( 221296 ) 2024/10/11 18:01:48 0 00 佐藤八重治さんが建てた「クロちゃん」の墓=鶴岡市
保護したクマと32年間暮らした男性が鶴岡市上名川にいる。佐藤八重治さん(81)は、親とはぐれた子グマを「クロちゃん」と名付け、自宅内に鉄製のおりを設けて育て、大きくなっても家族同様の愛情を注いだ。クマは昨夏に死に、1年がたった今夏、佐藤さんは裏山に墓を建てた。クマは害獣とのイメージが定着している。佐藤さんは経験を基に、共存を模索する必要性を訴える。
1991年4月15日、佐藤さんは地元猟友会のメンバーと共に、月山ダム上流の山奥で親とはぐれた子どものツキノワグマを見つけた。「保護しなければ死んでしまう」と考え、ナップザックに入れて下山した。クマはメスで、生後2カ月。体重は約2キロだった。
「猛獣は大きくなると飼育できなくなる」と指摘する声はあった。佐藤さんは家族や近所の理解を得て、特注のおりを自宅内に設置した。県から飼育の許可を得て、最後まで面倒を見ることを決めた。名前は、見た目から付けた。
保護直後の「クロちゃん」=1991年4月、鶴岡市(佐藤八重治さん提供)
餌は主にそうめんで、蜂蜜や厚揚げなどを一緒に与えることもあった。おりから出さず飼育し、子グマは2年ほどで体高120センチ、80キロまで大きくなった。腐ったリンゴを与えてしまった時に腕をかまれたが、傷つけられたのはこの一度だけ。自然保護団体を通じてファンクラブもできた。メディアに取り上げられると見学者が相次いだという。
クロちゃんは昨年7月に動かなくなった。人間なら100歳近く。「瞳を見れば癒やされた。かが(妻)を失うような悲しさだ」と佐藤さん。今年8月に建てた墓には「ありがとう」の言葉と月山の姿を刻んだ。
佐藤さんは、以前から講演などを行い、クマとの共存を考えるきっかけを提供することが重要だと考えてきた。「以前は住み分けができていたが、人が山から離れ、今は境界線がなくなった」と話す。クマを知ってもらい共に生きる道を探る。思い出を胸に地道な活動を続けていくつもりだ。
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