( 221991 )  2024/10/13 17:41:48  
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ノルウェーの岸壁で釣れたサバ(写真:筆者提供) 

 

 水産資源管理の進むノルウェーの岸壁で釣りをしてみました。すると最低でも400~500グラムはある立派なサバが釣れました。日本の防波堤などでもサバは釣れます。しかしながら大きなサバが釣れることは少ないのではないでしょうか?   

 

【写真】ノルウェーサバは綺麗な身をしている 

 

■日本と違って沿岸で大きなサバが釣れる理由 

 

 岸壁のはるか沖合では、大型の巻き網漁船がサバ漁をしていました。漁獲されるサバは平均で400~500グラムはあります。100~200グラムといった小さなサバは、漁業者が獲るのを避ける仕組みがよく機能しています。資源的にも経済的にも悪いという意識があるので、小サバが漁獲されることはまずありません。 

 

 沖合で小さなサバまで一網打尽にされてしまえば、岸壁で大きなサバが釣れる確率は極めて低くなります。一方で、小さなサバを獲らなければ、成長して大きくなるだけでなく、産卵する機会を得て資源はサステナブルになっていきます。そして沿岸でも沖合でも大きな魚が釣れ続けることになるのです。 

 

 サバに限らずどの魚種も同じで、小さな魚をたくさん獲ってはいけないのです。よく考えれば当たり前のことです。ところがそうなっていないところに、日本で魚が消えていく問題の本質が隠れているのです。 

 

 上の写真は、釣ったばかりの鮮度の良いノルウェーサバです。肌がきれいに光っています。ノルウェーで水揚げされるサバは、ほぼ全量鮮度が良いです。漁獲されたサバは0からマイナス1度くらいに冷却された、海水が循環するタンクに保存されてから水揚げされます。水揚げ時の魚体の温度も同様でよく冷えています。 

 

■ノルウェーサバがブランド化できた事情 

 

 日本でノルウェーサバがブランド化しているのは、脂がのっていることはもちろんですが、鮮度が良いことも大きな理由です。以前は同じ欧州で水揚げされるサバでも、ノルウェーの魚の扱いは一段上でした。 

 

 筆者はアイルランド、イギリス、デンマークをはじめ、同じ大西洋サバが水揚げされるEU各国のサバも現場でたくさん見てきました。今では遜色がないほど各国も鮮度が向上しつつあります。 

 

 しかしながら、2000年以前は魚が十分に冷えていなかったり、水揚げ後の管理も温度管理が甘かったりで、ノルウェー産以外は日本向けの基準に適さないというか、輸入した場合は品質に対してクレームがつくロットが少なくありませんでした。 

 

 

 大西洋のサバ漁では、EU各国とも漁業者や漁船ごとに厳格に漁獲枠が設定されて、資源管理が効力を発揮してきました。また各国の漁船や生産設備はノルウェー並みに進化しています。その結果、大西洋で漁獲されるサバは全体的に品質が向上しているのです。 

 

■「釣りもの」より「巻き網もの」が高いノルウェーサバ 

 

 ちなみに「巻き網もの」と聞くと「釣りもの」より品質が劣るというイメージが一般的かと思います。ところが意外かもしれませんが、ノルウェーではサバの価格が「巻き網」のほうが「釣り」より高いのです。その違いは「品質」です。マグロと異なり、巻き網で網を狭めていく過程で魚が苦しがって打ち身になっていくということはありません。 

 

 獲りすぎてタンクの中の魚が多くなり、サバが冷えていなければ品質評価が落ちて価格が下がってしまいます。また大量に水揚げすると価格の下落を招きやすいということもあります。そこで2000トン前後の魚を一度に獲って運べる巻き網漁船であっても、500トン前後以下に一回の水揚げ量を抑えることがほとんどです。 

 

 水産業を成長産業にしているノルウェーでは設備投資が毎年進んでいます。今ではサバの処理能力は1時間に50トン程度が普通です。凍結能力は一日で1000トンを超える、日本とは比較にならない規模の巨大な冷凍工場がいくつもあります。そこで数百キロから数トン単位で水揚げされる釣りサバでは、生産効率が悪くなってしまうのです。 

 

 また、さまざまな漁船が漁獲した釣りサバをまとめて生産すると、品質のばらつきがあって管理が難しくなってしまいます。かえって一度に数百トン水揚げされる巻き網もののほうが、品質は安定しているのです。 

 

 日本でも大きなサバが釣れるようになる方法はあります。釣れるサバが小さかったり、釣れなくなったりしたのは、資源管理の仕方に問題があるからです。ですからそれを変えればよいのです。 

 

 しかし簡単に思えることでも、社会の資源管理に対する「正しい理解が進んでいない」という大きな障害があります。このため、本当のことを言うには「勇気」がいるという、おかしなことになってしまっています。 

 

 

 そして本来するべき「科学的根拠に基づく資源管理」と逆のことが行われ、その結果、日本近海の魚が次々に消えてしまっているのです。 

 

■魚を食べ続けるために必要な4つのポイント 

 

 結果が出ているノルウェーの資源管理を基にして解説すると、以下の4点が必要です。すべて日本では逆です。このため、良くならないどころか、魚が減り続け、漁業間(沿岸漁業と巻き網・底曳きなど)の関係が悪くなっています。 

 

 そして消費者には、小さくて高い魚が提供されるようになってしまいます。このままでは、確実に悪化が進んでいきます。その傾向が随所に出ているのは、生活の中ですでにお気づきのはずです。 

 

 ① 科学的根拠に基づく漁獲枠の設定と漁業(巻き網・定置他)ごと、漁船ごとに漁獲枠を設ける。 

 

 ノルウェーでは獲り切れない量の「サバの漁獲枠」を設定することはありえません。毎年消化率はほぼ100%です。わが国で行われている漁獲枠がターゲットのようになってしまう漁業には未来はありません。唯一クロマグロが回復傾向にあるのは、外圧により漁獲枠がタイトになったからです。 

 

 魚で自主的な管理で結果を出すことはまずできません。全体から見れば極ごく例外的なケースがあったとしても、それを大きく見せるのは誤解を生じます。必ず獲りすぎてしまい、その結果は日本中で見られます。 

 

 魚が減れば広範囲に操業できる大型の巻き網漁船のほうが有利です。しかしながら、結局は獲りすぎてしまい、漁業関係者が自分で自分の首を絞めてしまいます。 

 

 筆者の記事に「漁業者が悪い」とコメントされることがあります。自分が漁業者であったらどうだろうかと考えていただくとわかります。魚を獲ることが漁業者の仕事です。魚をたくさん獲りたいと考えるのはごく当たり前です。漁業者が悪いのではなく、獲りすぎになってしまう制度が悪いのです。 

 

■サバの半分近くは養殖などのエサに使われている 

 

 ② 3歳未満のサバの漁獲を禁止する。混じっても数%という厳しい制限を付ける。 

 

 産卵できる大きさに成長する前に漁獲する「成長乱獲」を止めること。0~1歳の「ローソクサバ」をはじめ、サバの幼魚を大量に漁獲している漁業に未来はありません。 

 

 ③ サバは食用で99%になるようにする。養殖マグロのエサ用枠は別途設ける。 

 

 ノルウェーでは漁獲の99%が食用です。日本では、養殖を主体としたエサに使用する比率が52%(2023年32漁港)となっています。実にもったいないことをしています。エサの比率が増えているのは、食用になる大きさになっていないためです。 

 

 

 幼魚の乱獲が進むことで資源はさらに悪化していきます。養殖マグロのエサには、サバ以外を使ったり、残渣を使ったりすること。サバを使う場合はエサ用の枠を設けること。マグロも大事ですが、資源が少ないのに小サバをエサ用にたくさん獲ってしまっている問題に気づくべきです。 

 

 もちろん、小サバを獲っても問題ないだけの十分な資源があり、資源が持続的になる仕組みになっていれば問題はありません。ただそれは、資源管理が機能する前提の遠い先の話です。 

 

 ④ 漁獲枠の配分は資源が少ない時期は、沿岸漁業に優先配分する。 

 

 沿岸漁業を優先することは国連海洋法やSDGs14でも当たり前のことです。ノルウェーのように沿岸漁業に優しい漁業を目指すことが必要です。 

 

■「日本とは違うので参考にならない」のウソ 

 

 ノルウェーの漁業を知らずに「日本とは違うので参考にならない」といったコメントをネットなどで散見することがあります。ノルウェーの関係者が読むと、いったいどこの国のことか? となります。先入観や偏見で言うのはよくありません。 

 

違うのは資源管理であって、沿岸漁業の漁船が圧倒的に多いといった構造は同じです。自国海域で資源管理が完結しているわけではなく、外国とは90%以上の資源を共有しています。また巻き網漁業に大手は存在しません。 

 

 大事なことは世界に目を向けて、もっと広い視点から世界の成功例を取り入れていくことではないでしょうか。 

 

片野 歩 :Fisk Japan CEO 

 

 

 
 

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