( 220906 )  2024/10/11 00:05:46  
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世耕弘成氏の立候補会見 

 

 石破茂首相が10月9日、衆議院を解散し、事実上の選挙戦が始まった。一方で、自民党は同日、裏金問題に関与した衆院議員12人を衆院選で非公認にすることを決定した。総裁選と同様に衆院選でも「政治とカネ」の問題が大きな争点になると見ての判断だ。 

 

【写真】選挙区内で見た世耕弘成氏と二階伸康氏の“ツーショット” 

 

 自民党の閣僚経験者は、 

「10月初めに自民党でやった情勢調査で、野党がひとつにまとまれば『政権交代もありうる』という結果でした。その危機感から石破首相は解散・総選挙の直前にもかかわらず、裏金議員の非公認に舵を切った。裏金事件で自民党がどれほど信頼を失ったのか。反発している裏金議員には『お前が言うな』という声が党内でも多く聞かれます。反省が足りない」 

 と苦言を呈する。 

 

 そんな状況で、安倍派の大物裏金議員が、参院から衆院へのくら替え立候補を表明し、物議を醸している。 

 

 10月5日、和歌山県田辺市で記者会見し、衆院にくら替えして和歌山2区から立候補すると表明したのは、裏金事件で離党勧告を受けて自民党から去った前参院幹事長の世耕弘成参院議員だ。すでに自民党は同選挙区で、裏金事件の責任を取る形で引退する二階俊博元幹事長の後継として、二階氏の三男、伸康氏を公認しており、保守分裂の選挙となる。 

 

 世耕氏は立候補会見で裏金事件について、 

「心から反省していることをお伝えしたい」 

 と頭を下げたが、説明責任について問われると、 

 

「記者会見を2回開き、質問が尽きるまでお答えをいたしました。さらに政治倫理審査会にも、私は自ら手を挙げて出席をして質問に答えた。特捜部の捜査にも全面的に協力して、不起訴という結論だった」 

 

 と、説明を果たしてきたと強調した。 

 

■「自民党には公認候補と戦った人はたくさんいる」 

 

 世耕氏の会見に先立ち、自民党和歌山県連の中村裕一幹事長は、すでに党公認候補がいるなかでの世耕氏のくら替え出馬の方針を批判して、 

「党の公認候補に対抗して立候補することは重大な党規違反に準ずる行為」 

 と談話を発表。党本部の森山裕幹事長に、世耕氏が当選しても「復党を承認することはない」という言質を取ったことも明らかにしている。 

 

 これについて会見で問われた世耕氏は、 

 

「自民党本部の幹部の中にも、無所属で公認候補と戦って当選した(のちに自民党入りした)人はたくさんいる。和歌山県にもいらっしゃるのではないか。なによりも有権者の意思が示されることが重要だと思っている」 

 

 と、かつて自民党を離れ保守党などに所属していた二階元幹事長へ当てつけるように話し、将来の復党に自信を見せた。 

 

 

■有罪判決の事務局長とは「仕事したこともない」 

 

 裏金事件では、安倍派の事務局長兼会計責任者である松本淳一郎被告に対して、9月30日に有罪判決が言い渡された。松本事務局長は世耕氏がかつて勤務していたNTTの先輩で、政治の素人だったが世耕氏の紹介で安倍派の事務局長になった。 

 

 松本事務局長の判決では、その責任は重いとしつつも、 

〈収支報告書の虚偽記載の前提となるノルマ超過分の処理については清和研(安倍派)会長や幹部の判断に従わざるを得ない立場にあり、被告人自身の権限には限界があった〉 

 とも述べられ、裏金のキックバックには、安倍派の幹部に重大な責任があると指摘している。 

 

 松本事務局長との関係について会見で問われた世耕氏は、 

「会社時代の先輩だったというだけで一緒に仕事もしたことありません。年に1回会うくらいの関係。派閥の事務局長が急に辞めることになって、その後任を会長が探しておられたので、私が候補者の1人としてご紹介をした」 

 とだけ述べ、松本事務局長への気配りもなく、裏金事件に幕引きをしたい心境が透けてみえた。 

 

■「これは戦争だ。なんでもやる」 

 

 世耕氏の会見について、和歌山2区のある自民党県議は憤慨する。 

 

「石破首相が裏金事件のために衆院選でご苦労をされているのに、世耕氏は衆院くら替えだという。自民党にどれだけ世話になったのかわかっているのか。まさに反党行為だ」 

 

 二階氏の後援会幹部に聞くと、 

「二階氏の父、俊博氏は裏金事件で責任をとり、潔く政界引退。一方で裏金事件の中核の安倍派幹部だった世耕氏は、参院議員で給料を最後まで受け取り、衆院にくら替え。まさに和歌山の恥だ。どんなことがあっても、世耕氏を蹴落とさねばならない」 

 と怒りをあらわにし、こう宣言した。 

 

「これは戦争だ。法に触れない限り、使える手はなんでもやる。世耕氏を徹底的にやっつけて、勝つ」 

 

 世耕氏の記者会見後、田辺市の町をまわると、二階氏と世耕氏のポスターが並んで貼られていた家もあった。世耕氏が記者会見前に開催した後援会の臨時集会に来ていた有権者は、複雑な心境を話してくれた。 

 

「和歌山2区では衆院は二階氏、参院は世耕氏と書くのがお決まりだった。それが、今度の衆院選では、どちらか1人に絞れという。今日、私が来たのは、世耕さんが裏金事件で自民党をクビになって行き場がなく、かわいそうやという気持ちがあったから。それと二階家、伸康氏は世襲という点ですね。でも、うちの家族は、『裏金はあかん、二階氏に入れるのがスジ』とケンカになっている。後援会の集まりには、世耕さんに同情してる、という人が割といたが、どちらを応援するか決めかねて、周囲の目もあるので、私のように家族代表で来たという人もいました」 

 

 

■「伸康氏の態度が一変した」 

 

 地元では、自民党が10月初めに実施した情勢調査で、世耕氏がやや優勢で二階氏が追いかける状況だった、という情報が流れ、多くの人が口にした。 

 

 先の閣僚経験者は、こう話す。 

 

「和歌山2区はいずれにしても大接戦だろう。カギは俊博氏の動向ではないか」 

 

 また、前出の自民党県議は、 

 

「当初、二階伸康氏は楽勝ムードだった。でも、世耕氏のくら替えがはっきりして、おまけに情勢調査でやや負けていることも伸康氏はわかって、ハナが高くなっていた態度が一変している。お父さんの俊博氏は、自分の選挙以上に力を入れて戦うと宣言している。これまでの政治生命をかけてでも世耕氏を叩き潰すと意気軒高だ。今回の保守分裂選挙は、過去どこにもなかったような激しい戦いになるでしょう。いや、大変だ」 

 

 と言いながら、こうつぶやいた。 

 

「世耕先生、今からでも出馬とりやめてくれんかな。丸く収まるのに」 

 

(AERA dot.編集部・今西憲之) 

 

今西憲之 

 

 

 
 

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