( 221496 )  2024/10/12 14:53:04  
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ストレスや不安から突然パニックを起こすことがある強度行動障害。全国に4万人以上いるとされていますが、障害者施設への入所は困難な状況です。家族は、自分たちが老いる前に受け入れ先を決めたいと苦悩しています。 

 

【写真を見る】強度行動障害の息子…受け入れ施設が見つからない 両親の苦悩【報道特集】 

 

■強度行動障害 突然パニックを起こすことも 

 

長野県に住む蒲和美さん(51)と息子・涼太さん(27)。 

 

涼太さんは重度の知的障害がある。コミュニケーションを取ることは難しいが、和美さんは些細な意思表示から息子の思いを感じ取る。 

 

涼太さん「お母さん!お母さん!」 

和美さん「なに?」 

涼太さん「お母さん、お母さん!」 

和美さん「そっちは飲んでいいよ、その牛乳」 

 

普段は家事の手伝いもするなど、自宅で穏やかな生活を送っている。しかし、それが一変する時がある。涼太さんが突然「パニック」を起こすのだ。 

 

和美さん「涼太、もういい加減にして!」 

 

壁や床に何度も自分の頭を叩き付ける。和美さんが必死に止めようとしても収まらない。こうしたパニックを起こすのは、涼太さんが知的障害に加え、「強度行動障害」もあるからだ。 

 

「強度行動障害」とは、自分や他人を傷つけたり物を壊したりするなどの行動が高い頻度で起こる状態を指す。生まれつきの障害ではなく、周りの環境などへのストレスや不安によって生じる。 

 

厚生労働省の調査によると、「強度行動障害」のある人は全国に少なくとも4万人いるとされる。 

 

和美さん 

「1分弱、何十秒で収まるときもあれば、一時間半ひたすらやっている時もあります。抑えても抑えても、もう止まらない、また始まるみたいな。もう相当な力ですね、私も腕が上がらなくなったりとか。抱きかかえるように止めると、このへん(腕や肩)に頭が来てゴンゴンして、あざになったり」 

 

涼太さんは幼少期から「パニック」を起こすことがあり、常に目を離すことができなかった。体の成長につれて力は強くなり、高校生になると抑えきれず、涼太さんがけがをすることも頻繁になったという。 

 

 

「パニック」が起こるきっかけは、涼太さんの場合「時間への強いこだわり」が関係している。 

 

和美さん 

「お風呂入るのが午後5時までには。最近は午後5時までにはあがらないとダメみたいで」 

 

リビングには涼太さんの一日の予定が書かれたホワイトボードがある。 

 

6:45 カメラがきます、さつえい 

7:00 はんぺん やく 

8:10 出発、ゴミすて→みちのえき 

 

こうした予定が少しでも狂うと、その後の行動の見通しが立たなくなる不安からパニックを起こすのだという。一日中、目を配らなければならず、家族の生活は常に涼太さん中心だと話す。 

 

和美さん 

「涼太に合わせた生活に、どうしてもなってしまっているので、自分がどれだけ具合悪かろうが眠かろうが(涼太が起きる)午前3時には起きないといけない」 

 

和美さんは涼太さんのためにいまは仕事をしていない。 

 

夫の竜也さん(46)は整体師で自宅の隣に整体院を開き、すぐに駆けつけられるようにしている。 

 

■施設を探し始め5年…「老障介護」への不安 

 

家族はいま、将来について頭を悩ませている。高齢になった親が障害のある子を介護する、いわゆる「老障介護」になる不安だ。 

 

和美さん 

「私ももう50歳を過ぎているので、この先あと何年くらい(面倒を)みられるんだろうという不安もあります。私も体調が悪いことが今でもあるので、たとえば私が今倒れたら、誰も涼太のことをみる人がいないんです」 

 

そのため、涼太さんが新しい環境に慣れることができる若いうちに、家を出て暮らせる「施設」を探している。しかし、「強度行動障害」があるため、受け入れ先を見つけるのは困難を極めているという。この日も施設に入所できるか、電話で問い合わせた。 

 

和美さん 

「入所できる施設を探していまして。かなり強いパニックが起きてしまうので、私一人では抑えきれないという状態」 

 

和美さん 

「この施設が通りの激しい道路の近くにあるから『パニックで飛び出したりすると対応できない』と言われた」 

 

竜也さん 

「前も道路沿いで断られたもんね」 

 

 

探し始めて5年、40か所以上見学に行ったというが、涼太さんが入所できる施設は見つかっていない。背景には障害者施設が受け入れの限界を超えている現状がある。 

 

■障害者に寄り添う入所施設 待機者は130人  

 

大阪府岸和田市にある障害者の入所施設「山直(やまだい)ホーム」は、40人の入所者のほとんどが最も重い知的障害と「強度行動障害」がある。山直ホームでは48人の職員がシフト制で24時間、入所者に寄り添った支援を続けている。 

 

ホームでは「強度行動障害」のある人も穏やかに暮らせている。 

 

50代の両親と自宅で生活していたAさん(22)。周囲の人を叩くなどの激しい「強度行動障害」があり、そのたびに母親はAさんの気持ちを少しでも落ち着かせようとドライブに連れ出したという。しかし、それがいつしか強いこだわりとなった。 

 

母親と当時通っていた作業所との連絡帳には… 

 

「久々ペースが崩れドライブ長め 16:00~1:00」 

「昼前から急きょドライブ おさまらず、18.5時間、370キロ」 

 

来る日も来る日もドライブをせがみ、断ると手をあげた。 

 

このホームに来て2年半、施設がAさんの刺激になるものを遠ざけたため、「パニック」を起こすことはほとんどなくなったという。 

 

職員 

「自宅だと気になるものがいっぱいある。自宅にいるときはドライブによく行っていたので、ホームに来た時はなるべく車が見えない居室で、本人の気になる物をなるべく視界から避けるようにした」 

 

今では、はさみを器用に使って作業もこなしている。ただ、この施設に入所を希望する待機者は現在130人にも上っていて、新たに受け入れてもらうことはかなり難しい。 

 

48歳のTさんも重度の知的障害に加え、強度行動障害がある。入所できたのは、差し迫った事情があったからだ。 

 

もともとは自宅で73歳の母親が、1人で世話をする「老障介護」状態だったという。 

 

ところが2年前、母親が突然、救急搬送された。診断は「肺がんの疑い」。息苦しさで声も出せない中、身寄りが一切いない母親は、地元の相談支援事業所の職員に「娘の今後を託したい」と筆談で伝えた。 

 

 

せんなん生活支援相談室 嵯峨山徹子さん 

「筆談で部屋のここに銀行のカードが入っていますとか。(娘の)行き先が見つからない中で、本当に無理してここまで生活されていたんだろうなと思う」 

 

搬送の5日後、母親は亡くなった。Tさんが一人取り残されることになると、職員から話を聞いた山直ホームは、当時も入所を希望する待機者は100人を超えていたが、優先してTさんの入所を受け入れた。 

 

Tさんは施設で暮らす中でも、時折「パニック」を起こすことがある。 

 

この日は散歩をしていると、突然、道端でサンダルを脱ぎ捨て、横になってしまった。職員2人がかりの声かけで、次第にTさんは落ち着きを取り戻した。 

 

■入所施設「限界」 国の支援方針は 

 

「強度行動障害」のパニックに対応するためには、専門的な研修を受け、障害についての知識を持った職員が数多く必要だが、現状、多くの施設では足りていない。 

 

施設の代表は、国が先導して入所施設の充実に力を入れてほしいと訴える。 

 

山直ホーム 叶原生人 施設長 

「一施設だけの頑張りでは限界がある。待機者については、国が施策として(入所施設の数を)充実させることが根本原因の解決につながると考えます。(強度行動障害の場合)特別に配慮した支援、居住空間が必要なので、そこを兼ね備えて準備することがなかなか難しい」 

 

一方、国は障害者が本人の望む暮らしができるようにと、地域での受け入れを進めてきた。これに伴って入所施設の数は減少し、利用者も5年前より5000人以上少なくなっている。 

 

しかし、一般住宅で少人数で暮らすグループホームなど、地域での受け入れも広がっていないのが現状だ。 

 

障害者福祉に詳しい専門家は「特に『強度行動障害』がある人は、入所施設に比べ職員が少ないグループホームでは、より受け入れにくい」と指摘する。 

 

佛教大学 田中智子 教授 

「グループホームは一般住宅に近い生活様式で、共同生活の側面があるので強度行動障害のある人や支援ニーズが高い人たちを支える難しさがある。やはり入所施設を含め、選択肢を充実させていくことが必要かなと思います」 

 

 

 
 

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