受けた萩生田氏や平沢勝栄氏、三ツ林裕巳氏の計6人が「非公認」となる。
前回衆院選(2021年)の結果を見ると、下村氏(東京11区)は得票率50.0%、西村氏(兵庫9区)は同76.3%、高木氏(福井2区)は同53.9%、萩生田氏(東京24区)は同58.5%、平沢氏(東京17区)は同50.1%、三ツ林氏(埼玉13区)は同51.6%だ。これまでは選挙に強いと評されてきた面々なのだが、「自民党公認」という金看板を失えば結果は異なるかもしれないと焦燥感は隠せない。
思わぬ形で石破首相からのパンチを受けたのは、この6人以外で「党役職停止」「戒告」などの処分を受けた議員たちと言える。引退表明した議員を除き、「役職停止」の7人や「戒告」の9人も、石破執行部が説明責任を果たしていないと判断すれば非公認となる方向だ。最終的には選挙区情勢や地元の声などを踏まえて決定される見通しだが、「岸田文雄総裁時代の処分に加えて、今回の非公認・比例重複認めずという方針は『二重処分』だ」(自民党中堅)と怨嗟の声が漏れる。
対象者には、自民党最大派閥だった旧安倍派のメンバーが多い。参院議員から東京7区で鞍替え出馬を目指す丸川珠代元五輪相や比例単独候補として議員バッジをつけた人々には深刻な問題だ。不記載があった議員・支部長の比例重複を認めないということになれば、最大で40人近い議員が退路をたたなければならなくなる。
だが、石破首相の周辺は「比例復活の道が閉ざされたら立候補しないというのは、議員として格好悪いよね」と強気だ。首相就任の前後から「発言がブレた」「言っていたことと違う」などと批判されていたことを踏まえ、世論は味方になってくれると読む。「自民党内は蜂の巣をつついたようになるだろうが、すぐに衆院解散がある。国民からの拍手喝采があれば党内批判は怖くない」(周辺)というのだ。
思い出されるのは、2005年の「郵政選挙」だ。当時の小泉純一郎首相は「改革の本丸」と位置づけた郵政民営化関連法案が否決されたことを受け、衆院解散に踏み切った。造反した自民党議員の選挙区に“刺客”を放ち、「国民に直接聞いてみたい」などと小泉劇場と呼ばれる構図を生み出した。結果、自民党の獲得議席は296という圧勝となった。
もちろん、小泉元首相と今回の石破首相による方針は全く異なる。郵政民営化推進の賛否はあれど、小泉氏は自らの信念として、政策を強力に推進するために解散を断行した。だが、石破首相にはそれらがなく、首相就任前に言及していた「アジア版NATO」「日米地位協定の改定」「憲法改正」といった持論は所信表明演説で封印し、信念や政策の軸で自民党内が“分裂”しているわけでもない。
今回は「刺客」を放つわけではないとしているが、これでは「4月の党処分で終わっていることなのに、ゴールポストを動かして旧安倍派議員を潰すために石破首相が考えたもの」(自民党閣僚経験者)といわれても仕方ないだろう。世論の支持を期待するという首相周辺だが、すでに野党からは「不記載があったのは80人以上。全員を対象にせず、中途半端な感が否めない」といった追及もなされている。
郵政選挙には、小泉首相に「旧田中派支配」を壊す狙いがあったとされる。石破首相の方針には旧安倍派崩壊の意図も感じ取れる。故・安倍晋三元首相と距離がある石破氏は、史上最長となった安倍政権で干され続け、9月の総裁選でも旧安倍派議員の多くが「非石破」を貫いたからだ。
全国紙政治部記者が解説する。「石破首相が厳しい対応策とした背景には、総裁選の決選投票で争った高市早苗前経済安全保障相を旗頭に旧安倍派議員が『反石破』で動きだそうとしていたことがある。総裁選で決着がついたのに『これは、何だ』と。そこで森山裕幹事長や小泉進次郎選対委員長と相談し、思い切った方針を打ち出すことになった」。要は、石破潰しを防ぐための旧安倍派潰しということのようだ。
10月6日に配信されたTBSの「NEWS DIG」によれば、総裁選後に麻生太郎最高顧問のもとを訪れた高市氏に対して、麻生氏は「自民党の歴史の中で3年以上総理を務めた例は7人しかいねえ。俺も菅も1年で終わった。石破はもっと短いかもしれねえ。だから高市、用意しとけ。議員は仲間作りが大事だから、これから半年くらい飲み会に行け」と助言したという。
TBSの取材がどこまで正しいのかはわからないが、高市氏は石破首相からの自民党総務会長への就任要請を固辞し、新執行部と距離を置いている。10月3日には自らを総裁選で支援した議員約20人を都内のホテルに集め、早くも「次」に備えた動きを見せる。旧安倍派に加え、自民党唯一の派閥として残った「麻生派」を取り込むことに成功すれば、高市氏は非主流派と言えども“最大勢力”を確保することになる。
石破首相の真の狙いは、「政治とカネ」問題に決着をつけたいということよりも、党内融和を壊しかねない高市氏の支援議員たちに楔を打つことにあるのだろう。つまり、「高市包囲網」を引き続き構築し、安倍元首相が自分にしたように高市氏を徹底的に干すという意志表示だ。
ただ、今回の判断が石破首相に働くかは現段階で不透明と言える。その理由は、もともと裏金問題で自民党は逆風を受けている。そこで選挙に強い議員を公認しなければ、次期衆院選で自民党の獲得議席はさらに減少する可能性が高い。全国紙政治部記者は「現有議席から30減はあり得る。自民党単独で過半数割れを起こしたら、高市氏はいよいよ倒閣に向けて動き出すのではないか」と見る。
公認されず、また比例重複立候補を認められなかった議員が勝ち残れば、衆院選後に政局となることは想像に難くない。来年には夏に参院選と東京都議選がある。年末の税制改正作業や来年度予算案編成のプロセスを機に「反石破包囲網」が敷かれる可能性は低くない。「石破内閣は来夏までもたないかもしれないよ」と語気を強める旧安倍派議員の1人はこう息巻く。「石破首相は、やはり安倍氏が言った通りのダメダメな人だった。向こうがその気ならば徹底的に抗戦するよ」。
佐藤健太
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