( 221999 )  2024/10/13 17:48:27  
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政治資金問題が最大の争点となる総選挙で、政治家の責任追及や改革の必要性が指摘されている。

経済問題では増税や年金改革に関する議論が必要とされており、その中で金融政策や社会保障制度の改革なども重要なテーマとなっている。

さらに、年金改革が重要な問題であり、2025年の公的年金制度改革が議論を呼ぶべきだとの指摘もある。

(要約)

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(写真:David Mareuil/Bloomberg) 

 

今回の総選挙においては、政治資金問題が最大の争点となるだろう。それ以外に、経済問題について、とりわけ、増税と年金改革についての論議が必要だ。昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第131回。 

 

■政治資金問題が最大の争点 

 

 今回の総選挙の最大の争点は、政治資金問題、つまり、「政治と金の問題」になるだろう。これは、もちろん重要な問題だ。そして、この問題の処理がうやむやのままになっていることについて、国民の不満は大きい。 

 

 裁判で有罪とされたのは、事務局の責任者だけであり、肝心要の政治家の責任は追及されていない。さらに、現在の制度をどう改革するかについても、何も具体的な青写真が提示されていない。 

 

 とりわけ問題なのは、この問題は、単に政治資金の流れの透明化というだけのものではないことだ。その基本には、政治資金に対する課税をどうすべきかという問題がある。 

 

 現在のような広範囲な非課税扱いが正当化できるとは、到底思えない。それにもかかわらず、これについて、何の議論もなく、改革案も出されていない。 

 

 あまりに大きな問題であるために、議論も改革もできないのだろう。しかし、それが許容されるわけではない。政治資金課税の問題が、総選挙で論議されることを望みたい。 

 

 現在、日本が直面している問題は、外交問題、格差や差別の解消、防災や被災地支援、子育て支援、教育問題など、山積みだ。そして、経済問題についても、重要な争点が多々ある。 本稿では、これらの問題のうち、経済問題に絞って論じることとしたい。 

 

 経済問題の範疇においても、金融政策、増税問題、社会保障制度の改革、長期的な成長戦略など、さまざまな論点・争点がある。 

 

 今回の選挙は準備期間が短いこともあり、これらの問題について、本格的な論戦をどれだけ行なえるかは疑問なしとしないが、限られた時間の中で、できる限りの議論が行われることを望みたい。 

 

■異次元金融緩和からの脱却 

 

 金融政策に関しては、アベノミクスにおける大規模金融緩和からの脱却をいかに行うかが問題だ。金融正常化という方向付け自体は規定路線となっているが、それをどのようなスピードで、どの程度まで進めるかという問題がある。 

 

 

 本来、金融政策は日本銀行が決定し実行する問題であり、中央銀行独立性の原則から、それに対して政治や行政が介入するのは望ましくないと考えられている。ただし、金融政策が経済活動の全般にわたって広く大きな影響を与えることから、選挙における論点とすることは問題ではない。むしろ必要とされることだろう。 

 

 石破氏は、自民党総裁選の過程で、アベノミクスの再検討を訴えたが、この路線をどう評価し、どう進めていくかは、総選挙においても問題とされるべきだろう。 

 

 次期政権が避けて通れない課題として、増税と社会保障負担の増加がある。 

 

 まず、防衛費増額の財源を確保する必要がある。これについては、増税で行うという方針が、岸田内閣によって決定されている。この決定を具体化し実行することが、次期政権の極めて重要な責任だ。 

 

 現在のところ、防衛費増額は、増税と防衛強化基金でまかなわれているが、後者は事実上の赤字国債増発による財源調達であり、問題を含んでいる。これについての再検討も必要だ。 

 

 社会保障の負担増は、介護保険料の引き上げという形で、すでに行なわれている。ただし、これで終わったわけではなく、医療保険や介護保険での自己負担の引き上げの問題がある。 

 

 社会保障制度については、これまでは若年者が負担する場合が基本であったが、人口高齢化の進展に伴い、高齢者の負担を引き上げざるをえなくなってきている。これが「全世代型社会保障」と言われることの内容だ。 

 

 まず、こうした方向付けが正しいかどうか、改めて議論されてもよいだろう。 

 

 さらに、高齢者の負担を引き上げていく場合、保険料や自己負担の算定に、現在は金融資産からの所得が適正に反映されていないという問題がある。これは、金融資産所得の課税の問題として、石破総理大臣も自民党総裁選の過程で問題として取り上げた事項だ。 

 

■本来は、年金改革が最大の争点となるべき 

 

 社会保障制度は、あらゆる国民の退職後生活の基本を決める大きな問題だ。2025年は公的年金制度の改革が行われる年なので、本来であれば、今回の総選挙の最大の争点は、年金改革問題となるべきだ。 

 

 

 議論の材料となるデータは、すでに2024年7月に「公的年金財政検証」として公表されている。そこではいくつかの大きな問題が示されている。 

 

 それにもかかわらず、公的年金は制度が複雑で、専門的な用語が多いため、議論は専門家集団の中のものに限られている。 政府の情報提供も十分とは言えない。 

 

 こうした状況は大いに問題だ。以下では、いかなる論点があるかを、分かりやすく示すこととしよう。 

 

 第1に、3号保険者問題がある。これは、サラリーマン家計の専業主婦が、国民年金制度の3号保険者とされ、保険料を支払わなくても基礎年金を受給できることだ。共働き世帯や、夫が国民年金加入の場合と比較すると、優遇されているという批判がある。 

 

 第2に、退職老齢年金の問題がある。年金支給開始年齢である65歳に達しても、働いて給与所得を得ていると、年金の一部を削減されるという制度だ。高齢者の就労が望ましいとされているにもかかわらず、この制度は、高齢者が働き続けることの障害になる。そこで、この制度を廃止すべきだとの意見がある。 

 

 第3に、国民年金の所得代替率低下の問題がある。これは、国民年金の給付が今後減少してしまうという問題だ。非正規就業者の多くは国民年金に加入しているので、今後大きな問題になる危険がある。そこで、いくつかの方法によって、基礎年金の給付額を増やすことが検討されている。 

 

■長期的な成長戦略が必要 

 

 日本経済の衰退がさまざまな点で指摘されている。今後、人口の高齢化がさらに進み、労働力が不足することから、放置すればこの傾向がますます深刻化することが懸念される。そこで生産性を引き上げ、長期的な成長を可能にすることが、極めて重要な課題だ。 

 

 ところが、これまで、満足できる成長戦略が、政府からも野党からも提示されていない。石破氏は、自民党総裁選の過程で地方創生を強調したが、成長戦略としては力不足だ。デジタル化やAIなどの問題も含んだ長期成長戦略が議論されるべきだろう。 

 

野口 悠紀雄 :一橋大学名誉教授 

 

 

 
 

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