( 223366 ) 2024/10/17 16:58:28 0 00 「もしトラ」が現実になったら経済は大混乱?(写真:AP/アフロ)
米大統領選が迫ってきた。ここにきてハリス陣営の勢いは失速気味で、トランプ再選の可能性が高まっている。では、「もしトラ」が現実のものとなった場合、経済にどのよう影響を及ぼすのか。最悪のシナリオを考えてみよう。
【写真】デフォルトが4ヶ月続くと株価の3分の1が吹き飛ぶとの指摘も
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
11月5日の米大統領選挙まで残り3週間を切った。
ハリス副大統領の支持率はこれまで僅差でトランプ前大統領を上回っていたが、米NBCが10月13日に発表した世論調査で両者の支持率は48%と同率となった。
8月に民主党の大統領候補に指名されて以来、旋風を巻き起こしていたハリス氏だが、ここに来てその勢いを失いつつある。
インフレ率は収まりつつあるが、物価水準の高さは相変わらずだ。筆者は「経済面での不満からトランプ氏が再選する可能性が高い」と考えている。
トランプ氏が再選した際の外交・安全保障面での問題点は既に議論されているが、今回のコラムでは「もしトラ」がもたらす国際経済・金融面への影響について述べてみたい。
最初に指摘しなければならないのは、トランプ氏が来年1月に大統領に再び就任するまでの間に「時限爆弾」が爆発するリスクだ。
■ デフォルト(債務不履行)という時限爆弾が炸裂?
米国では連邦債務の上限が1917年以来法律で定められている。長年にわたり、債務上限の引き上げはほぼ機械的に引き上げられてきたが、最近、債務上限引き上げを「人質」にして野党が特定の政策などを求める事例が増えている。
国債が発行できなくなった財務省は会計上のやりくりをして歳出を維持してきたが、やりくりの手段が尽きてしまうと、それまでに発行した国債への元利払いができなくなり、米国はデフォルト(債務不履行)を起こすことになってしまう。
足元の状況を見てみると、連邦政府の債務は昨年1月に限度額(31.4兆ドル)に達したが、昨年6月に「財政責任法」が成立したことで国債の発行に制約が生じていない。
だが、11月の大統領選挙と連邦議会選挙を通じて二極分化がさらに激化することが懸念されるため、来年1月までに債務上限に関する合意を形成するのは困難な状況にある。米国のデフォルトの危機がこれまで以上に高まっているのだ。
米格付け会社ムーディーズは9月下旬「どちらの候補が当選しても米国の財政状況は弱体化する可能性が高い」と指摘し、大統領選後に米国の信用格付けを引き下げることを示唆した。S&Pグローバルは2011年に、フィッチは昨年8月にそれぞれ米国の格付けを最上級から引き下げている。
ハリス氏が当選した場合でも同様の問題が生じるが、政敵が多いトランプ氏が再選した場合の方が債務上限に関するコンセンサス形成ははるかに難しいのではないだろうか。
米国債がデフォルトに陥れば、米国経済にどれほどの打撃を与えるのだろうか。
■ 株価は3分の1が吹き飛ぶとの指摘も
ムーディーズは、デフォルトが4カ月継続した場合、米国の実質国内総生産(GDP)は4%下落し、600万人が失業し、株価は3分の1下落するとしている。
株価を始め好調さを保ち続ける米国経済は、大統領選挙後に大打撃を被る可能性が排除できなくなっている。米国経済が不調になれば、日本を始め世界経済全体が不況に陥ることは間違いないだろう。
トランプ氏の関税政策(中国からの輸入品に60%の関税、その他全ての輸入品に10%の関税を課す)も世界経済にとって悩みの種だ。
「米輸入品の価格が上がりインフレになる」との問題点が指摘されているが、米国民はこの政策に肯定的のようだ。ロイターが9月中旬に公表した世論調査によれば、回答者の56%がトランプ氏の関税政策を支持している。多くの国民が「インフレになっても雇用が守られる方が良い」と判断しているのかもしれない。
だが、トランプ氏の関税政策は国際経済に悪影響をもたらす可能性が高いと言わざるを得ない。筆者の念頭にあるのは1930年6月に成立したスムート・ホーリー関税法だ。
■ 自国産業保護の高関税が世界経済の低迷を招く
この法律は1929年10月に始まった株式市場の暴落のせいで苦境に陥った農民を守るために構想された。その後、対象は農産物以外の工業製品にも拡大され、国内産業全般を保護して恐慌を克服することが目的となった。
数多くの輸入品に高関税が課されたことから、米国の輸入関税(平均)は40%と過去最高水準に上昇した。1931年春に米国の生産と雇用に明るい兆しが見えたことを受けて、フーバー大統領(当時)は「保護主義が正しかった」と胸を張ったが、各国も米国からの輸入品に高関税を課したため、世界貿易が停滞し、米国も含め世界経済全体が悪化するという最悪の結果を招いてしまった。
トランプ氏の政策が実施されれば、米国の関税収入の対GDP比率は1.9%に上昇し、150年前の水準に戻るとの試算がある*1 。 *1:米大統領選、トランプの「経済政策」に潜む重大懸念(10月8日付、東洋経済オンライン)
「1930年代の悪夢を繰り返すのではないか」との不安が頭をよぎる。
トランプ氏が「国内で操業する企業への極端な税制優遇などを進め『製造業ルネッサンス』を実現する」と公約していることも気がかりだ。
米国はこれまで圧倒的な国力とともに新しい国際経済秩序の構築に尽力してきたことで米ドルの覇権通貨としての地位を維持してきた。
だが、米国が偏狭な経済体制に移行し、さらに国内政治の混乱から米国債のデフォルトを引き起こせば、1971年のニクソン・ショック(ドルの金兌換停止)と同様、ドルの国際的信認は地に落ちドルは大暴落しかねない。50年前のように国際金融市場は激しく動揺し、世界経済は極度の不振に陥ってしまう可能性は十分にある。
このように、トランプ氏の復権がもたらす国際経済・金融面への悪影響は計り知れないのではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー 1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。
藤 和彦
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